研究課題
基盤研究(C)
犬の肥満細胞腫は発生頻度が非常に高く、臨床上きわめて重要な悪性腫瘍である。肥満細胞腫において、チロシンキナーゼ(TK)阻害剤による治療では、従来の抗がん剤では考えられない強力な抗腫瘍効果が得られる。一方、TK阻害剤よる治療では、治療経過に伴って腫瘍細胞が耐性を獲得する。現在、肥満細胞腫の治療において、TK阻害剤に代わる次世代の治療薬はなく、またTK阻害剤に耐性を獲得した肥満細胞腫の有効な治療薬も存在しない。本研究課題では、SHP2というこれまで注目されていなかったKIT制御分子を標的とすることで、TK阻害剤に代わる、あるいはTK阻害剤耐性を克服するための治療戦略の構築を試みる。
2022年度の研究において、src homology two domain-containing phosphatase 2(SHP2)阻害剤であるSHP099は変異KITを有するチロシンキナーゼ(TK)阻害剤ナイーブ肥満細胞腫細胞株に対して強い細胞増殖抑制効果を示すことが明らかになった。また、TK阻害剤耐性肥満細胞腫株に対しては、SHP099単独では強い増殖抑制効果は見られなかったが、TK阻害剤と併用することで強い増殖抑制効果が得られることが示された。そこで2023年度は活性化変異であるKIT c.1523A>Tを有しTK阻害剤にナイーブな犬肥満細胞腫株化細胞cVI-MCを用いて、SHP099のKIT/pKITならびに下流シグナル経路(ERK、pERK、AKT、pAKT、STAT3、pSTAT3)におよぼす影響を解析した。cVI-MCは定常状態でKITおよびERKが活性化しており、AKTとSTAT3の活性化は見られなかった。SHP099はcVI-MCのKITリン酸化にはほとんど影響を与えずERKの活性化を抑制した。このことからSHP099はcVI-MCにおいてKIT下流のSHP2を阻害することでERKの活性化を抑制したと考えられた。一方、TK阻害剤ナイーブなcVI-MCでは、TK阻害剤イマチニブおよびトセラニブの効果(KITおよびERKリン酸化の抑制)に対するSHP099の上乗せ効果は見られなかった。SHP099は変異KITを有する肥満細胞腫細胞に対して、TK阻害剤とは異なるメカニズムでERK活性化を抑制し細胞増殖抑制を引き起こすことから、TK阻害剤に代わる新たな治療戦略となる可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
2023年度は主に細胞内シグナルの解析を行った。この結果は、2022年度に得られたTK阻害剤ナイーブ犬肥満細胞腫株化細胞に対するSHP099の細胞増殖抑制のメカニズムを説明できるものと考えられた。このため、おおむね順調に進展していると評価した。一方、TK阻害剤に耐性を獲得した肥満細胞腫細胞におけるSHP099の作用については、条件設定を行っている段階であり結果は得られていない。しかしながら、ある程度の条件設定は終わっており、進捗状況に問題はないと考えている。
2024年度は、主にTK阻害剤に耐性を獲得した肥満細胞腫細胞におけるSHP099の作用について解析を進める予定である。しかしながら、これまでのプレリミナリーな解析から、TK阻害剤に耐性を獲得した肥満細胞腫細胞では下流のシグナル経路に変化が生じている可能性が生じており、TK阻害剤ナイーブな細胞とは異なる解析アプローチが必要かもしれない。それも踏まえた上で、TK阻害剤耐性肥満細胞腫細胞におけるKITや下流シグナル経路の活性化におよぼすSHP099の影響を検討する。
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Scientific Reports
巻: 13 号: 1 ページ: 8512-8512
10.1038/s41598-023-35813-1
Veterinary and Comparative Oncology
巻: - 号: 2 ページ: 1-10
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https://www.nvlu.ac.jp/graduate/002-014.html