研究課題/領域番号 |
22K06165
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43040:生物物理学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
新藤 豊 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (30449029)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 蛍光イメージング / 遺伝子コード型センサー / ピルビン酸 / ATP / グルタミン酸 / 乳酸 / マグネシウム / エネルギー代謝 / 神経細胞 / 同時計測 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では神経細胞内のエネルギー代謝におけるMg2+濃度変化の役割を、3シグナル同時イメージングにより調べる。Mg2+は我々が以前開発した近赤外蛍光プローブKMG-501を用いて測定する。エネルギー代謝にかかわるATPやグルコース、ピルビン酸、乳酸などの分子は遺伝子コード型プローブを用いて測定する。既存プローブのほとんどはシアン-緑ペアの蛍光を用いているが、本研究ではこれらを橙色-赤ペアに改変した新規プローブを開発することで、シアン-緑ペア、橙色-赤ペア、近赤外の5色による3シグナル同時計測を実現する。同時計測したデータ間の相関からシグナル間の関係を推定し、因果関係の検証実験を行う。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は「ATP産生にかかわる分子2種類およびMg2+の3分子同時計測系を構築し、神経細胞内Mg2+濃度変動がATP産生に与える影響を相関解析から推定し、その因果関係を確かめること」である。2年度目は、初年度に開発した2種類のセンサー(1)橙色-赤色ペアのATPセンサー(2)橙色-赤色ペアのピルビン酸センサーの性能評価及び培養細胞、神経細胞内でのイメージングへの応用を進めた。 (1)ATPセンサーに関しては性能評価が完了し、論文を執筆し、投稿中となっている。必要に応じて追加実験を行い、論文の受理を目指している。 (2)ピルビン酸センサーに関しては、前年度に開発に成功したプロトタイプの性能評価を進めた。精製タンパク質を用いたIn vitroでの評価と共にHeLa細胞に発現させた際の応答を観察することによる細胞内での評価も行った。このセンサーは、in vitroでも細胞内においてもピルビン酸濃度に応じた蛍光タンパク質間のFRET効率の変化が観察された。変化量はそれほど大きくはなかったものの、細胞内であってもピルビン酸濃度に応じた変化は見えており、実用化のレベルには達しているものと判断した。そこで、これとCFP-YFPペアの乳酸センサーを同時に用いたDual-FRETイメージングによる細胞内エネルギー代謝の観察を進めた。実験はHeLa細胞および初代培養のラット海馬神経細胞を対象として行い、細胞内での両分子の濃度変化、エネルギー要求性の違いによるエネルギー代謝経路の使い分け等に言及できる実験結果を得ることに成功している。これらの結果は、細胞の置かれた環境や細胞の状態に違いによるエネルギー代謝戦略の切り替えに言及できる可能性がある大変面白い結果であり、論文発表に向けて準備を進めるつもりである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では2年度目までに本研究計画で使用する橙色-赤色のFRET型センサーの開発を終わらせることになっていたが、実際に細胞内でのイメージングに適用可能な性能を有した橙色-赤色のATPセンサーおよびピルビン酸センサーの開発に成功し、それらの性能評価も一通り終えることができた。そのため新規センサー開発の部分においては当初の計画通りに進めることができていると言える。 一方で、当初の計画では2年目から着手することになっていた3分子同時計測の実験が未だ始められていない。これは、開発した橙色-赤色のセンサーを用いた2分子同時計測の段階で思っていた以上に面白い現象が見えてきたため、その解析に力を注いだ結果である。これは今後3分子同時計測を進めた時にさらに興味深い現象が見える可能性を示唆するものである。研究計画の遂行を遅らせるような何か大きな問題が発生しているというわけではないため、この部分に関しても研究は概ね順調に進展しているものと評価して良いと考えている。2年度目までの成果で遺伝子コード型センサーを用いたDual-FRETイメージングよる細胞内の2シグナル同時計測に成功しており、大変興味深い結果も得ているため、3年度目にはこれにケミカルプローブを用いた細胞内Mg2+濃度の計測を加えた3分子同時計測を行う準備は完全に整っていると評価できる。 以上のことより、研究全体を総合的に見て、おおむね順調に進展していると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの2年間の研究で2つの新規な橙色-赤色ペアの遺伝子コード型センサーを開発した。ATPセンサーに関しては既に論文の投稿を始めているので、本年度は受理を目指して対応を進めていくことになる。ピルビン酸センサーに関してはこれを用いたDual-FRETイメージングで興味深い結果を得ているため、この成果も本年度中に論文執筆を進めていく予定である。 研究計画では3年度目に当たる本年度は、2年度目に実施したDual-FRETイメージングに加えて、近赤外蛍光のMg2+プローブを用いた3シグナル同時計測を行う計画になっている。本年度は、計画通りに初代培養の神経細胞内での3シグナル同時計測を行い、計測したシグナル間の相関関係を調べる。これまでに開発した橙色-赤色ペアのセンサーを用いると、当初の計画で挙げられていたATP、乳酸、ピルビン酸、グルコースの4種類のうち、ATP、乳酸、ピルビン酸の3種類について2種類ずつの同時イメージングが可能となっている。これらの組み合わせにMg2+を加えた3シグナルの同時イメージングを本年度に行う予定である。また、初年度には神経細胞をグルタミン酸で興奮させた際の神経活動と細胞内Mg2+濃度変化の関係を詳細に調べているが、それを基にして神経活動におけるエネルギー消費とエネルギー代謝、Mg2+の関係性を調べていく。観察したシグナル間の相関をそれぞれ詳細に調べ、Mg2+濃度変化がエネルギー代謝に与えるインパクトについてまずは相関関係から推測することを目標に実験を進める。最終的には、相関関係が見えたシグナル間の因果関係の検証実験も行う。 また、3年間の研究を通して得られた知見を発表するために、数件の学会発表を行うことも考えている。
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