研究課題/領域番号 |
22K06046
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分42030:動物生命科学関連
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
木村 透 北里大学, 理学部, 教授 (50280962)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 有性生殖 / 配偶子形成 / 性分化 / 減数分裂 / de novo DNAメチル化 / クロマチンリモデリング / SWI/SNF複合体 / 転写因子 / 生殖細胞 |
研究開始時の研究の概要 |
生殖は、生命体を構成する最も基本的な生命現象である。特に有性生殖では、雌雄で異なる配偶子を形成することで次世代を生み出す。本研究では、哺乳類であるマウスをモデルとし、クロマチンリモデリングの観点から、雌雄の性差を生み出す転写制御機構の解明を行う。具体的には、SWI/SNF複合体を生殖細胞特異的に欠損したマウスを用いることで、性特異的な遺伝子発現を支えるヒストン修飾やクロマチンへのアクセシビリティなどのエピジェネティック制御機構、雌雄特異的な発現を誘導する転写因子の同定とその制御機構の解明を行う。
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研究実績の概要 |
生殖は、生命を定義づける生命現象の一つである。有性生殖を行う生物では、雌雄特異的な配偶子(精子と卵)を産生することで、次世代にゲノムおよびエピゲノム情報を継承する。従って、生殖細胞の性分化機構の解明は、生命科学において、特にその中でも、発生生物学・生殖医療において、極めて重要な研究課題である。 哺乳類では、胎仔期において、性的に未分化な始原生殖細胞が、メスでは一次卵母細胞へ、オスでは前精原細胞へ分化することで、性分化が開始する。我々は、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体を欠損したマウスの始原生殖細胞では、雌雄両方の生殖細胞において、この性特異的な分化が正常に開始しないという知見を発表してきた。本研究課題では、「SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体が、メスでは減数分裂関連遺伝子群、オスではde novo DNAメチル化関連遺伝子群からポリコーム抑制複合体を除去し、次いで、これらの標的遺伝子群への雌雄特異的な転写因子のAccessibilityを上昇させることで、性特異的な転写リプログラミングを誘導する」というモデルを検証する。この研究を通して、メスの性分化を推進する転写因子(STRA8やMEIOSIN)が誘導される機構や、これらの転写因子が標的遺伝子(減数分裂関連遺伝子)を活性化する機構を解明する。さらに、オスにおいては、性分化を推進する転写因子がいまだに同定されていないが、その候補となる転写因子の生理的および分子生物学的な機能を解析することで、オスへの性分化を開始させる分子機構を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体が、メスの性分化を開始させる分子機構の一端を解明することができた。メスでは、性的に未分化な始原生殖細胞において、100種類以上の減数分裂関連遺伝子の発現が誘導されることで、一次卵母細胞への分化が始まる。これらの遺伝子には、始原生殖細胞のときに、ポリコーム複合体により転写が抑制されている遺伝子群と、ポリコーム複合体による抑制を受けない遺伝子群が存在する。 本研究では、RNA-Seq法とATAC-Seq法を用いることで、(1) SWI/SNF複合体は、ポリコーム複合体により抑制を受ける遺伝子群のプロモーター領域をオープンな構造にリモデリングすること(SWI/SNF複合体依存的にプロモーターがオープンになる遺伝子群)、(2) ポリコーム複合体により抑制を受ける遺伝子の中には、減数分裂遺伝子群のマスター転写因子をコードするMeiosin遺伝子があること、(3) SWI/SNF複合体は、Meiosin遺伝子の転写活性化を介して、ポリコーム複合体による抑制を受けない遺伝子群(SWI/SNF複合体がなくてもプロモーターがオープンになる遺伝子群)の活性化も制御することを明らかにした。この成果は、英文学術誌に発表し(Ito et al., Genes to Cells 28(1):15-28, 2023)、国内の学会発表も行った。
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今後の研究の推進方策 |
オスでは、性的に未分化な始原生殖細胞において、de novo DNAメチル化関連遺伝子群などの発現が誘導されることで、前精原細胞への分化が始まる。RNA-Seq法とATAC-Seq法を用いた解析から、de novo DNAメチル化関連遺伝子群についても、(1) ポリコーム複合体により抑制を受ける遺伝子群は、SWI/SNF複合体依存的にプロモーターがオープンになること、(2) SWI/SNF複合体が欠損すると、SWI/SNF複合体非依存的にプロモーターがオープンになる遺伝子群の発現が誘導されないことが、予備的知見として得られている。このことは、オスにおいても、SWI/SNF複合体依存的にプロモーターがオープンになる遺伝子の中に、de novo DNAメチル化関連遺伝子群のマスター転写因子をコードする遺伝子が含まれることを示唆している。現在、このマスター転写因子の候補遺伝子をいくつか得ており、今後はこれらの遺伝子を欠損したマウスを作製し、そのマウスにおいてオスの性分化が正常に開始するかどうかを調べることで、オスの性分化を推進する転写因子(群)の同定を試みる。メスにおいては、STRA8やMEIOSINなどのマスター転写因子が既に同定されているが、オスの性分化に関与するマスター転写因子は同定されていないので、生殖細胞性分化の研究において大きく貢献できると考えている。
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