研究課題/領域番号 |
22K06048
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分42030:動物生命科学関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
中西 祐輔 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (20579411)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 好中球細胞外トラップ / アポトーシス / メタボライト / 腫瘍免疫 / 微小環境 |
研究開始時の研究の概要 |
細胞死は個体の成長と発展及び組織の恒常性維持にとって必須の生命現象の1つである。一方、腫瘍組織内は、低酸素などの環境的要因により、一定の頻度でネクローシスと呼ばれる細胞死が起きていることが知られている。しかし、腫瘍組織内におけるがん細胞の内因性細胞死(アポトーシス)の有無および生理的意義については明らかになっていない。本申請課題では①一部のがん細胞は自身にとって有利な腫瘍微小環境を構成するため意図的にアポトーシスを起こしている。②その仲介を担うのは細胞死由来の代謝物であるという仮説に基づき、腫瘍組織内の細胞死の生理的意義をおよびがんの進展における役割を明らかにする。
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研究実績の概要 |
がん細胞の細胞死はがんを治療するうえでの主要な標的である。一方、細胞死には免疫応答を惹起しない内因性プログラム細胞死(主としてアポトーシス)も存在する。しかし、腫瘍組織中のがん細胞が免疫応答を惹起しないサイレントな細胞死を起こしているのかどうか、もし起こしているならその生理的意義は何なのか、全く明らかになっていない。 本研究では、マウス乳がん細胞株である4T1細胞を皮下に移植するモデルで誘導した腫瘍において、特段の処置をしなくてもアポトーシスの指標であるCaspase3陽性細胞が検出されること、腫瘍内には多量の好中球が浸潤して、好中球細胞外トラップ(NETs)を放出していることを見出しており、がん細胞のアポトーシスが腫瘍微小環境に与える影響について解析している。 昨年度の結果から、細胞がアポトーシスを起こした際に、免疫応答を惹起しないように利用している非選択的チャネルであるパネキシン1(Panx1)の欠損細胞株をゲノム編集技術を用いて樹立し、その細胞株をマウスの皮下に移植すると腫瘍サイズが低下することを明らかにした。これらの結果に基づき、Panx1を介して放出されるメタボライトが、腫瘍微小環境の形成、特にNETsに影響を与えていると考え、その検証を行った。 Panx1を介して放出されることが知られているメタボライトのうち、スペルミジンという代謝産物について注目した。Panx1欠損細胞株の培養上清ではスペルミジン量が低下していること、骨髄由来好中球を試薬グレードのスペルミジンで刺激するとNETsが誘導されることから、アポトーシスを起こしたがん細胞がスペルミジンを放出することによって好中球のNETsを誘導し、腫瘍微小環境を構築して腫瘍の成長に寄与していることが結論づけられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
がん細胞がアポトーシスという生理的な細胞死を起こすことにより呼び寄せた好中球にNETsを引きこさせ、がん細胞にとって有利な微小環境を構築するという仮説の検証に取り組んだ。また、検証のために必要なパネキシン1欠損細胞株(Panx1)を得ることにも成功した。 Panx1を介してアポトーシスの際に放出され、かつ好中球にNetsを誘導する因子の同定には時間を費やすことが想定されたが、先行論文の中で挙げられていたスペルミジンというポリアミンに注目して解析したところ、Panx1欠損細胞株の培養上清中には、その濃度が低下していたこと、また、試薬グレードのスペルミジンで好中球を刺激したところ、NETsの誘導が観察されたことから、当該研究はおおむね順調に進展していると判断した。 記述の結果は乳がん細胞株を皮下に移植するモデルである異所性移植モデルで観察された結果である。異所性移植モデルががん研究において有用なモデルである一方、ヒトの病態を反映していないことから、乳がん細胞株を乳腺脂肪パットに移植する同所性移植モデルにおいても、同様の結果が観察されるかについて検討した。その結果、好中球の浸潤は、皮下移植モデルより少ないことが観察された。このことから、細胞死が腫瘍形成に与える影響についても同所性移植モデルと異所性移植モデルで異なる可能性が考えられ、本研究に新たな展開を与えることも予想される。以上のことから、当初の計画以上に進展しているのではないかと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果から、アポトーシスを起こしたがん細胞がパネキシン1を介してスペルミジンを放出して、腫瘍内に浸潤した好中球にNETsを誘導して腫瘍形成に有利な微小環境を構築することが明らかとなった。今後は、薬理的なスペルミジンの阻害が、腫瘍形成の抑制に効果があるかについて検討を進める。スペルミジンは細胞内でアルギナーゼによりアルギニンがオルニチンになり、律速酵素であるオルニチン・デカルボキシラーゼ(ODC)の働きでプトレスシンに変化する。最後にプトレスシンがスペルミジンシンターゼによってスペルミジンに変換される。従って、ODCの選択的阻害剤であるジフルオロメチルオルニチン(DFMO)の投与はスペルミジンの合成を阻害することが可能である。従って、4T1細胞を移植したマウスにDFMOを経口的に接種させ、腫瘍の成長について観察する予定である。 また、ヒトの病態に近いモデルである、乳がんを乳腺に移植する同所性移植モデルにおいては、これまでに異所性移植モデルで観察された結果とは異なる傾向が見られている。乳腺に移植して誘導した腫瘍においても生理的なアポトーシスが起きているのかどうか、スペルミジンが放出されNETsが誘導されているかどうか、NETsは腫瘍形成に影響を与えているかについても検討を進めていく予定である。 加えて、4T1を乳腺に移植するモデルは転移を誘発するモデルでもあることが知られている。このことから、がんにおいて最大の問題である転移につていも同様の視点から解析を進めることにより、がん免疫療法の更なる発展に寄与していきたいと考えている。
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