研究課題/領域番号 |
22K06288
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44030:植物分子および生理科学関連
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
武田 直也 関西学院大学, 生命環境学部, 准教授 (60571081)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 菌根共生 / 植物微生物間相互作用 / カルシウムシグナリング / 根粒共生 |
研究開始時の研究の概要 |
植物はアーバスキュラー菌根菌や根粒菌との共生の成立過程では、共生シグナル分子の受容による宿主‐共生菌間の相互認識が行われる。この共生シグナル伝達において「カルシウム振動」は、共生シグナル分子の受容によって細胞内Caイオン濃度の周期的な変動を示す共生応答反応である。本研究では、カルシウム振動の起動に関わる共生シグナル分子の受容体とその共生応答反応を解析する。さらに生体内でCaイオンのオシレーションを人工的な再現し、下流の共生応答の発生を検出する。これらの解析から、セカンドメッセンジャーとして広い役割を持つCa2イオンが、振動現象によってコードする共生シグナル情報を解読する。
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研究実績の概要 |
植物はアーバスキュラー菌根(AM)菌や根粒菌と相利的な共生関係を築くことができ、生育・環境適応に大きな恩恵を受けている。これらの共生の成立過程では、共生シグナル分子の受容による宿主‐共生菌間の相互認識が行われる。この共生シグナル伝達においてAM・根粒両共生にみられる「カルシウム振動」は、共生シグナル分子の受容によって細胞内Ca2+濃度の周期的な変動を示す共生応答反応である。その特徴的な振動パターンが共生シグナル情報をコードすると考えられるが、その機能はいまだ不明である。本研究では、カルシウム振動の起動に関わる共生シグナル分子の受容体と、その応答反応として遺伝子発現等の解析を行う。さらに生体内で人工的にCa2+のオシレーションを生じさせることでカルシウム振動を再現し、下流の共生応答の発生を確認する。これらの解析から、セカンドメッセンジャーとして広い役割を持つCa2+が、振動現象によってコードする共生シグナル情報を解読する。 2022年度はミヤコグサで特定したカルシウム振動起動に機能するキチン受容体Lys6の変異体のAM共生表現型解析や、キチン応答遺伝子の発現解析を行った。この結果から、キチン受容体Lys6がAM共生に関与することを示した。さらに詳細な発現情報を得るためのトランスクリプトーム解析を開始している。Caスパイキングの機能に関して重要な知見をもたらすと考えられるLys型受容体の変異体解析では、その表現型の確認を別の変異体アリルを用いて行った。さらに人工的なCa2+のオシレーションの発生にむけ、Ca2+の直接注入や、Ca2+を放出させるCaged-Ca2+タンパク質を発現させる植物体の作成を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で特定したカルシウム振動起動に機能するキチン受容体変異体lys6は、すでにキチン応答変異体としてミヤコグサで同定されているCERK6であったが、これまでの報告ではAM共生との関連は見出されていなかった。しかし、共生応答と知られるカルシウム振動に関与することから、改めてAM共生との関連を調べたところ、lys6変異体でAM菌感染の低下を確認できた。このことからCERK6受容体はキチンによるAM共生シグナル伝達の活性化を介して共生応答を制御する受容体であることが明らかとなった。そのため、AM共生時とキチン添加時に誘導される共生遺伝子を同定し、lys6変異体における遺伝子発現解析を行った。その結果、lys6変異体では一部の遺伝子で発現誘導が見られない一方で、正常に見られる遺伝子も存在し、キチンによる共生遺伝子発現誘導は単一経路でない可能性が示唆された。また、同様に既知のAM共生遺伝子マーカー遺伝子発現を確認したところ、発現誘導量の低下は見られたが、発現誘導が完全に消失する遺伝子はなかった。このことから、発現量の低下は感染率の低下によるものであり、共生マーカー遺伝子の発現誘導経路は正常に機能していると考えられた。 本課題で研究を行うCaスパイキングの機能に関して重要な知見をもたらすと考えられるLys型受容体の変異体解析については、学会や論文での発表等を行った後にまとめて報告を行う予定である。 人工的なカルシウム振動の細胞内での再現として、UV照射(Uncaging)することでCa2+を放出させるCaged-Ca2+ (PACR-GFP)のコンストラクトを植物体に導入した。この形質転換体からPACR-GFPによるGFP蛍光を持つ植物体を同定することができた。また、マイクロインジェクションにより根毛細胞へCa2+の直接注入を行い、細胞内で一過的にCa2+濃度を上昇させることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
AM共生においてlys6変異体ではAM共生マーカー遺伝子の発現は低下していたが、発現誘導能自体には影響は見られなかった。この結果から、Lys6機能の喪失により発現誘導に影響を受けるAM共生遺伝子を探索するため、AM菌に感染させたlys6変異体の根からRNAを抽出し、RNA-Seqによるトランスクリプトーム解析を行っている。2023年度はこのデータ解析により得られた遺伝子群の発現を詳細に解析することで、Lys6制御下にあるAM共生遺伝子群を同定する。これらの同定したAM共生遺伝子の機能から、カルシウム振動により引き起こされる共生応答が推定できると期待している。 Lys型受容体の変異体の解析については、この表現型がエコタイプの相違によって生じる可能性が示唆されている。そのためミヤコグサ野生系統のゲノム配列を取得し、LysM型受容体間での多型の有無を調べることで、この可能性の検証へとつなげていく予定である。 人工的なカルシウム振動の発生については、取得したPACR-GFPを用いてUVによるCa2+の放出を確認し、カルシウム振動と類似のパターンを再現できるCa2+量の放出が可能であるかを確認していく。マイクロインジェクションによる直接的なCa2+の注入は可能であることは確認済みであるため、注入量の調整や連続的な注入方法の検討を行っていくことでCa2+の周期的な振動を生じさせる。また、人工的なカルシウム振動の発生によって生じる遺伝子発現を観測するため、少数細胞からのqRT-PCRによる発現解析やRNA-Seq解析方法の検討を行う。
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