研究課題/領域番号 |
22K06131
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43030:機能生物化学関連
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
多胡 憲治 自治医科大学, 医学部, 講師 (20306111)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | Ras / kappaB-Ras / がん / AKT / TRB3 / 細胞内情報伝達系 / がん抑制遺伝子 / Rasファミリー |
研究開始時の研究の概要 |
Ras遺伝子の変異は様々ながんの原因となる。一方で、Rasに類似した構造を持ちながら、機能がRasと異なるアティピカルRasファミリーが数多く同定されている。私達はアティピカルRasファミリーの一つであるkappaB-Rasが新規のガン抑制遺伝子産物であることを見出した。私達はkappaB-Rasによるがん抑制メカニズムを解明するため、kappaB-Rasが形成する複合体を解析し、kappaB-Ras結合タンパク質TRB3を同定した。本研究ではkappaB-RasとTRB3が形成するシグナル複合体による発がん抑制メカニズムに焦点を当て、kappaB-Rasの発がん抑制機構の全容解明を目指す。
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研究実績の概要 |
これまで、トランスジェニックマウスを用いた研究で、私たちは、Rasスーパーファミリーの一つとして報告されたkappaB-Rasが、発癌シグナルに対して抑制的に機能することを明らかにした。しかし一方で、培養細胞を用いた解析においては、kappaB-Rasが、発癌シグナルに対して促進的に機能することを見出している。つまり、kappaB-Rasは、細胞環境によって発癌シグナルにおける役割の方向性が変化するシグナル分子であることが分かってきた。この分子メカニズムを明らかにするため、kappaB-Rasのタンパク質複合体を精製し、質量分析によりkappaB-Ras相互作用分子の同定を試みた。その結果、TRB3、DDB1、SFPQ、NONOなど複数の新規相互作用分子が同定された。その中の一つ、TRB3は小胞体ストレスにより発現誘導されるpseudo-kinaseとして報告されているが、その強制発現は、がん化型Ras変異体による発癌シグナルに対して抑制的に機能することが分かった。一方で、shRNAを用いたTRB3のノックダウンは、がん化型Ras変異体によるマウス線維芽細胞の形質転換を促進した。さらにTRB3は、がん化型Ras変異体により活性化されるPI3K-AKT経路に対して抑制的に機能し、発癌シグナルを制御する分子機構が明らかになった。次に、A549やPANC1など、数種類のヒト細胞株について調べたところ、TRB3の発現はDNAメチル化によって抑制的に制御されていることが明らかになった。A549細胞にTRB3を強制発現すると、細胞の増殖、コロニー形成能が顕著に抑制されることも明らかになった。以上の結果から、新規kappaB-Ras結合タンパク質TRB3はRas-PI3K-AKT経路を抑制する新規のがん抑制シグナル分子であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、当初、kappaB-Rasは、がん抑制シグナル分子として考えており、その機能解析を進めていた。しかし予想と異なり、kappaB-Rasは、細胞環境によって、その機能を変えることが明らかになり、その分子メカニズムの解明が課題となった。しかしながら、本研究により同定されたkappaB-Ras相互作用分子であるTRB3が、発癌シグナルを抑制することが明らかになり、kappaB-Rasの作用機序の一端が明らかになってきた。
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今後の研究の推進方策 |
今後、TRB3以外のDDB1、NONO、SFPQなどのkappaB-Ras相互作用分子群の機能を明らかにし、さらに、これらの分子群とkappaB-Rasとの関係を詳細に調べることにより、発癌シグナルにおけるkappaB-Rasの役割の理解が進むことが期待される。また、Ras遺伝子の変異は多くのがんの原因となることが知られており、本研究の進展により、がんの発生メカニズムに対する理解が進むことも大いに期待される。そのためには、ヌードマウスへのがん細胞移植実験を行い、腫瘍の形成状況を見ること、さらに、患者検体におけるkappaB-Ras相互作用分子群の活性化状態を明らかにすることも必要と考えられる。また、本研究により、抗がん剤の新規標的タンパク質が同定されることも期待される。
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