研究課題/領域番号 |
22K06231
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44010:細胞生物学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
古田 茜 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所神戸フロンティア研究センター, 研究員 (10772337)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | ダイニン / キネシン / DNAナノ構造体 / 鞭毛運動 / 軸糸 / 分子モーター / 軸糸ダイニン / 細胞質ダイニン / 鞭毛軸糸 |
研究開始時の研究の概要 |
鞭毛の波打ち運動は、生物分子モーターが多数集まって協調することで生み出される、一種の同期現象と捉えることができる。しかし、個々の分子モーターと、全体の大きな運動との関係はほとんど明らかになっていない。これを理解するには、個々の分子モーターの計測・改変と、全体の現象の観察を繰り返すような実験系が必要である。本研究では、クラミドモナスの鞭毛運動をモデルに、性質の揃った均一な分子モーターと微小管、および、分子モーターを配置するための骨格としてDNAナノチューブを用いることで、制御性の良い最小限の構成要素で上記の実験系を実現し、鞭毛運動のメカニズムを理解することを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究は、生体分子モーターが多数集まって協調・同期し、全体として大きな運動が生み出されるメカニズムを明らかにすることを目的としている。このため、当初は鞭毛軸糸の波打ち運動をモデルとし、軸糸ダイニンと微小管から成る実験系の構築を進めてきた。ところが軸糸ダイニンのリコンビナント発現系を利用した大量精製や変異体作製は、想定していたよりも難しく、実験に必要な高濃度、かつ均一な材料を得ることができなかった。一方で、我々は、ダイニンをベースにしたエンジニアリングにより、本来ダイニンが運動する微小管とは異なるDNAナノ構造体上を運動するダイニンを得ることに成功している。そこで、DNA上を運動するダイニンを用いることで、制御できるかたちでミニマムな鞭毛運動を再現することを目指した。具体的には、まずDNAナノ構造体上に多数配置されたDNAダイニンが協調して、DNAレールの滑り運動を作り出す様子を観察する。次に、DNA構造体と、DNAレールを一端で束ねて固定することにより、ダイニンによるDNAレールの滑り→ダイニンがDNAレールから解離→再結合→再び滑り、のような繰り返し運動をつくる。これが実現できれば、ダイニンを配置しているDNA構造体と、DNAレールの間を「バネ」のような構造で繋ぐことにより、実際の軸糸の波打ち運動のような振動現象を再現できると期待している。本年度はDNAナノ構造体上に並べた多数のダイニンが、DNAレール上をより高効率で運動するための条件を検討した。具体的には、DNAナノ構造体へのダイニンの固定法の検討や、より速い速度でDNAレール上を運動する変異体の作製などを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在、DNAナノ構造体へのダイニンの固定にはSNAPtagとBenzylguanine(BG)の結合を用いている。ダイニン側にSNAPtagを付加し、DNAナノ構造体上にBGを露出させることで、特定の数、間隔でダイニンを並べることができる。本研究では多数のダイニンを配置する必要があるため、ダイニンのDNAナノ構造体上への結合効率を上げる方法を検討した。過去の論文によると、DNA結合タンパクであるZinc fingerと、それが認識する特定のDNA配列の間の相互作用を利用することで、SNAP-BGの結合効率を格段に上げることができるらしい。そこで、ダイニン側にSNAPとZinc finger、DNAナノ構造体側にBGとZinc fingerの認識配列を予め仕込んでおくことにより、ダイニンのDNAへの結合効率を上げる方法を検討している。また、波打ち運動の再現を目指すためには、ダイニンの速度も重要な要素となる。しかし、DNAダイニンによるDNAレールの滑り速度は、最高でも200 nm/sと、実際の軸糸ダイニンに比べると一桁以上も遅い。そこで、DNAダイニンの速度を上昇させるため、二つの方針で変異体作製を進めた。一つ目は、ダイニンとDNAレールとの相互作用を弱めることで、速度を上げるという方針である。そして、もう一つは、ATP加水分解速度の速いダイニン種のモータードメインを用いることで、より運動活性の高いDNAダイニンを得る、という方針である。二つの方針で新たなDNAダイニンを作製し、これを用いて、現在実際に運動効率が上昇するかを調べているところである。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、DNAナノ構造体へのダイニンの結合効率を上げること、次にダイニンの運動活性を上げて、DNAレール上での運動速度をより上昇させる、という二点については、すでにポジティブな実験結果が出ているので、精査して条件を確定する。その上で、これらの材料を用いて、今後は多数のダイニンによる速い滑り運動や、波打ち運動の再現を目指す。
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