研究課題
基盤研究(C)
植物のような多細胞生物の体は多くの細胞から構成されています。最初は1個の受精卵ですが、それが分裂を繰り返し、数を増やすことにより、葉や花のような器官が大きく成長します。しかし、植物の器官は適切な大きさになるとそれ以上大きくなることはありません。これは細胞分裂が適切な時期に停止するためですが、この停止を指令する仕組みには未だ多くの謎が残されています。本研究では、この謎に迫るべく細胞分裂が抑制される仕組みを分子レベルからのアプローチにより解明することを目指します。
DREAM complexはMYB3RやE2Fなど転写因子を複数含むタンパク質複合体であり、細胞周期に関連する遺伝子を制御することが知られている。シロイヌナズナから同定した複合体サブユニットの遺伝子破壊株を網羅的に作出し、表現型と遺伝子発現に与える影響について解析を進めている。DREAM complexの代表的な標的遺伝子として、細胞周期中でG1/S期およびG2/M期それぞれの時期に特異的に発現する遺伝子群が知られている。G1/S期遺伝子の上流域の塩基配列を用いてモチーフエンリッチメント解析を行うと、E2F結合モチーフが過剰提示されていることがわかった。G2/M期遺伝子について同様に解析すると、予想どおりMSAエレメントとして知られるMYB3R結合モチーフが過剰提示されていたが、加えて、DREAM複合体構成因子の1つTCXファミリータンパク質の結合配列が過剰提示されていることが分かった。TCXファミリータンパク質の結合配列はG1/S期遺伝子には濃縮されていないことから、このモチーフはG2/M期遺伝子特異的に機能していることが予想された。この結果から、DREAM complexの標的認識には複数のタンパク質が関わっており、標的遺伝子によって異なるタンパク質が異なるモチーフを認識している様子が明らかになった。実際にMYB3R結合モチーフを持つG2/M期遺伝子の発現は、MYB3Rの変異により大きく影響を受けるが、TCXによる影響は小さいこと、反対に、TCX結合モチーフを持つG2/M期遺伝子は、MYB3RよりもTCXにより強く影響を受けることが分かった。さらに、予備的な実験から、一部のG2/M期遺伝子のTCX結合モチーフに変異を導入するとレポーター遺伝子の発現がより強く広範囲に観察されるようになることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
DREAM complexは細胞周期制御を担う転写因子、E2FとMYB3Rを同時に含む転写因子複合体である。これまでにヒトやショウジョウバエから同定されているが、当研究グループは独自にこの複合体をシロイヌナズナから同定している。2023年度の研究では、シロイヌナズナのDREAM complexが標的遺伝子を認識する仕組みについて中心に解析を行った。その結果、G1/S期遺伝子は専らE2Fが認識に関わり、G2/M期遺伝子に対しては、MYB3Rによる認識とTCXファミリータンパク質による認識が使い分けられていることが示唆された。この結果は、2022年度に行ったトランスクリプトーム解析により得られた結果、すなわちDREAM complexには複数の機能ユニットが存在し、標的遺伝子によって異なる機能ユニットが主要な働きをしているという結論と深く関連していると考えられた。動物におけるDREAM complexの標的認識については、E2FとTCXが主要なDNA結合タンパク質として機能し、標的遺伝子のCDE-CHRタンデムモチーフを認識する仕組みが報告されている。動物とは異なり、植物には転写抑制を担うMYB3Rが存在しており、G2/M期遺伝子の標的認識において、TCXと役割分担をして機能していると考えられた。このようなDREAM complexの標的認識における動物と植物の違いが、植物の細胞周期制御に見られるどのような特徴と関連しているのか、植物におけるMYB3RとTCXによる機能分担にはどのような生理的な意義があるのかなどについて興味が持たれる。2023年度に実施した本研究は、従来考えられてきた動物細胞の仕組みとは異なる植物特有のDREAM complexの作用機構の一面を明らかにし、今後の植物におけるDREAM complexの研究に道筋をつける成果となった。
シロイヌナズナのDREAM complexは、動物とは異なる仕組みで標的遺伝子に作用していること、とりわけG2/M期遺伝子の制御には二つの異なる認識機構が存在していることを示唆する結果が得られた。とくにTCXが直接DNAに結合し、G2/M期遺伝子を認識する仕組みは、植物ではこれまでに報告されておらず、その存在を慎重に検証していく必要がある。まず、G2/M期遺伝子のプロモーター中に存在するTCXモチーフに変異を導入し、GUSレポーター遺伝子の発現にどのように影響するのかを明らかにする実験が考えられる。さらに重要な実験として、DREAM complexの特定の構成因子が変異した植物において、ゲノム中でのDREAM complexの結合状態をChIP-seq法により解析することを計画している。ChIP-seq解析については、当研究グループにおいて、再現性の良い結果が得られる実験系を確立すべく試行錯誤を行っており、早急に技術的な問題を解決して、本研究の実験に応用できるようにする予定である。これまでの植物におけるDREAM complexの生化学的な研究は、芽生え全体を材料として行ったものがほとんどであり、その結果は主に増殖停止後の細胞を反映していると考えられる。そこで、細胞増殖中のDREAM complexの構成因子を明らかにし、これまでに報告されている構成因子と比較するための実験を行っていく。このため、GFP融合型の複合体構成因子を発現するコンストラクトを作出し、シロイヌナズナやタバコの培養細胞に導入し、増殖期の細胞を用いて質量分析による複合体タンパク質の解析を進める予定である。また、同調培養系を利用することにより、細胞周期中での複合体の動態についても明らかにしていく。
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すべて 国際共同研究 (8件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 6件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 6件、 招待講演 2件) 備考 (2件)
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