研究課題/領域番号 |
22K06331
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分45010:遺伝学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
JANG MOONSUN 名古屋大学, 理学研究科, 特任講師 (00755837)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 組織間コミュニケーション / 温度走性学習 / N-結合型糖鎖修飾 / GLY-12 / EGL-3 / C. elegans / Thermotaxis / Tissue communication / neural plasticity |
研究開始時の研究の概要 |
生物の組織間のコミュニケーションは免疫、成長、あるいは恒常性の維持など、生命システムを維持するのに重要である事が分かっている。その知見に加え、最近では記憶・学習を担う神経系が非神経系と多様なコミュニケーションする事で、脳機能が機能するという新しい知見が報告されて来た。しかし、その実体となる分子や分子メカニズムに関してはほとんど分かっていない。本研究では既に全神経ネットワーク構造が明らかとなっている線虫を用いて、非神経系で機能し、神経機能に影響を与える分子同定及びその分子メカニズムを明らかにする。これらの研究により、動物の全身性情報処理による行動制御機の仕組みが明らかになると期待される。
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研究実績の概要 |
「神経系は非神経系とのコミュニケーションすることで、行動を制御する」という新しい知見が報告されている。本研究では、非神経系で機能し、記憶形成や学習行動に関与する分子を同定し、そのメカニズムを明らかにすることを目指す。申請者はこれまで糖鎖修飾に必要な糖転移酵素GLY-12、神経ペプチド生産酵素であるEGL-3が飼育温度に依存した温度走性行動に必要である新しい知見を得ている。 哺乳類GnTIのアイソザイムであるGLY-12, GLY-13, GLY-14はN-結合型糖鎖生合成に関与する酵素であり、gly-12欠損株は飼育温度より低い温度を好む走性行動異常を示した。また、組織特異的機能レスキュー実験により、温度感知神経AFDと上皮細胞と呼ばれるSeam 細胞で機能することが分かった。温度変化に対するSeam細胞の活動を測定するとAFDと同様に温度上昇時に活性化し、温度低下時には不活性化した。さらに、AFD内の温度情報伝達に必要なcGMP合成酵素遺伝子、gcy-8, gcy-18, gcy-23が全て欠損された変異体ではSeam細胞の応答性は低下した。このことから温度神経回路とSeam細胞のクロストークする可能性が示唆された。 一方、egl-3欠損株も飼育温度より低温側に向かう走性行動の異常を示し、Seam細胞内でEGL-3によって生産されるペプチドが部分的に温度走性行動に関与することが分かった。ゲノム解析ツールから予測されたEGL-3アミノ酸配列内の3箇所の糖鎖修飾部位アスパラギン酸をアラニンに置換し、温度学習行動を調べたところ、EGL-3の機能にN-結合型糖鎖が重要であることが判明された。これらの結果から、低分子ペプチドを介した神経系―非神経系の非シナプス性伝達が飼育温度に依存した温度走性行動に関与することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エサと特定な化学物質を共にある環境で飼育された線虫は経験した環境因子を連合して学習し、経験した環境因子に対する走性行動を示す。これまで飼育温度に依存した温度走性行動において、温度感知神経AFDやAWCの感覚情報から介在神経AIY、AIZ、RIAと運動神経RIMといった温度神経回路や温度情報伝達に関与する分子が明らかになっている。 本研究により、神経系だけではなく線虫の表皮細胞と呼ばれるSeam細胞が温度走性行動制御に関与することを新たに発見された。Seam細胞は幹細胞と同様に細胞分裂するため、発生学的な研究が盛んでいるが、本研究により初めて行動制御におけるSeam細胞機能を明らかにした。さらに、神経系―非神経系コミュニケーションの実体分子として低分子ペプチドに注目した。Cre/loxPシステムにより細胞特異的にegl-3をノックダウンすることで、Seam細胞内でEGL-3によって生産された機能性ペプチドが温度学習行動を制御することがかった。さらに、ゲノム解析ツール、遺伝子発現プロファイルやCRISPR-cas9システムを適用することで、EGL-3の機能に糖鎖修飾が関わっていることや機能細胞を同定することができた。現在、EGL-3糖鎖分子がGLY-12によるN-結合型糖鎖結合のターゲット分子かはまだ分かっていないが、温度走性行動において、GLY-12やEGL-3が関与することが本研究により明らかになったため、計画通りに進捗していると考えている。しかしながら、EGL-3に付加された糖鎖解析については、その反応が可逆的であるため、さらなる条件検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
(1) Seam細胞応答と温度学習行動への影響 Seam細胞は温度変化に応じて応答するが、温度勾配上で線虫が好きな温度に向かう行動(温度学習行動)にどのような影響を及ぼすか検討する。まず、温度勾配上で自由に動いている線虫のSeam細胞活動を測定する。高温で飼育された線虫は高温側に向かう際にはその行動を促進、または、低温側に向かう際にはターン行動を誘導し、高温側に向かうようにする行動戦略を示す。本研究ではHigh speed worm tracking システムを用いて、温度変化に応じてSeam細胞活動を測定しながら同時に行動を追跡することで、Seam細胞活動が温度走性行動を制御するかを調べる。また、Seam細胞活性化が行動にどのような影響を及ぼすか、光遺伝学を技術を用いて解析する
(2) EGL-3分子の糖鎖解析 申請者はCre/loxPシステムにより、温度走性行動においてEGL-3がSeam細胞で機能することを発見した。EGL-3の神経細胞を含む、表皮細胞で機能するかをegl-3機能レスキュー実験により確かめる。また、EGL-3の機能にN-結合型糖鎖修飾が必要であるかを詳しく調べるために、CRISPR/Cas9により、3箇所の糖鎖修飾部位N(アスパラギン酸)残基をすべてA(アラニン)に置換し、すべての糖鎖修飾部位変異させた変異株を用いて、温度走性行動を調べる。その後、野生株及び糖鎖付加部位に変異が導入された変異株から精製されたEGL-3を用いて糖鎖検出及び質量分析などEGL-3の糖鎖解析を行う。また、EGL-3の糖鎖付加にGLY-12が関与するかを調べる。これらの研究手法により、神経系と表皮細胞間のコミュニケーションが温度学習行動を制御するか確かめる。
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