研究課題/領域番号 |
22K06113
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43020:構造生物化学関連
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
西村 光広 神戸大学, 医学研究科, 助教 (40510285)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | ヒトヘルペスウイルス6 / ウイルスリガンド / 中和抗体 / X線結晶構造解析 / 構造生物学 |
研究開始時の研究の概要 |
ヒトヘルペスウイルス6はほぼ全てのヒトが乳幼児期に感染するウイルスであり、小児突発性発疹の原因となる病原体である。本研究ではその感染において鍵となる分子であるgH/gL/gQ1/gQ2に着目し、分子としての構造からその機能を明らかにすることを目的とする。gH/gL/gQ1/gQ2はヒトヘルペスウイルス6が独自にもつ分子複合体でありその立体構造は未だ明らかとなっていない。gH/gL/gQ1/gQ2の構造をX線結晶構造解析及びクライオ電子顕微鏡解析によって解明するとともに、その機能発現において重要となる受容体や抗体との相互作用を立体構造情報に基づき明らかとする。
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研究実績の概要 |
本研究ではヒトヘルペスウイルス6B(HHV-6B)の感染に必須なウイルスタンパク質複合体gH/gL/gQ1/gQ2の原子レベルの高分解能での立体構造解析を行う。HHV-6BのgH/gL/gQ1/gQ2複合体を構成するgH/gLは単純ヘルペスウイルスやエプスタインバーウイルス、ヒトサイトメガロウイルスなどの他のヘルペスウイルスに広く共通する因子であるが、一方でgQ1/gQ2はHHV-6Bと類縁のHHV-6Aにしか見られない独自の因子であり、HHV-6BとHHV-6Aの間でのgQ1およびgQ2の違いがHHV-6BとHHV-6Aのウイルスとしての違いにおいて重要である。これまでの研究ですでにHHV-6B gH/gL/gQ1/gQ2複合体の結晶化およびX線結晶回折測定を行うことで、最大分解能3.8Åの回折データが得られており、HHV-6B gH/gL/gQ1/gQ2複合体の立体構造が明らかとなりつつある。gH/gLに相当する部分と結晶化に用いた抗体Fabについては構造解析が可能である一方、gQ1/gQ2部分についてはタンパク質の二次構造が確認できているものの、構造の決定にはより高分解能のデータを利用した構造解析が必要である。 当該年度においては、不凍液混在下で結晶化させた50個以上の結晶を用いた回折データの統合による高分解能データの取得を試みた結果、最大分解能5Åの回折データを得た。用いた結晶のサイズを考慮すると本方法で高分解能データの取得が可能であることが示唆された。 また継続して結晶化実験およびX線回折測定を実施するために、HHV-6B gH/gL/gQ1/gQ2複合体タンパク質の発現方法について再検討を行った結果、高密度で哺乳動物細胞を振盪培養する方法により、より効率的な試料の調製が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はHHV-6B gH/gL/gQ1/gQ2複合体の高分解能立体構造の決定に向けて、ボトルネックである構造解析試料の調製法において改善があり、一定の成果が得られたと考えられる。哺乳動物細胞の振盪培養による発現系では、比較的少量の培地中に高濃度の目的タンパク質を発現させることができた。発現細胞の維持についても検討を行い、長期的にHHV-6B gH/gL/gQ1/gQ2複合体を調製するためのプロトコルを確立することができた。発現効率の向上は使用試薬量の低減や精製過程の迅速化に繋がり、高純度試料の精製を行う上でも寄与している。 結晶化実験においては構造決定に至るための高分解能X線回折データの収集を行うことができず、その点で依然として改善が必要であることがわかった。当該年度では凍結条件下での結晶回折測定を行うための凍結に伴うダメージを回避するために、結晶化溶液にあらかじめ高濃度の糖を加えた条件での結晶化を実施し、回折測定可能な結晶を得ることができた。本条件下で得られた複数の結晶を用いたX線回折測定ではデータ統合後に最大分解能5Å程度のデータを得る事が出来た。高分解能データの取得に至らなかった理由としては、糖の混在下では結晶を大きく成長させることが困難であったため、比較的小さい結晶を用いたためであると考えられる。糖の影響で結晶のサイズが小さく留まることによる回折能低下の影響を、不凍効果による回折能向上の効果が上回る事が出来なかったことから、高分解能データの取得には結晶の成長を促す条件を最優先とすることが重要であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究結果により、HHV-6B gH/gL/gQ1/gQ2複合体の高分解能結晶構造解析では用いる結晶の大きさが極めて重要であることが示された。したがって一辺が300 μmを超える結晶を多数作製することが求められる。大型放射光SPring-8を利用して回折データを測定し、各結晶から得られたデータを統合することで、最高分解能3.8Åを超えるデータが得られる見込みは高く、最高分解能3.2Åまでのデータが得られれば十分にgQ1/gQ2部分の構造決定が可能であると考えられる。これまでに不凍液非存在下での実験ではそういった大きさの結晶は得られており、継続的な結晶化実験を行うことで50個以上の結晶を作製する。不凍液混在下の結晶化実験では結晶サイズの改善は困難であることが示唆されたため、回折測定のための不凍条件についてはかつての実験を参照する。結晶取得後に高濃度の塩を含む溶液に移行させる方法について、再度の条件検討を行うことで結晶の損傷を最低限に抑える方法を探索する。 これまでは大量の結晶を得るための結晶化実験を行う上で実験試料の安定供給に課題があったが、本年度で確立された振盪培養による高効率なタンパク質試料の発現、精製法によって持続的な結晶化実験が可能となっている。試料調製法についてさらなるプトロコルの最適化を行いながら結晶化実験を継続することで、上述の課題である高分解能回折データの取得を実現する。 これに並行して、最高分解能3.8Åのデータの解析により得られた電子密度マップ上のgQ1/gQ2部分について、近年の先進的な構造予測プログラムの活用によりモデル構造を作製し、モデル構造を用いた構造解析も試みる。
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