研究課題/領域番号 |
22K06208
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44010:細胞生物学関連
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
吉田 秀郎 兵庫県立大学, 理学研究科, 教授 (60378528)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | ゴルジ体 / ストレス / プロテオグリカン / ムチン / コレステロール / 神経変性疾患 / TFE3 / PI4P / KLF |
研究開始時の研究の概要 |
ゴルジ体ストレス応答は、細胞の需要に応じてゴルジ体の機能を増強する恒常性維持機構である。研究代表者は、世界に先駆けてゴルジ体ストレス応答の研究を開拓してきた。これまでの研究から、ヒトのゴルジ体ストレス応答の応答経路としてTFE3経路とプロテオグリカン経路、ムチン経路、コレステロール経路を同定したが、その分子機構の解明はまだ道半ばである。特に、上記の応答経路を制御する転写因子やセンサー分子を同定することはきわめて困難であった。この壁を乗り越えるために、本研究では哺乳類細胞を用いた遺伝学的スクリーニング方法であるGeCKOスクリーニングを駆使してこれらの制御因子を網羅的に同定する計画である。
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研究実績の概要 |
真核生物の細胞には様々な細胞小器官が存在するが、それぞれの細胞小器官の存在量は細胞の需要に応じて厳密に制御されている。ゴルジ体の存在量の調節機構はゴルジ体ストレス応答と呼ばれる。これまでの研究から、哺乳類のゴルジ体ストレス応答にはTFE3経路とプロテオグリカン経路、ムチン経路、PI4P経路が存在することがわかっていたが、その分子機構はまだ未知の部分が多い。本研究課題ではこれらの経路の制御因子(センサー分子や転写因子など)を一網打尽に同定することを目指している。今年度の解析によって、(1) TFE3経路の転写因子TFE3の活性化に必要なミトコンドリアプロテアーゼOMA1を同定するとともに、もう一つの候補因子TJAP1についても解析を進めた。今後はOMA1やTJAP1がどのようにTFE3の活性を制御するのか、その作用機序を明らかにする。(2) プロテオグリカン経路を制御する転写因子の候補としてFOXL2を見出した。今後は、FOLX2がどのようにして下流の遺伝子の転写を制御するのか、またFOXL2の活性はどのように制御されているのかについて調べる。(3) ムチン経路を制御する転写因子RelAについて解析を進めた。今後は、RelAが制御因子であることを証明し、RelAがゴルジ体ストレスによってどのような機構で活性化されるのかを明らかにする。(4) PI4P経路の活性化剤であるOSW-1はがん細胞特異性の高い抗がん活性を持っていることから、OSW-1ががん細胞を殺す分子機構は非常に重要な研究である。われわれの研究から、OSW-1はゴルジ体に作用してPI4Pを増やすことでがん細胞を殺していることがわかった。更に分子機構を詳細に解析することで新しいタイプの抗がん剤の開発に貢献することが期待される。今年度は、PI4P経路による細胞死がアポトーシスであることを見出している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) TFE3経路の制御因子候補として単離したプロテアーゼOMA1に関して、OMA1のノックアウト細胞ではTFE3経路の活性化が阻害されるが(転写因子TFE3の核移行が抑制される)、OMA1遺伝子をノックアウト細胞に導入するとTFE3経路が正常に活性化されることがわかった。このことは、OMA1がTFE3経路の制御因子であることを示している。また、もう一つの候補因子であるTJAP1についてもノックアウト細胞を作製したところ、TFE3経路が恒常的に活性化されていることを見出した。(2) プロテオグリカン経路の転写因子候補として単離した転写因子FOXL2に関して、FOXL2のノックアウト細胞ではプロテオグリカン経路の活性化が阻害される(転写因子KLF2の転写誘導が抑制される)ことを見出した。このことは、FOXL2がプロテオグリカン経路の制御因子であることを示唆している。(3) ムチン経路の制御因子候補である転写因子RelAのノックアウト細胞を樹立した。(4) PI4P経路が長期間活性化されると細胞死が誘導されるが、caspaseの阻害剤で処理すると細胞死が抑制された。このことは、PI4P経路による細胞死誘導はアポトーシスであることを示唆している。(5) ゴルジ体にPI4Pが蓄積することによってゴルジ体のタンパク質の機能(糖鎖修飾など)が失われることを見出した。但し、分泌機能には影響がないことも見出している。(6) PI4P経路の制御因子として同定したPI4KBやPITPNB、CDIPTなどのノックアウト細胞を樹立したところ、ノックアウト細胞ではPI4P経路の活性化が起こらないこと、正常な遺伝子をノックアウト細胞に戻すとPI4P経路も正常に活性化されることを見出した。以上のように、各応答経路の制御因子の同定が順調に進んでいることから、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) TFE3経路の制御因子であるOMA1はミトコンドリアに存在するプロテアーゼであるが、TFE3経路の活性化にOMA1のプロテアーゼ活性やミトコンドリア局在が必要であるかどうかを調べるため、プロテアーゼ活性を失わせたOMA1変異体やミトコンドリア局在をしない変異体をOMA1ノックアウト細胞に導入する実験を行う。TJAP1のノックアウト細胞に正常なTJAP1遺伝子を導入し、表現型が正常化するかどうか調べる。(2) FOXL2のノックアウト細胞にFOXL2遺伝子を導入し、表現型が戻ることを確認する。また、FOXL2がKLF2遺伝子の転写を制御するエンハンサー配列PGSE-Cに直接結合するかどうかをChIPアッセイによって調べる。これらの実験から、FOXL2がプロテオグリカン経路を制御する転写因子であることを証明する。(3) RelAのノックアウト細胞でムチン経路の活性化が抑制されているか、抑制されているのであればRelA遺伝子を導入することで表現型が回復するかどうか調べることによって、RelAがムチン経路を制御する転写因子であることを証明する。(4) apoptosisの活性化因子であるBAK/BAXのノックアウト細胞を東京医科歯科大学の清水重臣研から分与していただき、このノックアウト細胞ではPI4P経路を活性化しても細胞死が起こらないことをみることによって、PI4P経路による細胞死がアポトーシスであることを最終的に証明する。(5) ゴルジ体にPI4Pが蓄積するとなぜアポトーシスが誘導されるのかについて調べる。ゴルジ体からミトコンドリアのBAK/BAXにどのようにシグナルが流れているのか、ミトコンドリアの膜電位は低下するのか、オートファジーやGOMEDは関与しているのかについて包括的に解析する。以上の研究によって、ゴルジ体ストレス応答の分子機構の全貌を明らかにする。
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