研究課題/領域番号 |
22K06154
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43030:機能生物化学関連
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研究機関 | 福岡工業大学 |
研究代表者 |
赤木 紀之 福岡工業大学, 工学部, 教授 (70532183)
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研究分担者 |
上田 篤 東海大学, 医学部, 助教 (90728560)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 多能性幹細胞 / がん遺伝子 / STAT3 / 転写因子 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、(1) がん細胞由来の変異活性型STAT3をES細胞に導入することで今まで観察できなかった新しいシグナル伝達経路の活性化による自己複製機構の構築を見出すこと、 および (2)変異活性型STAT3によってES細胞に新たに構築されたこのシグナル伝達経路をがん細胞に導入することで幹細胞性が獲得されることを解明すること、の2つの研究を計画している。これらの研究から、がん細胞がES細胞の持つSTAT3を介したシグナル伝達経路と同様の仕組みを利用して幹細胞性を生み出す機序を解明する。
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研究実績の概要 |
マウスES細胞は、多能性幹細胞として、サイトカインLIFによる刺激で転写因子STAT3が活性化されることで、未分化のまま自己複製を行うことが明らかになっている。近年、「がん細胞とES細胞の共通点」が注目されており、がん組織にはがん幹細胞が存在する可能性が示唆されている。本研究の目的は、「がん細胞がES細胞の特性を模倣することで幹細胞性を獲得しているのではないか」という仮説を検証し、がん細胞が幹細胞性を獲得する分子メカニズムを解明することである。2023年度はSTAT3のリン酸化の意義について検証を行った。STAT3は705番目のチロシン(Y705)と727番目のセリン(S727)がリン酸化されることが知られている。Y705のリン酸化はSTAT3の二量体化に必要であり、このアミノ酸がリン酸化されることでSTAT3は活性化し、自己複製が維持される。チロシンをフェニルアラニン(F)、セリンをアラニン(A)に置換すると、リン酸化修飾されなくなる。また、セリンをグルタミン酸(E)に置換するとリン酸化状態を模倣した状態になる。本研究では、STAT3のY705F、S727A、S727E変異体を作成し、エストロジェン受容体(ER)を融合させた変異型STAT3ERを作成した。この変異体を発現するES細胞は、LIFの代わりに4HT(4-ヒドロキシタモキシフェン)を添加することでSTAT3ERが二量体を形成する。これにより、変異型STAT3ERのみを活性化し、STAT3のアミノ酸の機能的意義の解明を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野生型STAT3ERに加え、各変異型STAT3ERをマウスES細胞に過剰発現させた細胞株を樹立した。これらの細胞株はLIF存在下で培養すると自己複製が可能であった。これまでの研究から、ERの付いていないSTAT3_Y705FをマウスES細胞に過剰発現させると、ドミナントネガティブとして機能し、LIF存在下であっても細胞は分化することが知られている。この知見を踏まえると、STAT3ER_Y705Fは単に過剰発現させただけではドミナントネガティブとして機能しないことが分かる。興味深いことに、この細胞株を4HTで培養すると、細胞は分化した。これは、STAT3ER_Y705Fを4HT処理により人為的に二量体化を誘導しても、チロシンリン酸化が生じていないため、転写因子としての機能を発揮できない可能性を示唆する。現在、STAT3ER_Y705Fが4HT処理でDNA結合能を維持しているかどうかを検証中である。一方、STAT3ER_S727AおよびSTAT3ER_S727Eを発現するES細胞は、4HT処理により未分化状態を維持できた。増殖能にわずかな差が認められたため、リン酸化セリンの増殖能への関与を検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
上記に示したように、マウスES細胞へ野生型STAT3ERや各変異型STAT3ERを導入し、4HTで培養することで、いくつかの違いが観察された。今後は、これら観察された違いを遺伝子発現レベルで網羅的に比較し、そのメカニズムの解明を進める。また、当研究室にはSTAT3遺伝子破壊ES細胞株がある。この細胞株に変異型STAT3ERを導入し、同様の違いが認められるかを検証する。特に、内在性STAT3が存在しないES細胞を使うことで、変異型STAT3のみの機能を評価できる。この系を用いることで、STAT3のアミノ酸のリン酸化の意義の解明を目指す。
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