研究課題/領域番号 |
22K06343
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分45020:進化生物学関連
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
菅 裕 県立広島大学, 生物資源科学部, 教授 (30734107)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 動物多細胞性の進化 / 単細胞ホロゾア / Notch / ラミニン / 受容体型チロシンキナーゼ / 多細胞性 / 進化 |
研究開始時の研究の概要 |
動物の多細胞性は、細胞間のコミュニケーションによって成り立っている。単細胞の祖先からそのような複雑な仕組みがどうやって進化したのか?この問いに答えることは、動物の多細胞性の起源という「大進化」の分子メカニズムに迫ることである。驚くべきことに、典型的な接触型の細胞間連絡機構、Notchシグナリングと、非接触型の細胞間連絡機構、受容体チロシンキナーゼ(RTK)シグナリングの原型が、動物に近縁な原生生物(単細胞ホロゾア)にも存在する。本研究では、独自のモデル生物と遺伝子操作技術を使ってこれらの遺伝子の機能を明らかにし、動物多細胞化メカニズムの一端を明らかにする。
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研究実績の概要 |
動物の多細胞体制はどのようにして単細胞生物から進化したのか。その分子メカニズムを知るため、動物に近縁な原生生物、単細胞ホロゾアの遺伝子解析を行った。単細胞ホロゾアの一種カプサスポラでは、これまでも遺伝子導入は可能であったが、ゲノムの改変は不可能であった。しかし共同研究者から新たな技術が提唱され、初年度は主に、これを利用した遺伝子のノックアウト、ノックインを進めた。 まず多細胞体制の構築に重要なラミニン遺伝子によく似たカプサスポラ遺伝子に対し、ノックアウトを試した。現在ヘテロノックアウト株が作出できており、この時点ですでに群体形成能などに影響が現れている。またこのタンパク質は細胞の周囲に膜状の構造を作ることが判明している。動物多細胞化以前のラミニン祖先遺伝子の役割を推定する上で、重要な知見が蓄積されつつある。 動物で細胞の物理的接触を感知して細胞分化を促すNotch遺伝子についても、カプサスポラのホモログが見つかっている。こちらもヘテロノックアウト株の作出に成功したが、今のところ明白な表現型の変化は得られていない。また、カプサスポラの2種類のNotch様タンパク質に対する抗体の作成に成功したが、Notchが活性化して核へ移行する条件を明らかにするには至っていない。しかし少数細胞RNAseq解析によるNotch機能の推定からは興味深い結果が得られ、現在そこから派生した発展的なプロジェクトを進めている。 また、クレオリマックスという単細胞ホロゾアには、動物の臓器サイズ制御に関わるHippoカスケード遺伝子が存在するが、過剰発現実験より、これらの遺伝子は、単細胞生物でも動物での役割とよく似た機能を持つことを示した。クレオリマックスでは新規の遺伝子ノックダウン法の開発にも成功しており、現在これを使用して多細胞化以前のHippoカスケードの役割を解明しようとしているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
何点か、計画通り実行したものの期待した通りの結果が得られなかったプロジェクトがあった半面、予想外に伸びたプロジェクトもあり、総合的にみて計画通りの推移と判断する。 まず受容体チロシンキナーゼ(RTK)の解析については、2つ(光遺伝学によるRTK強制活性化及びRTKのリガンド探索)を除いてすべての計画を実施できたが、残念ながら今のところ思うような成果は得られていない。次にNotch様遺伝子の解析については、すべて計画通り実施したものの、技術的な問題や、生物特異的な問題により期待したような結果は得られていない。 一方で、カプサスポラのラミニン様遺伝子の解析や、クレオリマックスのHippoカスケード遺伝子の解析からは、当初想定していなかったような成果が得られている(実績の概要参照)。
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今後の研究の推進方策 |
一年目の実験において、計画通りに進められなかったプロジェクトや、計画通りに実施したものの明確な結果が得られなかったプロジェクトについては、その多くで善後策を講じている。例えば、計画ではRTKの活性をモニターするため、過剰発現させたMAPKの細胞内局在を見る予定であったが、遺伝子導入効率の低さから観察可能な細胞が限られ、有意な結果が得られないという問題があった。これについては昨年度新たに開発された遺伝子ノックイン技術を用いて、恒常的にMAPKの挙動を観察できるような株を作成することで解決する。またNotchの活性化条件探索については、ビオチン化したはずのNotchタンパク質が蛍光アビジンによって観察できないという問題が出た。これについてはSNAPタグで代用することで同様の実験を行う予定である。その他のプロジェクトに関しても、遺伝子ノックアウト、ノックイン技術をうまく使えば解決可能であると考えている。またこれら以外の遺伝子についても、今年度はホモノックアウト株の解析を開始できるはずであり、それにより遺伝子機能の解明が大きく進むと期待している。
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