研究課題/領域番号 |
22K06227
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44010:細胞生物学関連
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研究機関 | 愛媛県立医療技術大学 |
研究代表者 |
松村 美紀 愛媛県立医療技術大学, 保健科学部, 教授 (00380254)
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研究分担者 |
矢野 弘子 愛媛県立医療技術大学, 保健科学部, 助教 (80518762)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | LINC 複合体 / 核膜タンパク質 / メカノトランスダクション / ゴルジ体 / 核膜 / LINC複合体 / 機械刺激 |
研究開始時の研究の概要 |
細胞は、細胞外基質や隣接する細胞から物理的圧力を受ける。このような外的な力は、核に伝達され、胚発生や細胞分化など、細胞の運命決定に影響を与える。近年、核が力刺激を受容するメカノセンサーとして機能すること、核膜に局在するLINC複合体は、力刺激を核内に伝達し、機械的ストレスのかかる組織では筋ジストロフィーや心筋症などの発症に関与することが明らかになってきた。本研究は、LINC複合体が、どのように情報を核の内外に伝達するのか、その分子機構の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
細胞は、細胞外基質や隣接する細胞から物理的圧力を受ける。このような外的な力は、核に伝達され、胚発生や細胞分化、がんの進展など、細胞の運命決定に大きな影響を与える。力学刺激を核へ伝達するメカニズムとして、核膜孔を介した力学刺激依存性のタンパク質輸送による伝達経路が広く知られている。このような力学刺激伝達経路に加えて、2枚の核膜をともに貫通するLINC複合体も、核内への力学刺激の伝達に機能する。また、LINC複合体が核膜孔を介した物質輸送を制御することや、LINC複合体およびその関連因子が、機械的ストレスのかかる組織において筋ジストロフィーや心筋症などの発症に関与することが示されてきた。しかし、LINC複合体がどのように力学刺激を核へ伝達するのか、その分子メカニズムは未解明である。そこで、LINC複合体が、どのように核膜を乗り越える力学刺激の伝達に機能するのか、その分子メカニズムを明らかにすることを本研究の目的として取り組んでいる。 これまでに、私たちはLINC複合体が細胞運動に必須であること、ゴルジ体構築にも寄与することなどを見出してきた。これらの結果は、LINC複合体が、既知の力学刺激の伝達経路とは逆方向、つまり核から細胞骨格への力学情報の伝達にも寄与することを示唆している。そこで、LINC複合体がどのように核膜を越えて情報を伝達するのか、特に、本年度は核から細胞質への情報伝達経路(inside-out情報伝達)を中心に解析を行い、LINC複合体がクロマチンの高次構造の変化を感知して、細胞骨格に伝達することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、1)LINC複合体が力学情報を伝達する分子メカニズムの解明、2)LINC複合体による、核から細胞質への情報伝達経路(inside-out情報伝達)の解析、3)情報伝達経路間クロストークの解析、3つの研究計画をたてており、本年度は2)を中心に解析した。細胞の運動能はクロマチンの高次構造と関連していることが知られている。細胞運動を誘導する刺激はクロマチン構造を変化させ、その中にはヒストンH3リジン9トリメチル化(H3K9me3)の上昇が含まれる。私どもは以前、ヒストンH3リジン9メチル化酵素SUV39H1を欠損させると、細胞運動能が抑制されることを見出していた。しかし、クロマチン構造の情報がどのように細胞骨格に伝達されるのか不明であった。 SUV39H1の発現抑制は、他のH3K9メチル化酵、SETDB1およびSETDB2の発現抑制とは異なり、ゴルジ体の細胞質への分散を引き起こした。SUV39H1の発現抑制よって引き起こされるゴルジ体の分散は、転写調節を必要とせず、中心体や微小管構築とは関与しない。一方で、このゴルジ体の分散はLINC複合体の構成要素であるSUN2、nesprin-2、または微小管モータータンパク質KIF20Aのいずれかの発現抑制によって抑制された。さらに、Proximity Ligation Assay (PLAアッセイ)は、SUN2がH3K9me3の近傍に局在していることを示しており、SUV39H1の発現は核膜におけるSUN2の移動速度に影響を与えた。さらにSUV39H1の欠損による細胞運動の阻害は、SUN2、nesprin-2、またはKIF20Aの発現抑制によって回復した。これらの結果は、LINC複合体が相互作用するクロマチンの構造変化など核内の力学情報を感知し、ゴルジ体構築を制御することで細胞運動を調節していることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
私どもはこれまでの研究結果から、LINC複合体が力学情報を伝達する分子メカニズムとして次の仮説を立てている。(i) 細胞骨格又は核骨格からの力刺激によりnesprinとSUNの構造が変化する。そして (ii) SUN/nesprin組合せの異なるLINC複合体が形成される。 その結果、(iii) 細胞骨格やクロマチンなど相互作用分子が変化し、力学情報として核の内外に伝達される。令和6年度以降は、この仮説に基づき、LINC複合体が力学情報を伝達する分子メカニズムの解明に取り組む予定である。2023年度にLINC複合体構成因子が結合する因子を探索したところ小胞体に局在することが知られており、ATP結合性のあるタンパク質因子が特異的にSUN1に結合することを見出した。そこで、当初の研究計画に加えて、この因子がLINC複合体の構築制御に関与する可能性も合わせて解析する予定である。
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