研究課題/領域番号 |
22K06216
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44010:細胞生物学関連
|
研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
高稲 正勝 群馬大学, 未来先端研究機構, 助教 (20573215)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
|
キーワード | プリン代謝 / PRPP amidotransferase / 相分離 / TOR複合体 / 細胞内顆粒 / がん / プリン新規合成 |
研究開始時の研究の概要 |
ATPに代表されるプリンヌクレオチド(以下プリン)はエネルギー代謝や核酸合成といった広汎な代謝に関与する重要な代謝産物である。しかしプリン合成活性化の仕組みは驚くほど未探査のままであった。予備的研究からプリン新規合成の律速酵素PPATが細胞内顆粒を形成することで活性化し、プリン新規合成を促進することが示唆された。そこで本研究ではPPAT顆粒形成に必要な因子を網羅的に同定し、その分子機構と生理的意義の解明を目指す。プリンの過剰生産は痛風を誘発し、また多くのガン細胞ではプリン合成が異常亢進している。本研究の成果は生体内のプリン量を減少させるような、痛風やガンの治療薬の創発につながると期待される。
|
研究実績の概要 |
これまでの研究から、プリン新規合成の律速酵素PPATがプリン塩基欠乏環境において細胞内顆粒を形成して活性化し、プリン新規合成を促進することが示唆された。本研究ではPPAT顆粒形成の分子機構とその生理的意義の解明を目指す。令和5年度に実施した研究の成果は以下の通りである: (1)in vitroにおいてPPATタンパク質が形成する粒子の観察 PPAT分子自体が顆粒形成に必要十分であるかどうかを検証するために、PPATタンパク質を精製してin vitroで顆粒形成を再現する実験を試みた。最終的にPPATを過剰発現する酵母からStrep tagでのアフィニティー精製を利用して、高純度のPPATを高効率で精製する手法を確立した。精製PPATは生理的条件の溶液中では均質だったが、分子混み合い環境下では細胞内で観察される顆粒とほぼ一致する大きさの粒子を形成した。ATP, ADP, AMPやGMPなどのプリンヌクレオチドは、このin vitroにおけるPPATの粒子形成を完全にではないが阻害することが明らかになった。一方でプリン塩基自体はin vitroの粒子形成に何の作用も示さなかった。また阻害剤を使用した実験から、in vitro粒子形成には相分離による凝縮が関係していることが示唆された。 (2)顆粒形成できないPPAT変異株の生育曲線の解析 C末端の天然変性領域を欠失した変異体であるPPATΔIDRは細胞内顆粒を形成しない。またPPATΔIDRを発現する変異株はプレート上での生育が遅延することが予備実験から明らかになっていた。そこで野生株とPPATΔIDR株の生育をより詳細に比較するため、液体培地中での生育を表す生育曲線を解析した。プレート上での生育と同様に、PPATΔIDR株の生育は野生株よりも有意に遅延した。また変異株の生育は培地中のアンモニア濃度が低下するほどさらに遅延した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当研究課題の目的は、申請者が発見したPPAT細胞内顆粒形成の分子機構と生理機能を明らかにすることである。今年度の上記の結果(1)より細胞内PPAT顆粒は基本的に分子混み合い環境下における、PPATタンパク質の自己会合によって形成されることが示唆された。さらにin vitro PPAT粒子の形成はATP等のプリンヌクレオチドによって阻害されたことから、細胞内においてもプリンヌクレオチドがPPAT顆粒形成を抑制していると考えられた。
一般にPPATはグルタミンだけでなく、中間基質のアンモニアも直接基質として利用することができる。したがって環境中のアンモニア濃度が低下するほど、グルタミン依存的なPPATの活性が重要になる。上記の結果(2)は細胞内PPAT顆粒形成がPPATの活性、特にグルタミン依存的な酵素活性に重要であることを示している。
今年度の結果から、プリン塩基が無い環境ではPPAT顆粒は細胞質の分子混み合い効果を原動力としたPPAT分子の自己会合によって形成され、グルタミン依存的な酵素活性を亢進させる一方、プリン塩基存在下では細胞内プリンヌクレオチドとの相互作用により、顆粒形成が抑制されるという制御メカニズムが考えられた。前年度と比較して研究の作業仮説がより具体的になりつつあり、現在までに得られた研究成果は本研究課題の研究目的に則して概ね順調な達成度であると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
上述の通り、細胞内顆粒形成は本質的に自己会合能を持つPPATだけで十分であり、他の因子を必要としないことが判明したので、前年度まで実施していた近位依存性ビオチン標識法によるPPAT顆粒と相互作用するタンパク質の探索はいったん休止する。
今年度のin vitroの実験からPPATの自己会合はプリンヌクレオチドによって阻害されたが、粒子形成を完全には抑制しなかった。これは細胞内にはプリンヌクレオチド以外にも粒子形成を阻害する代謝物が存在すること、あるいは逆に粒子形成を促進する因子が存在することを示唆している。質量分析により環境中のプリン塩基の濃度に応じて、濃度が有意に変動する代謝物が複数同定できているので、今後はそれらがin vitroの粒子形成にどのような作用を及ぼすかを網羅的にアッセイして、細胞内で顆粒形成を制御している代謝物を同定する。
|