研究課題/領域番号 |
22K06039
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分42030:動物生命科学関連
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
福嶋 俊明 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (70543552)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 胎盤 / 細胞増殖 / 細胞死 / NRK / シグナル伝達 / PHLDA2 / 体外受精 |
研究開始時の研究の概要 |
胎盤の発達や機能は妊娠の時期や母体の栄養状態に応じての適切に調節され、これによって胎児の成長が維持される。我々は、これまでに、NRKと呼ばれるタンパク質が胎盤に特異的に発現し、増殖因子シグナルを調節することを示してきた。本研究では、妊娠時期や栄養環境に応じてNRKやその関連タンパク質の量や分子機能が変化し、これによって増殖因子シグナルが変動し、胎盤の発達や機能が調節されることを証明する。一方、体外受精では胎盤の過形成やグリコーゲンの過剰蓄積が起こりやいことが知られている。本研究では、体外受精の胎盤ではNRKを介したしくみがうまく働かず、胎盤の異常が生じることも示す。
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研究実績の概要 |
Nik-related kinase(NRK)は哺乳類細胞の増殖を抑制し、細胞死を促進する。また、生体内では胎盤に特異的に発現して胎盤の過形成を抑制し、分娩を促す役割も果たす。本研究では、NRKやその関連タンパク質の細胞内機能を詳細に解明し、NRKを介した胎盤の発達や機能制御の分子機構を明らかにすることを目指している。 本年度は、まず、NRKが細胞増殖を抑制する分子機構を解析した。NRKのCNHドメインの塩基性配列が哺乳類の祖先で新たに獲得され、この配列を介してNRKは細胞膜と相互作用することがわかった。さらに、細胞膜付近に局在化したNRKはCK2-PTEN-AKT経路を介して増殖因子シグナルであるAKTシグナルを抑制することがわかった。 次に、NRKが細胞死を促進する分子機構を解析した。アポトーシスが起こる際にNRKがカスパーゼによって限定分解を受け、これにより生じたCNHドメインを含む断片がアポトーシスの進行を促進することを確認した。さらに、この作用にはCNHドメインの塩基性配列が必須であった。また、アポトーシス誘導時にCNHドメインと結合する細胞膜タンパク質を複数同定することに成功し、その一部はアポトーシスへの関与が知られていた。 NRK欠損がマウスの胎盤や胎仔の発達に及ぼす影響については、これまでC57BL/6系統で調べてきた。しかし、胎盤の発達異常が胎仔に及ぼす影響を調べるためには「胎盤/胎仔の重量比」がより小さい129系統の方がモデルとして適していると考えた。そのために、NRK欠損マウスを129系統マウスと掛けあわせ、コンジェニックマウスの作製を進めた。 NRK欠損により分娩誘発が阻害されるしくみを解明するために東京医科歯科大学金井教授らと共同研究を行い、NRKは妊娠を維持して分娩を抑制する胎盤性ラクトゲンなどのホルモン産生を弱める働きがあることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
NRKが細胞増殖を抑制する分子機構の解析では、哺乳類の祖先の段階でNRKが獲得したアミノ酸配列を介して増殖シグナルが抑制されることが明らかとなった。NRKの分子進化と胎盤の進化が軌を一つにして生じており、哺乳類が胎盤を獲得するためにはNRKの分子進化が重要であった可能性が考えられた。当初の計画に加えて、進化の視点も加えた多面的なNRKの機能解析を展開することができた。 また、NRKが細胞死を促進する分子機構については、NRKが細胞生存に重要なAKTシグナルを抑制することによって細胞死が起こりやすくなるしくみを当初想定していた。しかし、想定と異なり、NRKのCNHドメインが細胞膜上に存在するアポトーシス関連タンパク質と相互作用することによって細胞死を促進するという新しい分子機構の存在がわかりはじめた。 マウスの胎盤の解析では、NRKがどのようなしくみを介して分娩を促すかが積年の課題であったが、妊娠維持ホルモンの分泌を弱めることによって分娩を促すという機序を共同研究により明らかにすることができた。 以上から、本年度までに実施した研究によりNRKの分子機能や胎盤における機能の解析が当初の計画以上に進展したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の計画では、まず、NRKが細胞死を促進する分子機構の解析として、CNHドメインと結合する細胞膜タンパク質の中からアポトーシスに関連するものに着目する。候補とした結合タンパク質を発現抑制するとNRKの細胞死促進作用が見られなくなるか、NRKの過剰発現により候補タンパク質の細胞内局在や活性が変化するかなどを調べることにより、詳細な分子機構の解析を進める。 マウスの胎盤の解析では、 NRK が胎盤細胞のAKTシグナルを減弱させることによって細胞増殖を抑制することは確認済みである。今後は、NRKが胎盤細胞のアポトーシスを制御するかを NRK欠損マウスを用いて検討する予定である。また、NRKが胎盤細胞の代謝調節作用(グリコーゲンの合成など)に影響を及ぼすかについては検討が進んでいないので、NRK欠損マウスの胎盤のグリコーゲン量やグリコーゲンシンターゼキナーゼのリン酸化レベルを指標に調べる。さらに、NRKが妊娠維持ホルモンの分泌を弱めるメカニズムを解明するため、これらのホルモンの分泌を担当している細胞を特定し、その細胞の量やホルモン分泌能をNRKが制御していると仮説を立てて検討を進める。 最終的に、妊娠時期や栄養環境などの変化に応じてNRKの発現量や分子機能が変化し、それにより胎盤の発達や機能が緻密に調節されること示していきたい。
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