研究課題/領域番号 |
22K06106
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43020:構造生物化学関連
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
櫻井 一正 近畿大学, 先端技術総合研究所, 准教授 (10403015)
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研究分担者 |
米澤 康滋 近畿大学, 先端技術総合研究所, 教授 (40248753)
白木 琢磨 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (10311747)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | アロステリー / タンパク質 / ガン創薬 / 分子運動性 / NMR |
研究開始時の研究の概要 |
現在多くのガン医薬が存在するが、多くは細胞内シグナル伝達経路タンパク質を競争的に阻害するものである。しかし抵抗性獲得の問題が次々生じているため、従来とは異なる観点でのガン医薬探索が必要である。そこで本課題ではガン細胞特有の糖代謝に関わるENTPD5を新たな標的として着目し、核磁気共鳴およびコンピュータシミュレーションを用いて、複数の構造状態の間の揺らぎを理解し、その動的構造平衡を変化させるアロステリック分子を見つけることで、新たなガン薬剤の発見を目指す。本課題を通して新たな薬剤探索法を提案するとともに、タンパク質の静的構造だけでなく動的構造平衡の理解が機能の制御に重要であることを示したい。
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研究実績の概要 |
本計画の最終的な目標は新たなガン治療薬の創出であり、その阻害標的としてEctonucleoside Triphosphate Diphosphohydrolase 5 (ENTPD5)に着目した。ENTPD5は小胞体内への糖の取込みとその糖鎖による成長因子受容体の品質管理に関わるタンパク質である。ガンではENTPD5の発現が亢進しているため、その阻害によって受容体産生、ひいてはガンを抑制できると考えた。 ENTPD5は正常細胞でも働いているため、ガンによる亢進分だけ細胞増殖活性を弱める必要がある。そこで、活性部位以外に結合し標的の活性を変化させるアロステリック分子の合理的発見を目指す。酵素は開構造と閉構造といった複数構造間の動的平衡にあり、活性はその平衡に依存する。その動的平衡に関わる残基を同定し、それらに結合することで動的平衡を変化させ、酵素活性を操作する物質を創出することを目指す。 開始当初、期間前半(2022~2023年度)では(i)条件変化によりENTPD5がとる各状態の存在比を変化させ、各残基の運動性と構造変化をNMRで検出する、(ii) 報告されているガン関連スプライシングバリアントによる活性変化を調べる、という実験を行い、有意な変化を示した残基を連動変化残基群と同定し、アロステリック機構のメカニズムの考察を目指した。 2022年度は、酵母発現系による標的タンパク質ENTPD5の試料調製法と活性測定法の確立まで行った。2023年度は、発現ENTPD5の糖鎖付加状態が異なることに着目し、その違いによって活性や物理化学的性質に違いが出ることを発見した。そこでその糖鎖付加状態を反映した分子でMDシミュレーションを行い、活性や物性変化のメカニズムの理解を目指した。現在その報告論文を作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
概要で述べたとおり、期間前半(2022~2023年度)は以下の二つの方法で実験的にENTPD5の連動変化残基群の同定を行う予定であった。 (i) 基質やそのアナログの添加、温度・圧力・pHの変動などでENTPD5がとる各状態の存在比を変化させる。そして様々な状態存在比において、各残基の運動性と構造変化を、それぞれNMRの緩和速度と化学シフト変化から調べ、有意な変化を示した残基を連動変化残基群の候補とする。(ii) 先行研究で報告されている各種ガン関連スプライシングバリアントによる活性変化を調べる。これらのスプライシング部位の有無はアロステリック機構を介して活性を変化させていることが考えられるので、その関連性を実験的に調べ、連動変化残基群の候補とする。 上記(i)、(ii)の実験結果とあわせて考察し、連動変化残基群に属す残基を同定し、アロステリック機構のメカニズムを考察する。 2023年度は、(i)ENTPD5の構造安定性や活性の糖鎖修飾依存性を調べ、さらにその分子メカニズムの理解のため、MDシミュレーションによる検証も行った。しかし当初予定の活性の条件依存性は未遂行である。また(想定はされていたが)NMRによる各残基の主鎖信号が測定困難であることが分かったため、ENTPD5とは異なるタンパク質をもちいて、得られるNMRデータから連動変化残基群の同定を可能にする方法論の確立を目指している。(ii)に関しては複数の候補変異体のうち、一部の作製と活性測定まで行った。現在他の変異体を作製中である。これらの変異体でも活性変化及びMDシミュレーションを行い、活性の変異依存性のメカニズムの理解を目指す。 以上のようにENTPD5にはNMRを用いず、活性の変異依存性による検証に方針転換するとともに、NMRを用いた連動変化残基群の情報取得法を、他のタンパク質を用いて確立したい。
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今後の研究の推進方策 |
上欄進捗状況で述べたとおり、期間前半(2022~2023年度)の当初目標(i),(ii)に対する進捗は十分ではないと考えており、それぞれに対し、以下の対策案を遂行する。 (i) 連動変化残基群の同定のために、条件依存的な構造変化を示す残基をNMRで同定することが当初の計画であったが、NMR主鎖信号測定では困難だと判断されたので、ENTPD5に関しては主に変異による活性変化測定をおこない、各残基のアロステリック効果への寄与を調べ、MDシミュレーションやAIによるアロステリックサイト予測アルゴリズムを用いて、その効果の分子メカニズムを提唱する、という方針を取る。一方で、ENTPD5とは異なるタンパク質をもちいて、得られるNMRデータから連動変化残基群の同定を可能にする方法論の確立も目指す。 (ii) 先行研究で報告されている各種ガン関連スプライシングバリアント4種のうち1種のみ作製と活性測定が完了している。残りの3種を継続して作製、活性測定と進みたい。 また、標的タンパク質の運動性変化を引き起こすアロステリック阻害剤の探索、という戦略を考えていたが、先に結合する分子を分子ライブラリからスクリーニングし、その中からアロステリック機構で作動する分子を選択する、という戦略も検討する。具体的には、FBDD型、つまり分子フラグメントライブラリ中から標的タンパク質と相互作用するものを検出し、それらをカップリングした分子を作成することで結合分子を見つけ出す。相互作用フラグメントの同定には、実験的にはフラグメント側のNMRや標的タンパク質側の熱安定測定で行う。フラグメントのカップリングとそのドッキングシミュレーションは、当初の予定の通りの方法で行う。
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