研究課題/領域番号 |
22K05917
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分41040:農業環境工学および農業情報工学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
岩田 幸良 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農村工学研究部門, グループ長補佐 (70370591)
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研究分担者 |
関 勝寿 東洋大学, 経営学部, 教授 (40313069)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 水分特性曲線 / 非線形回帰 / ヒステリシスループ / 数値解析 / ウイック / マトリックポテンシャルセンサー / Bimodal / マトリックポテンシャル / 肥料成分 / 多孔質体 |
研究開始時の研究の概要 |
土壌水分量とバルクの電気伝導度を同時測定可能なセンサーを大きな間隙径を有する多孔質体で覆い、湿潤域で顕著に発生する多孔質体のヒステリシスループを考慮したモデルを用いて、マトリックポテンシャルを高精度で推定する手法を開発する。また、申請者が開発したRhoadesモデルのパラメータを容易に決定できる手法を用い、多孔質体中の溶液の電気伝導度を測定する。これにより、多孔質体と平衡した周囲の土壌のマトリックポテンシャルと電気伝導度を同時計測可能なセンサー開発の基盤を確立する。
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研究実績の概要 |
昨年度の検討により、施設園芸等で収量を最大化するための水分管理として使われる水分領域でマトリックポテンシャルの測定に適したセンサー開発のための素材として最適な素材としてウイックが選定された。そこで本年度は、これにターゲットを絞り、水分特性曲線のヒステリシスループを詳細に求めた。 実験により得られたデータを用いてヒステリシスループを表現できるZhao (2013, Computers and Geotechnics)の水分特性曲線のモデルを用い、実験結果とモデルにより得られたヒステリシスループの再現性を検討したところ、概ね良好な結果が得られた。Zhao(2013)のモデルは構造が複雑なことから、自動的にパラメータの決定が可能なコンピュータプログラムをPythonで作成し、ウエブサイト(https://sekika.github.io/hystfit/)で公開した。このプログラムを用いて米国農務省(USDA)の土壌物理データベース(UNSOD)のデータをフィッティングしたところ、良好な結果が得られることが確認された。 ヒステリシスループを表現するモデルの探索過程で、黒ボク土等、水分特性曲線から推定される間隙の量が二峰性を表すような形状を持つ場合、従来のモデルでは水分特性曲線の曲線型をうまく表現できないことが明らかになった。この原因が最適なモデルパラメータを決定する際の非線形回帰において本来収束すべき最適解ではないところに解が収束してしまうことを突き止めた。そこで、これを回避するためのアルゴリズムを考案し、これを用いることで従来の非線形回帰手法では不適切なフィッティングしかできなかった場合でも適切にフィッティングできることを確認し、論文執筆(関ら,2023,土壌の物理性)するとともにウエブサイトで公開した(https://seki.webmasters.gr.jp/swrc/)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
施設園芸等の潅水制御で求められる高水分領域のマトリックポテンシャルを高精度で測定するために必要な、TDRやキャパシタンスセンサー等の土壌水分計を覆う多孔質体の素材としてウイックを選定することができた。ウイックにターゲットを絞りヒステリシスループに関する詳細な実験データを取得し、Zhao(2013)のモデルによりヒステリシスループを精度よく再現できることが確認できた。Zhao(2013)のモデルは構造が複雑なことから一般ユーザーにとっては利用が難しいと考えられたが、この問題に対しPythonでプログラムを組むことにより、誰でも簡単に水分特性曲線のヒステリシスループを表現するためのモデルパラメータの決定が可能になった。これらの取組により、本研究課題の主な目的の一つである高水分領域のマトリックポテンシャル測定のためのアルゴリズムの開発が大きく進展したと考えている。 また、当初は想定していなかったが、水分特性曲線の最適なモデルの探索の過程において、日本に広く分布する黒ボク土等の団粒構造が発達した土壌でよくみられる二峰性の曲線型をもつ水分特性曲線は、従来の非線形回帰によるパラメータの決定方法では最適な曲線型を表すパラメータの決定ができない場合があることが明らかになった。これに対し、非線形回帰手法のアルゴリズムを工夫することでこの問題を解決することに成功した。今回ターゲットとして選定したウイックにほかの素材を混ぜることで湿潤な場合のみならず乾燥領域においてもマトリックポテンシャルを測定できるセンサーの開発が実現できる可能性があるが、その際には水分特性曲線の曲線型が二峰性を表す可能性があり、今回開発したアルゴリズムが有効であると考えられる。 以上のことから、本課題の目的を達成するために十分な進展があったと判断できる。従って、本年度は概ね順調に研究が進んだと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
TDRやキャパシタンスセンサー等の土壌水分計をウイックで覆うことでマトリックポテンシャルセンサーを試作し、その性能を検証する。ウイックのセンサーへの覆い方によって出力値が変動する可能性があると考えられることから、どのように水分センサーをウイックで覆えば安定した出力を得ることができるかを検討する。 ヒステリシスループのモデルパラメータの決定については、ウイックについてさらに詳細な実験データを得て、今年度作成したPythonのプログラムを用いて正確にヒステリシスループを表現できるかを検証する。また、マトリックポテンシャルセンサーの製品化を想定し、その際に問題になると考えられるどの程度の実験を実施すればZhao(2013)のモデルパラメータを正確に求めることができるかについて、具体的な検討を実施する。 当初計画ではRhodesモデル等の多孔質体の中の土壌溶液の電気伝導度を推定できるモデルを用いてマトリックポテンシャルに加え、土壌中の肥料成分と相関が高い土壌溶液の電気伝導も計測可能なセンサーを開発するためのアルゴリズムを確立することを目的としていた。しかし、課題代表者が農研機構から九州大学に移籍することになったことで、この研究を推進するための実験データの取得に必要不可欠な土壌溶液を抽出するための遠心分離機が使用できなくなってしまった。これに加え、本課題を進めることにより、二峰性の曲線型をもつ水分特性曲線が既存の数値モデルではうまく表現できないなど、マトリックポテンシャルセンサーを開発する上でも新たな課題が出てきたことから、本課題で有益な研究結果を得るためにはマトリックポテンシャルセンサーの開発に焦点を絞った方が良い。そこで最終年度の来年度はマトリックポテンシャルセンサーの開発を中心に研究を進める予定である。
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