研究課題/領域番号 |
22K06405
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分45040:生態学および環境学関連
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
難波 利幸 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 客員教授 (30146956)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 植食性昆虫 / 離散世代 / 差分方程式 / 種間競争 / ギルド内捕食 / 生産性 / 共存 / リミットサイクル / 生物多様性 / 植物 / 生物群集 |
研究開始時の研究の概要 |
多くの昆虫個体群は,世代が重ならない離散世代の動態を示し,密度効果が弱く,個体数も種構成も大きく変動すると言われる。本研究では,離散世代の個体群動態を記述する連立差分方程式からなる数理モデルを構築し,連続世代の個体群動態を記述する連立微分方程式モデルとの違いを考慮しながら,植食性昆虫と植物,植物と相利共生者,植食性昆虫と捕食者,相利共生者と捕食者などの間の相互作用が生物群集の構造と動態や生物多様性に及ぼす影響を明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は,植食性昆虫の種数が多い理由を離散世代の生活史が特徴的である昆虫の動態を記述するのに適切な差分方程式系を使って数理的に明らかにすることである。前年度には,植食性昆虫の特徴を生かしたもっとも簡単なモデルとして,植食性昆虫は単食性で植食性昆虫間に種間競争は起こらないが,植物間には種間競争が起こると仮定して構築した差分方程式モデルで,多くの植食性昆虫が共存するためには植物間の競争はまばらで弱くなければならないことを明らかにした。このモデルで植食性昆虫が絶滅する要因の一つは,植食性昆虫は単食性であることを仮定したため,植物間の競争によって唯一の食草の生物量が減ると存続できなくなることだった。本年度は,植食性昆虫は主たる食草以外の植物をある程度利用することを仮定したモデルを解析した。その結果,植食性昆虫が主たる食草以外の植物を低い確率でも利用する場合には,植物間の競争が密であっても多くの植食性昆虫が存続できることが分かった。しかし,植食性昆虫が複数の食草を利用する確率が高まると,植物間の見かけの競争によって数種の植物が絶滅し,この効果は植物間の競争がまばらで非対称な場合にはさらに強まった。したがって,主たる食草以外の植物を利用する植食性昆虫のメリットと,そのことによる見かけの競争と消費型競争による植物と植食性昆虫のデメリットとの関係を解明するために,古典的なテーマであるスペシャリストとジェネラリストの有利不利についてさらに調べる必要が生じた。 離散世代の群集動態モデルを補完する目的で調べている連続時間のギルド内捕食系では,非線形群集動態に生じる,リミットサイクルのサドル・ノード分岐や,境界面上のリミットサイクルからの境界面を超える分岐などによって,従来は難しいと考えられていたギルド内被食者とギルド内捕食者の共存が可能になることを明らかにし,学術雑誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「ネットワークとしての生物群集を構成する基本的要素である2種間の捕食‐被食,競争,相利共生について」では,2種間の捕食‐被食と競争について差分方程式モデルの特徴を明らかにした。「離散世代の個体群からなる多栄養段階の生物群集の数理モデルに対応する連続世代のモデルの挙動」では,ギルド内捕食系で,状態空間の境界面上のリミットサイクルから共存リミットサイクルが分岐する現象を詳細に数値的に解析し,新たな共存メカニズムを明らかにすることができた。 「植食性昆虫の共存のメカニズムについての寄主植物特異性仮説」については,植食性昆虫は寄主植物特異的で植食性昆虫間には種間競争がはたらかない状況でも,植物間の競争がまばらで弱くなければ多くの植食性昆虫が絶滅することを示すことができた。また,このとき多くの植食性昆虫が絶滅する原因の一つは,植食性昆虫が単食性であることを仮定したために,植物間の競争によって食草が不足することにあった。そこで,植食性昆虫は主たる食草以外の植物をある程度利用することを仮定したモデルを解析し,この場合には植物間の競争が密であっても多くの植食性昆虫が存続できることが分かった。しかし,植食性昆虫が複数の食草を利用する確率が高まると,植物間の見かけの競争によって数種の植物が絶滅し,この効果は植物間の競争がまばらで非対称な場合にはさらに強まった。 以上のように,植物-植食者間の相互作用で,植食性昆虫が複数の食草を利用する場合についての研究を追加したため,相利共生者,捕食者を導入した系の研究に進むことが遅れ,進捗状況にやや遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
寄主植物特異性仮説を検証する中で,植食性昆虫が主たる食草以外の植物を利用する場合には,植食性昆虫の存続が可能になるメリットとともに,見かけの競争によって植物が絶滅するデメリットが生じることが明らかになったので,この問題を,古典的な重要なテーマであるスペシャリストとジェネラリストの有利不利の観点から詳細に調べる。 「植物と植食者と相利共生者を含む系について」,まず植物と相利共生者からなる2種系について差分方程式モデルの動態を解析的に明らかにする。続いて,植食者を加えた植物と植食者と相利共生者の3種系についても解析的に調べる。これらの基礎を踏まえて,多数の植物,植食者,相利共生者を含む系で,相利共生者を持つ植物と持たない植物の動態の違いや,相利共生者と植食者の割合,スペシャリストである植食者の割合などが系の動態に及ぼす影響を数値計算によって明らかにする。 「植物と植食者,相利共生者が相互作用する系への上位の捕食者の影響」についても,まず植物-植食者-捕食者の3種系,植物-相利共生者-捕食者の3種系について,解析的に差分方程式モデルの特徴を調べ,続いて植物-植食者-相利共生者-捕食者の4種系の性質を数値計算も含めて明らかにする。それらの結果を踏まえて,相利共生者を捕食する捕食者の割合,植食者におけるスペシャリストとジェネラリストの割合,捕食者におけるスペシャリストとジェネラリストの割合などが,捕食者が植物に及ぼす,植食者を介する間接効果と相利共生者を介する間接効果などにどのように影響するかを明らかにする。
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