研究課題/領域番号 |
22K06279
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44030:植物分子および生理科学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
柘植 知彦 京都大学, 化学研究所, 准教授 (50291076)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 遺伝子発現制御 / mRNAプロセシング / 選択的ポリアデニル化 / 3'UTR / Cleavage Factor I / COP9シグナロソーム / 可塑性 / 光情報伝達制御 / mRNA代謝 |
研究開始時の研究の概要 |
光環境の変化に適応する植物において、CFI がmRNA前駆体の3'UTRを制御する分子機構を解明する。とくに、遺伝子の改変および分子生物学的解析が、個体レベルで研究できる植物の実験系の利点を生かし、動植物で普遍性が高い選択的ポリアデニル化の分子メカニズムの解明を以下の通り目指す。 ①暗所から明所に環境を変化させた時に、CFI制御下にある遺伝子群の同定とその選択的ポリアデニル化の制御機構とを解析する。 ②CFIとCSNの機能欠損・機能改変植物を用いて、光環境適応に関わるCFI構成分子種の使い分けとその制御機構を解析する。 ③さらに選択的スプライシングと選択的ポリアデニル化とのクロストークを解析する。
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研究実績の概要 |
本課題では、植物の可塑性を支えるmRNA前駆体の3'UTRを制御する分子機構を解明する。植物は、外部刺激の受容から生理反応に至る過程で、遺伝子発現制御を介して可塑性を活用している。遺伝子発現制御機構には、転写を司る転写因子などの「量的制御」と、転写産物に対する「質的制御」があり、ここでは後者における3'UTRを制御する分子機構を解明する。 3'UTR切断部位を決定するプロセスにはCFIタンパク質複合体が重要である。複数存在する切断部位の選択を制御することで、構造の異なるmRNAができ、その寿命、局在、ひいては遺伝子発現が制御される。 シロイヌナズナのCFI(AtCFI)解析を通じて得られた本年度の成果の一部を列記する。 1)4サブユニットで構成されるAtCFI構成因子(AtCFI 25a、AtCFI 25b、AtCFI 59、AtCFI 68)の間で、25a-25a-59-59、25a-25a-68-68、25a-25a-59-68、の組み合わせが強く示唆され、条件によっては25bも含み得る多様なAtCFIが存在する可能性が見出された。 2)AtCFIが核に局在するには、AtCFI 59、AtCFI 68に存在する核局在配列が必須であることが判明した。この結果、AtCFIは核外で形成されて核に移行するモデルを提唱したが、核に局在するAtCFI 59、AtCFI 68がAtCFI 25を捉え安定化する可能性も残る。 3)AtCFI機能欠損植物は、全ゲノム的に3'UTRの多様性を失い、多くは短い3'UTRを生じるが、一定量長い3'UTRも生じることが判明した。これは動物の培養細胞の先行結果と異なる発見だった。また3'UTRの長さが、遺伝子発現領と直接相関がないことも判明した。ATCFI機能に3'UTRの多様性を依存している遺伝子群には、光応答、光合成、温度感受性などが優位に見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
機能欠損植物これまで、主に以下の方針のもと研究を進めており、概ね順調に進展している。 1)多重変異体を用いたAtCFI機能欠損植物の詳細な形態解析とともに、AtCFI構成因子をコードする遺伝子群の3'UTR切断部位の同定を3'-RACE法とPAT-seq法を用いて詳細に解析している。これらの研究結果から、AtCFI機能に依存する遺伝子群とそうでない遺伝子群があることが明らかになりつつある。また、多重変異体の組み合わせによる小さな差異に着目して、現在その違いが、何に依存するのか解析を進めている。 2)たとえば、CLIP(cross linking immune-precipitation)やインフォマティクスを組み合わせた解析を通して、mRNAの3'UTRに存在するcis配列に依存するのか、mRNAの構造によるのか、AtCFI以外の制御因子が閑居しているのか、などいくつかの作業仮設に基づいた解析を展開中である。 3)また、AtCFIがAtCFI構成因子をコードする遺伝子に対して自己制御している結果が得られており、3’UTRの多様性を維持する仕組みの安定性との相関を解析している。 4)生化学的には、AtCFIが多様な構成因子を保有しうることから、構成因子の組み合わせと各のAtCFIタイプの相関をin-plantaで解析する準備を進めている。このことを通して、多様な標的転写産物に対する思考性が解明できると考えている。 これらの研究成果は、国際学会・国内学会の発表し、bioRxivで投稿前公表を経て、論文投稿準備をしている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、すでに進めている研究を継承・発展させる。 また、「質的な遺伝子発現制御」を担うmRNA代謝制御因子群が機能するためには、「量的な遺伝子発現」を担うタンパク質分解制御機構が重要だと考えている。このふたつの制御機構をつなぐ、分子メカニズムの理解を目指す。複合的アプローチを通じて、植物可塑性を支える複雑な遺伝子発現制御機構の全貌をひも解くことをめざし、これまでの実験に加えて新たに以下の3点を実施する。 1)CFI機能欠損変異植物と野生型植物とを用いて、全ゲノム遺伝子の3'UTR切断部位の同定を3'-RACE法とPAT-seq法を組み合わせて比較解析する。これらの研究結果から、CFI機能に依存する遺伝子群とその特徴を評価解析する。 2)暗所から明所に環境を変化させた時の3’UTR制御機構の解析を行なう。AtCFIが光情報伝達に関わる遺伝子群の3’UTRの制御に関わることを踏まえ、明条件の情報伝達経路を素過程に分けて扱う目的で、暗所で生育させた、野生型、CFI機能欠損植物、CSN機能欠損植物(恒常的光シグナル亢進)、光受容体変異植物(恒常的光シグナル欠損植物)に、光照射を行ない、RNA-seqを用いた全ゲノム発現解析を行なう。 3)CSNとCFIの機能欠損・機能改変植物を用い、CFIタンパク質複合体の構成因子の多様性とそれら分子種が制御する情報伝達経路と遺伝子発現機構の解析。特に、AtCFIの構成因子の多様な組み合わせにより生じる、AtCFIのバリアントの存在と、その標的因子の同定につながるプラットフォームの整備も進めたい。
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