研究課題
基盤研究(C)
パラミクソ科モルビリウイルス属ウイルスは、宿主動物のSLAMを受容体として免疫系細胞に侵入・感染する。固有の宿主動物以外の動物SLAMを利用する際には、モルビリウイルスの受容体結合蛋白質(H蛋白質)に特定のアミノ酸変異が導入される。通常は、受容体とH蛋白質の強い結合刺激がある場合のみ、膜融合蛋白質(F蛋白質)の構造変化が誘導されてウイルス膜融合が完了する。一方で特定のアミノ酸変異を獲得したF(膜融合亢進型F)は、受容体とHの結合が最適化される前の弱い結合でも膜融合を誘起する可能性がある。本研究では、膜融合の亢進がモルビリウイルスの種間伝播や宿主域の拡大に与える影響について検討する。
昨年度までに麻疹ウイルス(MeV)は、ヒトとイヌのSLAMを発現するVero細胞両者に感染できる一方で、イヌジステンパーウイルス(CDV)はdogSLAM発現細胞にのみ効率的に感染することがわかった。そこで本研究では、CDVがヒト細胞に感染するようになるためには、どのような変化が必要かに今後は注目する。今年度は、まずCDVの野外株として使用すべき分離株の検討を始めた。文献上、CDV野外株はSLAM非発現のVero細胞でも高力価のウイルスを産生して増殖する分離株が多い。これはMeVのワクチン株のように本来自然感染では使用しない受容体を利用する能力をCDV実験室株(野外株)が獲得してしまっている可能性を示唆しており、実験結果の解釈上問題がある。現在利用されているCDV株の多くはVero/dogSLAM細胞で増殖・維持されているが、アクセサリー遺伝子等に変異の蓄積が報告されている。そのため同変異が特定されている、Ac96I株を共立製薬より分与を受けた。今後他の野外株(5VD株)について全長ゲノム遺伝子を決定して、実験室株がそれぞれ新たに獲得している変異を特定・除外して、自然感染を反映するCDV野外株の組換え合成系を確立する。昨年度までにMeVの膜融合を促進するF蛋白質のアミノ酸変異(T461I、N462K)を参考にして、CDV-Fの構造上同部位に位置するアミノ酸に変異を導入して膜融合が亢進されることをfusion assayにより確認した。そこで今年度は、膜融合の促進を定量的に評価することを試みた。しかしながら過去に代表者が確立したMeVの膜融合定量系は、CDV-F発現系に応用すると高バックグランドとなり使用できなかった。そのため、新たに分割型ルシフェラーゼを用いた定量膜融合アッセイを東京大学医科学研究所より分与を受けて、CDV-F発現による膜融合の評価系の確立を試みている。
3: やや遅れている
CDVの野外株として使用されている実験室株は、自然感染を反映しない性質を持つ可能性が判明した。既存の野外株をそのまま使用できないことが判明した。また膜融合の定量アッセイ系を新たに構築、または他研究グループより導入する必要性が判明した。そのため、使用するウイルス株(および株をベースにした組換え合成系)や、評価系の確立から実験を進めることになった。そのため、進展が遅れている。
Ac96I株と5VD株の配列を基にして、CDV野外株合成系の確立を目指す。また分割型ルシフェラーゼを用いた膜融合評価系を用いて、新たに同定したCDV変異の膜融合亢進効果を定量的に評価する。さらに膜融合を亢進するアミノ酸変異を導入した変異型CDV-Fと野生型CDV-Hを発現させて、イヌ以外の動物種のSLAMを発現する培養細胞における膜融合誘導能について検討を行う。加えて、Fに変異を持つ組換えCDVも作製して組換えウイルスを用いた解析も目指す。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 1件)
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