研究課題/領域番号 |
22K06206
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44010:細胞生物学関連
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
岡田 太郎 神戸大学, 医学研究科, 准教授 (80304088)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | αシヌクレイン / S1P受容体 / リソソーム / 逆行性輸送 / カテプシンD / 神経変性疾患 / シヌクレイノパチー / Gqタンパク質 / パーキンソン病 / スフィンゴシン1リン酸 / スフィンゴ脂質 / シグナル伝達 |
研究開始時の研究の概要 |
パーキンソン病やレビー小体型認知症を含むシヌクレイノパチーと総称される疾患群の病態において中心的な役割を担っているのはαシヌクレインであり、罹患神経細胞内で異常凝集し、レビー小体を形成する。一方でαシヌクレインは神経細胞外にも存在し、細胞外αシヌクレインが病変伝播を引き起こす可能性が指摘されているものの(Braak仮説)、そのメカニズムは不明である。本研究では、細胞外αシヌクレインによりパルミトイル化が阻害される神経細胞内のタンパク質を網羅的に同定し、シヌクレイノパチーに対する新たな治療戦略の創出を目指す。
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研究実績の概要 |
パーキンソン病をはじめとするシヌクレイノパチーと呼ばれる疾患群においては,神経細胞内にαシヌクレインを主成分とするリビー小体が沈着する。このことから,本疾患群におけるαシヌクレインの役割については数多くの研究がある。一方で,神経細胞外のαシヌクレインが病変を伝播するというモデルが提唱されているものの,その詳細については明らかでない。 本研究は,この細胞外αシヌクレインによる病変伝播メカニズムにおけるスフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体の関与を明らかにし,さらにその知見に基づいた新規治ストラテジーの創出を目指すものである。特に,S1P受容体の脂質修飾であるパルミトイル化をαシヌクレインが抑制することを見いだしていたことから,αシヌクレインの真のターゲットはパルミトイル化酵素であるとの仮説のもとで研究を進めている。 今年度の研究により,神経細胞内に取り込まれてearly endosomeに達したαシヌクレインが,局所のS1P受容体の阻害を引き起こし,これにより細胞内小胞輸送の障害が引き起こされることが初めて明らかとなった。我々はこれまでにαシヌクレインがS1P受容体のなかでもS1PR1型受容体を阻害することを報告していたが,細胞内小胞輸送,特にエンドソームからトランスゴルジネットワークへのいわゆるレトログレード輸送において重要な役割を果たしているのはS1PR3型受容体であり,αシヌクレインがこのS1PR3型受容体を阻害することについても,初めて見出した。これらの成果は,学術誌に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神経細胞内に取り込まれてearly endosomeに達したαシヌクレインが,局所のS1PR3受容体の阻害を引き起こすことを明らかにしたが,この結果どのようなメカニズムで細胞内小胞輸送の障害が引き起こされるのかについて検討を進めるなかで,S1PR3→三量体型Gタンパク質であるGqの活性化→ンパク質キナーゼであるカゼインキナーゼ2の活性化→リソソーム機能において重要な役割を担うマンノース6リン酸受容体の運搬を制御するPACS-1のリン酸化→マンノース6リン酸受容体の細胞内小胞輸送という経路を見いだした。 我々はαシヌクレインによるシヌクレイノパチーの病変伝播機構という観点でこの新規情報伝達経路を見いだしたが,この発見は細胞生物学的にも重要であり,この情報伝達経路に焦点を絞った論文について,現在査読対応中である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに,細胞内エンドソーム上のS1PR3受容体がGqと共役してカゼインキナーゼ2を活性化し,PACS-1をリン酸化,これによりリソソームへのタンパク質輸送を担うマンノース6リン酸受容体の輸送を制御するという新たな細胞内情報伝達経路を見いだした。細胞外αシヌクレインは神経細胞内に取り込まれ,エンドソーム上のS1PR3受容体を阻害することで,結果としてリソソームへのプロテアーゼを始めとするタンパク質輸送を障害するものと推察される。そこで次のステップとして,このαシヌクレインの阻害効果を「キャンセル」する方法の開発に着手する。αシヌクレインによるS1P受容体の阻害には,糖脂質であるガングリオシドとの結合が必要であることを見いだしており,糖鎖部分が多種多様であるガングリオシドのうちでガングリオシドを同定し,その糖鎖部分でαシヌクレインの作用を拮抗できる可能性について検討を行う。もしこの試みが成功すれば,シヌクレイノパチーの新規治療薬の候補として提案することができるはずである。
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