研究課題/領域番号 |
22K06141
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43030:機能生物化学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小原 圭介 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (30419858)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 細胞膜 / 脂質 / 脂質非対称 / ユビキチン / 酵母 / センサー |
研究開始時の研究の概要 |
細胞膜の脂質二重層では内外層で脂質組成や役割が大きく異なる。その様な「脂質非対称」は細胞の生存に必須である。申請者は、脂質非対称の状態をモニターするセンサータンパク質Rim21を出芽酵母で同定した。本研究では、Rim21が脂質非対称の状態をモニターする分子機構の解明を行う。また、申請者はRim21を利用して、生きた細胞で脂質非対称の状態をモニターできる脂質非対称バイオセンサーの開発も行っており、本研究で有用な知見が得られる。本研究の推進により、脂質とタンパク質の相互作用に関する新たなパラダイムが提供できるほか、真菌感染症の予防や治療に寄与する知見が得られると考えられる。
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研究実績の概要 |
細胞膜の脂質二重層では、内外層で脂質組成や役割が大きく異なる。その様な「脂質非対称」は細胞の生存に必須な基本的な性質である。研究代表者は出芽酵母の細胞膜タンパク質Rim21が脂質非対称の状態変化をモニターして、その乱れに応じて適応反応を引き起こす脂質非対称センサータンパク質であることを報告した。本研究では、Rim21が脂質非対称の状態を感知して、下流のタンパク質にシグナルを発する分子機構の解明を目指している。特にRim21と細胞膜脂質との相互作用、シグナル伝達におけるユビキチンの役割に着目している。 これまでに、Rim21が柔軟性の高いC末端細胞質領域(Rim21C)を触角の様に用いて細胞膜内層と相互作用しながら脂質非対称の状態をモニターすることを提唱している。昨年度は、Rim21Cがホスファチジルセリンやホスファチジン酸など細胞膜内層に豊富に存在し、負電荷を有する脂質に結合することを示した。今年度はAlphaFold2による構造予測を基に、Rim21C部分の再定義を試みた。すると、これまでRim21Cの開始地点と考えていた部分は直前の膜貫通領域の内部に位置しており、実際のRim21Cは、これまでの想定よりも後方から始まることが示唆された。そこで、Rim21C部分を再定義し、GFP-Rim21Cを酵母細胞で発現した。すると、これまでのGFP-Rim21Cと同様に、通常は細胞膜に結合し、脂質非対称が乱れた株では解離して細胞膜に拡散した。その際、これまでよりも細胞膜からの着脱のコンストラストが上昇し、かつGFP-Rim21Cの意図せぬ凝集と思われる鋭い輝点の頻度が減少した。より扱いやすいプローブが出来たと思われる。 昨年度は、Rim21C内のPYモチーフをRsp5が認識してユビキチン化する可能性を示した。今年度は、Rsp5側でRim21の認識に関わると思われる領域を特定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はAlphaFold2の構造予測を基にRim21C領域の再定義を行った。新しく定義したGFP-Rim21Cの挙動から、これまでのGFP-Rim21Cよりも脂質非対称変化をクリアに可視化でき、かつプローブの凝集も軽減されている様子が見て取れた。より真実に近いRim21Cの姿が浮かび上がってきたと考えられ、大きな前進である。この再定義したRim21Cの組換えタンパク質の調整を行うことで、これまで難航している組換えタンパク質の大量精製に挑戦したい。 Rsp5は数多くのタンパク質をユビキチン化する。そのためか、基質認識を行うと思われるWWドメインを3つ有している。そこで、Rim21が発するシグナル伝達にどのWWドメインが関与するかを調べたところ、主に3つめのWWドメインがこのシグナル伝達に関わることが示唆された。Rsp5は多くの基質を持つことから、そのタンパク質全体の機能欠損は多面的な影響を及ぼす(実際にRSP5欠損株は致死である)。Rim21が発するシグナル伝達に関与する特定のWWドメインが同定できたことから、そのドメインのみに点変異を導入することで多面的な影響を最小限に抑え、ユビキチン化がこのシグナル伝達に関与する素過程などが明らかに出来そうである。 この様に、今年度に行ったRim21Cの再定義やRsp5の変異解析では一定の前進が見られた。一方、その成果が顕著に表れてくるのはこれからと考えられる。総合すると「おおむね順調に進展している」と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、Rim21による脂質非対称の感知機構を解明する。再定義したRim21Cの配列をもとに、大腸菌やin vitro転写・翻訳系を用いて組換えタンパク質の調整を行う。大量に精製できた場合には、脂質との結合などの生化学実験に加えて、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析を試みる。収量が小さい場合は、脂質結合の生化学実験を再定義したRim21Cで検証する。 Rsp5の3つめのWWドメインに点変異を導入し、Rim21が発するシグナル伝達の進行をモニターする。これによりRsp5の3つ目のWWドメインによる基質認識が関わる素過程を明らかにする。具体的にはRim21の局在、Rim21のユビキチン化、下流因子の集合(Rim20-GFPでモニター可能)、転写因子Rim101の切断、などを指標にこのシグナル伝達を素過程に分解して、その進行を検証する。また、Rim21のユビキチン化部位の同定も試みる。Rim21は細胞内での存在量が極めて少なく、かつ過剰発現すると凝集する。そこで、二段階精製タグを付加したRim21を内生レベルで発現する酵母を大量培養し、Rim21を活性化した状態で細胞を回収する。二段階精製したRim21を質量分析に供し、ユビキチン化部位の同定を試みる。必要に応じて、ユビキチン化部位の候補となり得るリジン残基のアラニン置換体も用いる。ユビキチン化部位が同定できた場合は、そのリジン残基に変異を導入し、上記の各素過程の進行を調べることで、ユビキチン化が関わるプロセスを明らかにする。
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