研究課題/領域番号 |
22K06159
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43040:生物物理学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
鈴木 俊治 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 客員研究員 (60618809)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | F1-ATPase / ATPase / 結晶構造解析 / ATP合成酵素 / 反応機構 |
研究開始時の研究の概要 |
F1-ATPase(以後F1)は、ATP加水分解のエネルギーにより回転する生体分子モーターで、複雑巨大な分子複合体である。これまでに、申請者が確立したウシF1とヒトF1のX線結晶構造解析システムを用いることにより、ADPやリン酸の結合/解離駆動の回転や構造変化を、かってない詳細さと正確さで明らかにした。本研究課題では更に発展させ、ATP結合や加水分解の素過程の分析を行う。これらの実験により、分子モーターのどの様な協同的な構造変化が回転力を作り出すのか、更にATPの化学エネルギーや生成物の結合解離のエンタルピー的なエネルギーが、どのように力学的なエネルギーに変換されるのか、原子レベルで解明する。
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研究実績の概要 |
F1-ATPase(以後F1)は、ATP加水分解のエネルギーにより回転する生体分子モーターで、複雑巨大な超分子複合体である。申請者はこれまでにウシF1とヒトF1のユニークなX線結晶構造解析システムを確立した。本研究課題ではこのシステムを活用し、分子モーターのどのような協同的な構造変化が回転という力を作り出すのか、ATPの化学エネルギーや基質・生成物の結合解離のエネルギーが、どのように力学的なエネルギーに変換されるのか、原子レベルで解明を行う事を目的とする。 令和4年度の研究では、ヒトF1を中心として新規中間体構造の入手を行った。その結果、リン酸解離過程の中間体構造を入手することに成功した。そしてヒトF1とウシF1の反応中間体構造は、本質的には同じであるが、違いも見られる事が分かり始めていた。 令和5年度の研究では、大量のX線結晶回折データーセットから、更なる中間体構造の入手を行うと共に、前年度得られたヒトF1の結晶構造も併せ、更なる精密化と構造分析を行った。また、これまでの成果を論文としてまとめるために、ウシF1の反応中間体構造の精密化を行うとともに、ウシF1やヒトF1の論文出版に必要な補足実験も行った。 得られたヒトF1とウシF1の構造比較の結果、同じ中間状態と思われる構造でも、回転子の回転角度は僅かに異なっていた。しかしこれは結晶中の分子間相互作用(パッキング)の違いから来ると考えられ、さほど重要ではない事がわかった。むしろ興味深いのは、リン酸解離の多段階ステップ上で、リン酸(実験ではチオリン酸)自体の結合様式、リン酸を支えている残基の構造に、興味深い違いが見られたことである。この違いは、ウシF1で解明できなかった新しい中間体状態の存在を示唆するものであり、重要な結果であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにヒトF1の触媒反応中間体構造を複数入手することに成功し、ウシF1の中間体構造と併せて構造変化を深く議論できるようになった。得られたヒトF1とウシF1の結晶は、結晶学的にも非常に類似性が高く、両F1の結晶構造は深く構造比較できる事も判明した。令和5年度の研究で見られたウシF1とヒトF1の違いは、主に回転子の回転角度の小さな違いであったが、結晶内のF1分子の相互作用(バッキング)の状態により変化しうる事がウシF1研究から判明し、重要な違いではないと判断した。 そして得られたヒトF1の中間体構造の精密化が進み、Rf値が小さくなってくるに従い、他の部分の構造の違いが明らかになった。特に、結合している生成物リン酸(実験ではチオリン酸)の結合様式や、リン酸と相互作用する残基の構造に、興味深い違いがみられた。また、基質結合部位にMg2+とリン酸が結合した状態からの解離し始める段階でもウシF1との興味深い違いがみられる事が、分かりつつある。しかし見いだされた違いは、本質的なレベルでは、これまでウシF1研究から得られた生成物解離のモデルと同じであった。むしろこれまでの触媒反応進行のモデル上で、「なるほど、それでも良いのか」と思える、ミクロなの構造変化の順番や、相互作用や結合様式の多様性などの発見であった。研究の目的が、原子レベルで触媒反応を正確に理解することであるので、目的に即した成果であると言える。 リン酸解離過程以外にも、ウシF1の生成物ADP解離の中間体構造の精密化も行った。ADP解離中間体は非常に分解能が高いが、触媒サブユニットの一部のドメイン構造や、触媒部位の基質部分に複数の中間体構造を含んでいるため、精密化が困難な状況であった。そこで得られたヒトF1の中間体構造も用い精密化を進めた。他にもウシF1やヒトF1の論文出版に必要な、結晶構造解析以外の追加実験も行った。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトF1の中間体構造からは、計画当初予期していた以上に新しい発見が得られることが判明した為、未解析のX戦回折データーセットから、更なるヒトF1の中間体構造の入手を試みる。そして得られたヒトF1とウシF1の中間体構造を併せて比較・分析することにより、哺乳類F1共通の触媒反応機構を取りまとめる。また、計画している触媒反応のターンオーバー中に発生する連続的な構造変化の分析も行い、グローバルな構造変化や、基質結合部位やそれ以外の重要部位も含む局所的な構造変化が、どのように回転力に繋がっていくかも明らかにする。ヒトF1とウシF1という似て非なるものの比較は、これらの分析にも予期しない新しい発見をもたらす事を期待したい。 F1は3000残基近い巨大分子であり結晶構造の精密化に時間を要する上、構造の比較議論に多数の高分解能構造が必要なため、これまで時間を要したが、令和6年度では、得られた結果を論文として投稿する事を優先的に行う。
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