研究課題/領域番号 |
22K06201
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44010:細胞生物学関連
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
岡本 和子 広島大学, 両生類研究センター, 助教 (40710265)
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研究分担者 |
奥田 覚 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 准教授 (80707836)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 1分子計測 / 粘弾性 / 転写因子 / 核内動態 / クロマチン / 相分離 / 単一粒子追跡 |
研究開始時の研究の概要 |
クロマチン構造と核タンパク質の動態は密接に関与し、細胞状態を変える。ES細胞においても、分化が進むにつれクロマチンが凝集し、未分化維持に寄与する転写因子Nanog を含む多くの核タンパク質動態を変える。この凝集を制御する要因として、近年核中の粘弾性が着目されている。しかしながら核中を含む細胞内の粘弾性の定量計測系は未熟であり、計測系の開発は不可欠である。これまで、Nanogの分子動態がクロマチン構造に依存し変わることを明らかにしてきた。ここで粘弾性の定量計測系を開発し、粘弾性の変化がクロマチン構造を通して、転写因子動態を変え、最終的に未分化・分化の維持に寄与することを実験的に証明する。
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研究実績の概要 |
胚性幹細胞(ES細胞)の未分化維持機構のなかで、Ground Stateと呼ばれる最も未分化性の高い特別な幹細胞状態を支える分子基盤の解明は、最重要課題の一つであり、転写因子Nanogが未分化性維持に中心的に機能すると示唆されていた(Silva et al.,2009)。 転写因子は、標的遺伝子の転写調節領域に結合し転写開始を調節することにより、標的遺伝子の発現量を調節すると考えられている。この転写調節領域への結合動態は、クロマチンのグローバルな構造に依存し、緩い凝集状態であるユークロマチンでは、転写調節領域が露出し結合しやすく、固い凝集状態であるヘテロクロマチンでは転写調節領域が露出してないため、結合しにくいとされている。 これまで、Nanogは未分化状態にあるマウスES細胞では、転写調節領域での滞留時間が短く、脱未分化が進むにつれ滞留時間が長くなる、という結果を得た。これは、転写調節領域の空間ゆらぎ(拡散性)も転写因子の発現調節機構に関与することを示唆している。これより、空間ゆらぎを変えうるものとして転写調節領域の粘弾的特性を捉える手法と解析法を確立することを目的としている。本年度は、先行研究によって得た1分子計測の結果を用いて粘弾的特性の変化を解析した。粘弾的特性の解析にはNanogに加え、転写調節領域の構造を緩める機能を持つパイオニアファクターと示唆されるOct4の1 分子計測の結果も用いた。MSDで表した拡散の大きさは、ラプラス領域における複素せん段弾性率を一般化ストークス-アインシュタイン関係で解釈することができ、貯蔵弾性率と損失弾性率として見積もることができる。Nanogの結合領域では脱未分化が進むにつれ流動性が減じるものの、Oct4のそれでは、同様の傾向がみられず、2つの転写因子の結合領域は異なった粘弾的特性を示す結果を得た。上記の結果は現在論文投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の第一段階である、転写因子の1分子計測結果から、粘弾的特性を見積もることはできた。さらに核内の粘弾的特性を探るべく本研究課題では、蛍光ビーズを用いた単一粒子追跡法を行う予定で、機器等の選択、マイクロインジェクション手法の確立を試みている。蛍光タンパク質であっても、粘弾的特性や拡散の動態を見積もることはできる。しかしながらタンパク質を用いると、そのタンパク質の結合動態・性質に依存するため、計測出来る領域に制限ができてしまう難点の克服を目的としている。 核内へのマイクロインジェクション法の確立が思うように進まず、進行としてはやや遅れ気味である。現在まではマウスES細胞を用いて試みており、細胞の性質の点からマウスES細胞は比較的核が大きい細胞種でありマイクロインジェクションによるビーズの核内への導入が、比較的容易に思えたものの、ダメージには弱く安定した計測ができていない。またマイクロインジェクション法は比較的修練の必要な実験技術である。今後は他種のモデル細胞も利用し、ビーズ導入の手法を確立させる予定である。また、弾性率を見積もる方法は、おおよそ確立している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、細胞内にビーズを導入する系を確立しようとしている。これまでの実験経緯に基づき、マウスES細胞を用いていた。しかしながら手法の確立には至っていない。そこで、他の培養細胞株等を用いることを検討している。また比較的マイクロインジェクション法が広く用いられている実験対象として、モデル動物の受精卵が挙げられる。ゼブラフィッシュ、カエル、イモリなどマイクロインジェクション法を利用しているモデルは多数ある。 手法の確立を目指すべく広く動物細胞・受精卵を検討し、熟練者の教えを請う予定であり、現所属には熟練者が多く在籍していることもあり、容易にアドバイスを頂戴できる環境である。また導入が出来た際には、最適フレームレート、蛍光プローブの褪色の計測、生細胞ゆえに起こるXY位置のズレを補正を加味した観察プロトコルを作りあげる予定である。
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