研究課題/領域番号 |
22K06207
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44010:細胞生物学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
千葉 秀平 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (60572493)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 一次繊毛 / トランジションゾーン / 繊毛病 / 膨張顕微鏡 / ゲノム編集 / 超解像イメージング / GPCR / 繊毛内輸送 / 超々解像イメージング / 膨張顕微鏡法 / 超解像顕微鏡 |
研究開始時の研究の概要 |
生体内に存在するオルガネラの多くが光の回折限界である200nmと同等またはそれ以下のサイズである。そのため、一般的な落射蛍光顕微鏡や共焦点顕微鏡でサブオルガネラスケールの分子の挙動や配置を正確に捉えるのは困難である。本研究は超解像顕微鏡ならびに試料超解像化技術である膨張顕微鏡法を併用することで、繊毛の区画化において中心的な役割を担うことが知られるわずか250nm四方の狭小空間であるトランジションゾーン(TZ)について、その構築様式ならびに繊毛の機能的な区画化に果たす役割を明らかにすることを目的とする。本研究により、TZの破綻に起因する各種繊毛症の発症メカニズムが明らかになることが期待される。
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研究実績の概要 |
一次繊毛は構造を被覆する繊毛膜に特異的に局在する受容体やチャネルを介して、細胞外の化学的・機械的刺激を受容するアンテナ様の細胞内小器官である。繊毛膜は一見、細胞膜と一続きだが、繊毛基部のトランジションゾーン(TZ)は繊毛膜に局在する特定膜タンパク質の拡散障壁または可溶性タンパク質に対する透過障壁として働くことが知られる。Tzの構造や機能の異常は、細胞レベルで繊毛膜組成の異常を示し、個体レベルでは網膜変性や腎疾患、肥満や多指を特徴とする重篤な疾患(繊毛病)の発症につながる。本研究の目的は、膨張顯微鏡法を駆使して明らかになってきた繊毛形成過程でのTZ構築機構やその制御を担う分子システムの全貌解明を足がかりとして、繊毛の機能的区画化におけるTZの役割を明らかにし、繊毛病の発症メカニズムの理解へと繋げることである。 TZを構成するタンパク質はネフロン癆(NPHP)とメッケル症候群(MKS)の原因遺伝子産物を含むNPHPモジュールとMKSモジュールに大別される。前年度までに、膨張顕微鏡法を駆使することで、TZが繊毛形成のごく初期に構築されること、TZ構成タンパク質は繊毛形成の異なる段階で、モジュールごとに繊毛基部へと集積することを見出した。加えて、様々な繊毛構築関連タンパク質の欠損細胞の観察により、TZの構築を制御する分子機構の一端を明らかにすることに成功した。本年度は前年度に樹立したNPHP、またはMKSモジュールの各構成タンパク質の欠損細胞を用いて、繊毛内輸送 (Intraflagellar transport: IFT)複合体の構成タンパク質やGPCRなどの特定繊毛膜タンパク質を体系的に比較解析した。さらに、薬剤処理依存的に逆行性IFT装置と積荷の会合を阻害できる系を樹立し、TZの構成分子ごとの繊毛区画化における役割を詳細に解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度までに、TZは繊毛構築過程のごく初期に始まる軸糸の伸長と繊毛膜の伸展前に先駆けて構築されることを見出した。本年度は、第一にNPHPモジュール、またはMKSモジュールに分類されるTZ構成タンパク質の欠損細胞をそれぞれ樹立し、繊毛が成熟した段階で区画化に異常が生じているか検証を行った。この結果、先行研究を指示する通り、TZ構成分子の欠損細胞の成熟繊毛からは脂質アンカータンパク質であるARL13BやGPR161などの特定膜タンパク質の局在が著しく低下する様子が確認された。そこで、上述した各TZ構成モジュールの欠損細胞が、繊毛形成過程で区画の確立に異常を示すかを上述の繊毛膜タンパク質を指標として検討した。その結果、一方のモジュールの欠損細胞はARL13Bをはじめとする繊毛膜タンパク質の局在がこの時点で完全に抑制されていた。対して、もう一方のモジュールのTZへの局在を欠く細胞株では大きな影響は見られなかった。次に、これらのKO細胞について、ドキシサイクリンの投与依存的に逆行性IFT装置と積荷膜タンパク質の会合を阻害することが可能な細胞株を作製し、成熟繊毛における区画化の異常の表現型を詳しく解析した。その結果、一方のモジュールのKO細胞では、積荷膜タンパク質の繊毛への輸送自体には大きな影響はものの、もう一方のモジュールのKO細胞では積荷膜タンパク質の輸送がほぼ完全に抑制されることが明らかになった。この結果からTZを構成する2つのモジュールは、繊毛の区画化において作用時期や機能に違いがあることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
以下の課題について重点的に進める。 (1) 膨張顕微鏡法を駆使した解析により、繊毛構築過程や積荷膜タンパク質の横断の際にTZ構成タンパク質のTZでの局在が不安定化する様子を捉えている。繊毛内輸送に関わるIFT複合体の構成サブユニットやIFT装置に付随するモータータンパク質、IFT装置と積荷膜タンパク質をつなぐアダプタータンパク質 (BBSomeやTULP3)のKO細胞や、これらのKO細胞に各種結合変異体や活性変異体を発現させたノックイン細胞を樹立し、TZ構成タンパク質の局在変化を引き起こす分子的、力学的要素の特定を目指す。 (2) これまでに同定された28種類のTZ構成タンパク質をコードする遺伝子の全てが、NPHPやMKS、Joubert症候群(JBTS)など、1つ以上の繊毛病で変異していることが知られる。遺伝子型の異常と繊毛レベルの異常の相関を明らかにするために、既に確立したTZ構成タンパク質の欠損細胞に加えて、その他のTZ構成をコードする遺伝子のKO細胞を樹立する。さらに、これらのKO細胞に繊毛病の原因遺伝子を発現させて、各種繊毛関連タンパク質の繊毛局在を解析する。 上記のアプローチにより、TZの異常と各種繊毛病の発症に繋がる機構の詳細を明らかにする。
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