研究課題/領域番号 |
22K06290
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44040:形態および構造関連
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
岡本 直樹 筑波大学, 生存ダイナミクス研究センター, 助教 (10577969)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
|
キーワード | ショウジョウバエ / ペプチドホルモン / 形状変化 / カルシウム恒常性 |
研究開始時の研究の概要 |
多細胞生物の発生過程において、体全体や組織の『かたち』は時期特異的に変化を遂げ、その結果、最終的に決まった『かたち』を持つ個体が形成される。本研究では、遺伝的にプログラムされたダイナミックな形状変化イベントのモデル系として、完全変態昆虫に共通する幼虫から蛹への『体全体の形状変化』の調節機構の解明を目指す。モデル生物であるキイロショウジョウバエを用いて、昆虫変態時に体表筋肉で生じる収縮機構と、それを誘導する神経ペプチドホルモンの時期特異的な作用調節機構を包括的に解明することにより、時期・組織特異的なホルモンの作用が、筋肉の収縮を介して体全体の『形状の変化』を誘導するメカニズムを明らかにする。
|
研究実績の概要 |
多細胞生物の発生過程において、体全体や組織の『かたち(形態および形状)』は時期特異的に変化を遂げ、最終的に決まった『かたち』を持つ個体が形成される。本研究では、分子遺伝学的技術の発達したショウジョウバエを用いて、幼虫から蛹への個体の形状変化に関与するホルモン作用調節機構の理解を目指した。本年度は、幼虫から蛹への個体の形状変化に関わるペプチドホルモンとして同定したCapaの産生細胞の特定、Capaの作用機構の解析、個体の形状変化が誘導される原因の解明を行い、以下の研究実績を得た。 ・全身性の形状変化を誘導するCapa産生細胞の特定:Capaは食道下神経節に存在するSEG神経と腹部神経節に存在するVa神経で産生される。どの神経で産生されるCapaが個体形状の調節に関与するかを明らかにするため、SEG神経とVa神経それぞれの神経特異的な遺伝子操作を行った結果、Va神経で産生されるCapaが個体の形状変化に重要であることが明らかになった。 ・Capaの作用機構の解析:Capaが作用する組織を特定するため、Capa受容体(CapaR)の発現解析及び組織特異的なCapaRノックダウン(KD)実験を行った結果、Capaは脊椎動物の腎臓に相当する組織であるマルピーギ管(MT)の先端領域に作用することが明らかになった。 ・個体の形状変化が誘導される原因の解明:MT先端領域は、カルシウムの貯蔵・排出に特化した領域である。そこで、Capa及びCapaR KD個体の体液中カルシウム濃度を測定した結果、顕著に減少していることが明らかになった。さらに、過剰量カルシウムを含む餌でCapaR KD個体を飼育すると表現型が回復した。以上の結果は、Capaが体液中のカルシウム量を調節するホルモンとして機能すること、CapaやCapaR KD個体では、低カルシウム血症に陥り、個体の形状変化が異常になることを示唆する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り、全身性の形状変化を誘導するCapa産生細胞の特定を行った結果、腹部神経節に存在するVa神経で産生されるCapaが重要であることを明らかした。 計画当初、筋肉特異的なCapa受容体(CapaR)ノックダウン(KD)実験から、Capaは筋肉に直接作用することによって個体の形状変化を調節すると予想していた。しかしながら、CapaRの発現解析や様々な組織特異的なCapaRノックダウン(KD)実験を行った結果、Capaは筋肉ではなく、カルシウムの貯蔵・排出に特化したマルピーギ管(MT)の先端領域に作用することが明らかになった。実際、計画当初用いた筋肉特異的ドライバー(how-Gal4)の発現を確認したところ、MTの先端領域においても発現が観察された。以上の結果は当初の計画とは異なる想定外の発見ではあったが、これを機に、Capaの真の作用組織であるMTの先端領域が明らかになり、カルシウム恒常性を調節する因子としてのCapaの機能解析への大きな糸口となった。実際、Capa及びCapaR KD個体の体液中カルシウム濃度が顕著に減少すること、過剰量カルシウムを含む餌で飼育することによりCapaR KD個体の表現型が回復することから、Capaが体液中のカルシウム恒常性を調節するホルモンとして機能することを強く示唆する結果が得られている。 脊椎動物において、血中のカルシウム恒常性の中心として働くホルモンは副甲状腺ホルモン(PTH)であり、主なカルシウム貯蔵組織は骨である。一方、ショウジョウバエにはPTHホモログも骨も存在しないことから、カルシウム恒常性を担う内分泌機構はこれまで全く不明であった。本年度の研究により、骨もPTHホモログも存在しないショウジョウバエにおいて、代替因子のペプチドホルモンによってカルシウム恒常性を調節する内分泌システムが存在することを強く示唆する成果を得た。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の解析により、Capaがカルシウム恒常性を調節するホルモンとして機能することが示唆されたことから、当初の研究計画から一部変更し、以下の解析を進める。 ・全身性の形状変化を誘導する筋収縮のカルシウム依存性の解析(当初の計画1を一部改変):体液中カルシウム濃度と全身性の形状変化を誘導する筋収縮の関係を解明するため、筋肉特異的にカルシウム応答に関わる因子のKD個体やカルシウムを含まない合成培地で飼育した個体における蛹の形状、筋肉収縮への影響を解析する。さらに、Capa やCapaR KD個体を用いて、体表筋肉におけるカルシウム活性を、カルシウムプローブを用いてライブイメージングにより解析する。 ・Capa産生細胞(Va神経)におけるカルシウム応答機構とCapa分泌制御機構の解析(当初の計画3を一部改変):Capaがカルシウム恒常性に関わる場合、その産生や分泌がカルシウム応答性である可能性が予想される。そこで、Capaを産生するVa神経特異的にカルシウムチャネルやカルシウム応答に関わる因子をKDした際の体液中カルシウム濃度やその表現型を解析し、Va神経におけるカルシウム応答機構を明らかにする。同時に、合成培地を用いて餌中のカルシウム量を変化させた際の、Va神経におけるCapaの発現量、貯蓄量を解析し、カルシウム応答とCapa分泌の関係を明らかにする。 ・CapaのMTへの作用機構の解析(当初の計画にはない新規計画):CapaのMTへの作用を確認するため、摘出したMTを化学合成したCapaペプチドと共に培養した際の培養液中及びMT中のカルシウム濃度変化を解析する。また、体液中へのカルシウム排出輸送体(PCMA)、カルシウム取り込み輸送体(Orai-STIM)を、MT特異的にKDまたは過剰発現した個体を用い、体液中カルシウム濃度、蛹の形状、筋肉収縮への影響を解析する。
|