研究課題
基盤研究(C)
哺乳類の生殖腺の性決定の中心となる雌雄の支持細胞(卵胞上皮細胞/セルトリ細胞)の性分化は、生殖隆起の体腔上皮より生じた支持前駆細胞にSRYの有無に基づき開始される雌雄の遺伝子プログラムにより誘導される。一方、性決定後の胎子精巣からセルトリ細胞を除去することで体腔上皮から卵胞上皮様細胞が生じることを我々は見出しており、本研究では、このセルトリ細胞除去精巣における体腔上皮からの支持細胞供給過程について細胞動態並びに遺伝子発現の解析を行う。これにより、セルトリ細胞が正常精巣分化過程の堅牢性を保証する機構を明らかにし、その破綻がもたらしうる性分化異常症の発症機序解明につなげる。
哺乳類の生殖腺発生過程において、雌雄の支持細胞(卵胞上皮細胞/セルトリ細胞)の性決定が精巣/卵巣の運命決定を担っている。生殖腺体腔上皮の増殖により生じる支持前駆細胞の供給は、マウス精巣ではSRYの発現する胎齢11.5日以降は停止するとされているが、性決定後の胎子精巣からセルトリ細胞を除去することで体腔上皮からFOXL2陽性の卵胞上皮様細胞が生じること、これらの卵胞上皮様細胞が体腔上皮から生じたこと、さらにセルトリ細胞から分泌される液性因子のうち、FGF9の添加により卵胞上皮様細胞の出現を抑制することをこれまで明らかにしている。今年度はそれらの細胞の特徴をさらに詳細に解析したところ、正常の精巣の体腔上皮で発現しているNR2F2が、セルトリ細胞を除去した精巣では発現が卵巣のように低下しており、生殖腺実質領域に陰性細胞が連続して続いていること、そのNR2F2陰性細胞集団に体腔上皮下のFOXL2陽性細胞が生じていること、FGF受容体阻害剤の添加培養により、正常の精巣でも体腔上皮のNR2F2発現が抑制されること、一方FGF9添加培養により、正常の卵巣でも体腔上皮のNR2F2発現が促進されることを明らかにした。このことから、セルトリ細胞から分泌されるFGF9は体腔上皮のNR2F2の発現を誘導することで、体腔上皮からの支持前駆細胞の供給を抑制するカスケードが考えられる。一方、生殖腺-中腎境界領域のFOXL2陽性細胞はNR2F2陽性と陰性細胞が混在していること、ステロイド産生細胞マーカーである3βHSD、のちの精巣網などに分化するSupporting like cell(SLC)のマーカーとされるPAX8は共に陰性であることから、中腎隣接領域のFOXL2陽性細胞は体腔上皮下のものとは異なる特徴を有し、かつライディッヒ細胞でもSLCでもない集団であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度予定していた体腔上皮からの支持細胞供給を抑制する因子の同定について、昨年度にFGF9を同定するとともに、FGF9により発現が制御される因子として雄の体腔上皮細胞に発現するNR2F2を候補に挙げることができた。また、体腔上皮下ならびに生殖腺-中腎境界領域に誘導されるFOXL2陽性細胞の特徴についての解析も進めることができた。これらのことから、本研究は計画通り順調に進展していると考えられ、上記の通り自己評価した。
実験1:セルトリ細胞除去精巣における体腔上皮からの細胞動態解析セルトリ細胞除去後精巣における卵胞上皮様細胞の特徴について、体腔上皮下ならびに生殖腺-中腎境界領域にそれぞれ生じるFOXL2陽性細胞について、マーカー遺伝子の発現を進める。実験2:体腔上皮からの支持細胞供給を抑制する因子の同定FGFシグナルの阻害剤を添加した培地での培養により、正常の精巣で体腔上皮のNR2F2発現が抑制されることを本年度明らかにした。今後はFGF受容体以下のどのパスウェイが関わっているか明らかにするため阻害剤添加実験を行うとともに、FOXL2陽性細胞の出現まで誘導できるかを検証する。また、正常の卵巣においてFGF9を添加し、NR2F2が陽性となることから、その後の卵巣上皮の変化について、Lgr5やGng13などのマーカー遺伝子の発現などを確認し、雄化するかを検証する。実験3:体腔上皮からの供給された支持細胞の性的未分化性の検証すでにHsp70-SryトランスジェニックマウスとAMH-TRECK系統マウスの掛け合わせを進めており、セルトリ細胞除去後精巣にSRYを強制発現することで、卵胞上皮様細胞がセルトリ細胞マーカーであるSOX9が発現するかについて検証する。その強制発現のタイミングや方法について条件検討を行う。
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