研究課題/領域番号 |
22K05974
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分42010:動物生産科学関連
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
向井 孝夫 北里大学, 獣医学部, 教授 (20229917)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | Enterococcus gallinarum / ミルクオリゴ糖 / ムチン / シアリダーゼ / Bifidobacterium / 硫酸化ムチン / sulfatase / 腸内細菌 / オリゴ糖 / スルファターゼ |
研究開始時の研究の概要 |
本研究課題では,①ヒト乳児期の主要な腸内細菌はなぜ3菌種のビフィズス菌に限られるのか?②この3菌種に限られることで宿主に有益な効果はあるのか?という二つの学術的な問いに対する答えを提示することをめざし,特に母乳オリゴ糖や酸性ムチン糖鎖に存在するGlcNAc-6-SO3やシアル酸を介した乳児型ビフィズス菌の共生関係の一端を明らかにするとともに、同様な現象が他の動物種でも生じているのかを明らかにすることを目的とする。
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研究実績の概要 |
2年目以降の研究においては、ヒト乳児でみられるミルクオリゴ糖やムチン糖鎖を介した腸内細菌叢の栄養共生関係が、哺乳動物で一般化される現象であるか否かを明らかにする第一歩として、ラット哺乳期から分離されたEnterococcus gallinarumにおいて、これまで全く報告されていないシアリダーゼを同定するとともにその役割を明らかにすることを目的とした。 E. gallinarumのゲノムデータベース検索を行い、シアリダーゼ遺伝子の検索を行った。その結果、菌株依存的に14種類のシアリダーゼ様遺伝子が存在し、それらは「Exo-alpha-sialidase」および「Family 16 glycosylhydrolase」の二つのグループに分類できた。また、14種類のシアリダーゼ様遺伝子とAH4株のゲノムとの相同性検索の結果、AH4株のゲノムにはExo-alpha-sialidaseグループのシアリダーゼ様遺伝子に98~100%一致するSiaBと、Family 16 glycosylhydrolaseに96~100%一致するSiaAの二つのシアリダーゼ様遺伝子が確認された。また、シグナル配列とドメイン検索を行った結果、 SiaBは菌体内型酵素であり、SiaAは分泌型酵素であると推定された。さらに、SiaAにはO-アセチルエステラーゼ活性を有していると推察されるドメインが存在し、ムチン糖鎖のO-アセチル化シアル酸に作用する可能性が考えられた。 次いで、大腸菌発現系を用いて組換えSiaAおよびSiaBを作製した。現在、部分精製の段階であるが、組換えSiaBではシアリダーゼ活性が見られず、組換えSiaAで活性が見られた。したがって、E. gallinarum AH4株において主として機能しているシアリダーゼはSiaAであることが示唆された。また、E. gallinarum AH4株のシアリダーゼ活性の局在を調べたところ、菌体内および菌体表面では活性が見られず、培養上清でのみ活性が見られたことからも、SiaAがE. gallinarum AH4株の主なシアリダーゼであることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトミルクオリゴ糖は、乳児腸内のビフィズス菌に選択的に利用されることでビフィズス菌優勢な腸内細菌叢の形成に寄与する。また、ムチン糖鎖も腸内細菌叢の形成に寄与していることが示唆されている。しかし、ヒト以外の哺乳類ではこうした宿主-腸内細菌の共生関係にミルクオリゴ糖が寄与しているという知見はほとんどない。これを解決するために、申請者らはこれまで主要なミルクオリゴ糖がシアリルラクトースであるというオリゴ糖の構成が単純なラットを選び、哺乳期の乳仔ラット腸内細菌叢を解析してきた。その結果、シアリダーゼを産生する細菌群としてE. gallinarumを見出した。本課題では、ゲノムデータベース検索からE. gallinarum には2種類のシアリダーゼ様遺伝子が存在すること、また、それらのうち一方にシアリダーゼ活性が存在する可能性を見出した。本菌が、シアリルラクトース分解物のうち、ラクトースは利用せず、シアル酸のみを利用することをすでに明らかにしていることを踏まえると、本課題でその存在が強く推察されたシアリダーゼSiaAが、ラット哺乳期の腸内細菌叢の確立に重要な役割を発揮している可能性が強く推察された。以上から、おおむね計画通り研究が進んでいるものと評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2年目までの研究において、ヒト乳飲期においてヒトミルクオリゴ糖を介したクロスフィーディングによって3種類のビフィズス菌が優勢になるのと同様に、乳飲期ラット腸内細菌叢において、シアル酸結合オリゴ糖を介したクロスフィーディングによってE. gallinarumとL. johnsoniiの2菌種が優勢になり、その共生にはE. gallinarumのシアル酸利用戦略が重要な役割を果たしているものと推察された。これらを踏まえ、最終年度では、SiaAタンパク質のドメインの構造と機能を明らかにするとともに、シアル酸結合オリゴ糖を介したクロスフィーディングの解明、並びにSiaAの関与の評価を行う。また、ヒトやラット腸内細菌においてミルクオリゴ糖やムチン分解に寄与するシアリダーゼ産生菌が菌叢の確立や維持に重要な役割を果たしていることが推察されたことから、さらに他の動物腸内細菌におけるシアリダーゼ産生菌の存在を明らかにするとともに、シアリダーゼの特徴を明らかにすることを試みる。
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