研究課題/領域番号 |
22K06260
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44030:植物分子および生理科学関連
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
伊藤 容子 お茶の水女子大学, ヒューマンライフサイエンス研究所, 特任助教 (10733016)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 膜交通 / ゴルジ体 / 植物 |
研究開始時の研究の概要 |
真核生物の持つ細胞内小器官の中でも、物質輸送において不可欠な役割を果たすゴルジ体は、扁平な袋状の膜が複数重なった非常に特徴的な構造をとることで知られているが、その形成・維持メカニズムや、この構造をとることの意義は謎に包まれている。本研究では、生細胞でゴルジ体の構造が観察しやすい植物細胞を用いて、ゴルジ体の形成・維持に関わる分子を明らかにする。さらに、そのような分子の機能が損なわれた際に植物体に何が起こるのかを調べることで、ゴルジ体の構造が植物の生理機能にどのような意義を持っているのかを解明することを目指す。
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研究実績の概要 |
真核生物の持つ細胞小器官の中で、物質輸送において不可欠な役割を果たすゴルジ体は、扁平な袋状の膜(槽)が複数重なった、非常に特徴的な層板構造をとることで知られている。この構造は真核生物全体で保存されているにも関わらず、その形成・維持のメカニズムやその生理学的意義はほとんど明らかになっていない。本研究課題では、生細胞でゴルジ体の構造が観察しやすい植物細胞を用いることで、この細胞生物学上の謎を解明することを目指している。研究代表者はこれまでの研究で、植物のゴルジ体層板構造の中でも、小胞体からの入り口である最もシス側の槽が特別な性質を持っており、ゴルジ体形成の際に足場として機能していることを発見して、この膜区画を「Golgi Entry Core Compartment(GECCO)」と名付け、哺乳動物が持つ小胞体-ゴルジ体の中間区画であるERGICに相当するものであると提唱してきた。令和5年度は、前年度までの研究でGECCOに局在することを明らかにしたタンパク質について、ゴルジ体の膜どうしの繋留に関与しており、その機能が亜鉛イオンとの結合によって調節されていることを示唆する結果を得た。また、タバコBY-2細胞を用いた観察によって、特定の条件でゴルジ体タンパク質の局在が異常になることを発見したため、今後さらなる解析によって詳細を明らかにしたい。さらに、GECCOとゴルジ体本体の間で機能する膜交通の違いについて、膜融合の特異性を左右する鍵因子である様々なSNAREタンパク質を可視化し、詳細な局在解析を行うことで解明しようとしている。いくつかのSNAREについてはGECCOに局在することがわかった他、ゴルジ体本体とのSNAREの使い分けがあることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までの研究で発見したGECCO局在タンパク質の解析により、これがゴルジ体の膜どうしの繋留に関与し、亜鉛イオン結合ドメインに変異を導入することで、このはたらきが異常に昂進されることを明らかにした。ゴルジ体の構造の形成・維持には、膜同士を繋留して形を保持するタンパク質が不可欠であると考えられ、この新規GECCOタンパク質はそのひとつなのではないかと推測される。ゲノム編集による変異体の作出も行ったが、現在のところ通常育成条件下では巨視的な表現型は見られておらず、細胞内での表現型などより詳細な解析を行うための準備を進めている。また、本年度はゴルジ体可視化タバコBY-2細胞株を用いたケミカルスクリーニングも開始した。現在までにゴルジ体の形態に明らかな異常を引き起こす化合物は得られていないが、この観察の副産物として、化合物処理とは関係なく、特定の条件下でゴルジ体マーカーの局在が異常になることに気が付いた。さらに、動物・酵母でゴルジ体において機能するSNARE分子のホモログを植物細胞で可視化し、ゴルジ体・GECCOへの詳細な局在解析を行った。その結果、ゴルジ体本体とGECCOの間でSNAREの使い分けが見られ、それぞれの区画が受け取る輸送小胞に明確な違いがあることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で発見した、GECCOに局在する亜鉛イオン結合型のゴルジ体膜繋留因子と考えられるタンパク質については、変異体の細胞内でのゴルジ体の形態・挙動を観察するため、ゴルジ体マーカーを可視化する株の作出を進めている。通常育成条件下での巨視的な表現型は見られていないが、様々なストレス条件における表現型解析も行いたい。また、このタンパク質の動物細胞のホモログは、多くの膜繋留因子と相互作用してゴルジ体の形態にも関わっていると考えられているGM130と相互作用していることが報告されているが、植物ではこのGM130のホモログは見つかっていない。この新規GECCOタンパク質の相互作用因子を探索することで、植物のゴルジ体で同等の機能を果たすようなタンパク質を見つけ出せるのではないかと期待している。タバコBY-2細胞を用いたケミカルスクリーニングは継続して観察数を増やしていくと同時に、これまでの観察により発見したゴルジ体マーカーの局在が異常になる条件について、より詳細な解析を進めていきたい。ゴルジ体SNAREの局在解析についても、膜交通の中でのGECCOのアイデンティティの解明につながるため、動物・酵母の知見と比較しつつさらなる解析を行う予定である。
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