研究課題/領域番号 |
22K05979
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分42020:獣医学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
杉 達紀 北海道大学, 人獣共通感染症国際共同研究所, 助教 (90745944)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | トキソプラズマ / 潜伏感染 / 遺伝子発現調節機構 / 宿主免疫応答攪乱因子 / トキソプラズマ原虫 / DUAL-Transcriptome / 免疫応答攪乱因子 / プロモーター / トキソプラズマ症 / 宿主寄生体相関 |
研究開始時の研究の概要 |
トキソプラズマ原虫は潜伏感染期において宿主免疫を回避しているが、その分子機序は不明である。本研究では、潜伏感染期特異的な宿主細胞制御を行えない組換え原虫を作出して、潜伏感染特異的な宿主細胞制御が原虫の宿主免疫回避能力に果たす役割を明らかにする。本研究によってトキソプラズマの感染ステージごとの宿主細胞制御による感染ニッチ形成の仕組みが解明され、「宿主の免疫系を活用して潜伏感染原虫を排除する」これまでにない対策手法への道筋が開かれる。
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研究実績の概要 |
トキソプラズマは潜伏感染期において宿主免疫を回避しているが、その分子機序は不明である。本研究では、潜伏感染特異的な原虫エフェクター分子の発現制御が原虫の宿主免疫回避能力に果たす役割を明らかにすることを目的としている。 本年度は免疫賦活因子であるGRA15遺伝子を潜伏感染期にも発現するようにした遺伝子組換え原虫の性状解析を進めた。in vitroのヒト線維芽細胞を用いた潜伏感染モデルでは潜伏感染期においても原虫寄生胞膜に局在するGRA15が検出された。感染細胞のRNAseq解析により、潜伏感染期に発現するGRA15依存で宿主の免疫応答パスウェイの賦活化が生じていることが明らかになった。さらに、in vivoのマウス感染モデルにおいて潜伏感染期におけるマウス脳のRNAseq解析を実施した。潜伏感染期におけるGRA15の発現により免疫系細胞マーカーの上昇が認められ、細胞浸潤を伴う炎症が惹起されていることが示唆された。これらの結果は、潜伏感染期において人為的に発現させたGRA15は機能的であり、野生型原虫が潜伏感染期においてGRA15の発現量を減少させることが、潜伏感染期における宿主免疫応答を防いでいることを示唆している。 他の原虫宿主制御因子も含めて感染期特異的発現制御の果たす役割の解析へと発展させるためには、個々の因子に適した発現量で感染期特異的な遺伝子発現制御が可能となるプロモーターを自在にデザインできることが好ましい。初年度に発見したプロモーター中の遺伝子発現量調整配列箇所候補について、無作為変異を導入した原虫ライブラリを作成した。NGSで取得した発現量レベルと配列との関係性についてDeep Learning手法を用いて機械学習させたところ、調節配列から発現量を相関係数0.8以上で導出可能である予測モデルを構築できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は当初の計画目標としていた潜伏感染期においての宿主細胞制御が変化した原虫の性状解析を順調に進めている。 In vitroの潜伏感染モデルを用いてGRA15遺伝子を潜伏感染期特異的に発現する組換え原虫の性状解析を進めたところ 、潜伏感染状態で発現したGRA15が機能的であり、潜伏感染期においても免疫系の刺激を達成することが判明した。感染期特異的な制御が潜伏感染期における免疫抑制に影響を与える有望な候補因子として実験的に検証できた。そこで本来最終年度に実施予定であったマウス感染モデルを用いてGRA15が潜伏感染期に発現抑制されていることの影響を感染脳のRNAseqにより解析することに着手した。 一方、その他の免疫抑制・賦活候補因子については、感染期特異的発現を達成するための自由自在なプロモーターデザインのための基礎技術の開発を進めた。ゲノム編集技術を用いた超並列での無作為変異の標的箇所への導入およびNGSを用いた配列モチーフと発現量の相関データの取得に成功し、発現量を自在に調節する配列レパートリーの取得に成功している。これらの知見から最終年度では当初計画を前倒しして解析しているGRA15に加えて、初年度に従来法での作出が困難であったMYR1因子の感染期特異的発現を示す原虫を作出、解析することが当初計画通りに実施可能であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
GRA15の潜伏感染期特異的な発現制御がin vivoの潜伏感染においてどのような影響を果たしているのかについては今年度着手しているとことである。来年度はさらに解析する個体数を増やし、また、潜伏感染後の経過日数を変化させることで、GRA15の影響が潜伏感染期全般にどのように関わるのかを解析する。同時に潜伏感染の成立や維持の指標として感染シスト数、そして病原性の指標としてマウス個体の生死推移も解析する。 潜伏感染時のマウス脳のRNAseqでは宿主遺伝子発現と同時に原虫の遺伝子変動も見ることで、GRA15により変動する原虫因子による宿主応答変動の影響を取得することも考慮する。今年度の予備試験でのRNAseq解析の結果からは原虫のmRNA配列の検出数が少なことから、通常の手法では原虫側の遺伝子発現の解析は困難であることが分かっている。そのため、RNAseqに先立って原虫側のmRNA配列を濃縮もしくは、RNAseqで解析する配列数を増やすなどの工夫を講じることで宿主、病原体のDUAL-RNAseq解析を実施する。 来年度は、今年度に確立した自由自在のプロモーターデザイン手法を活用して、原虫因子のトランスポーターMYR1を潜伏感染特異的に発現抑制する原虫を作出する。この組換え原虫について性状解析を実施することで宿主側に移行する原虫因子全般が潜伏感染期に果たしている役割の解析を進めていく。 また、予備解析の結果より本年度発見した寄生虫の遺伝子発現を自由自在に操作できるモチーフ箇所はトキソプラズマに近縁の寄生虫も保有していることが分かっている。人工プロモーターデザイン手法は潜伏感染モデルのの解析以外にも広く応用可能であると期待できることから、より一般化するために潜伏感染期によらずに発現量の調整が可能であるプロモーターデザイン手法の開発を進める。
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