研究課題/領域番号 |
22K06440
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分46010:神経科学一般関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
武井 陽介 筑波大学, 医学医療系, 教授 (20272487)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 分子モーター / KIF3A / Th17細胞 / ミクログリア / ミクログリア活性化 / 細胞内輸送機構 / キネシン関連タンパク / サイトカイン / IL-17A受容体 / 細胞内輸送 / 細胞骨格 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の概要はミクログリアの活性化機構を分子モーターに焦点をあてて明らかにすることである。脳の炎症によって活性化されたミクログリアは神経細胞を障害する。炎症性サイトカインIL-17Aがミクログリアの受容体に結合するとミクログリアが活性型に転換される。活性型ミクログリアはアメーバ様形態と貪食作用を持つ。このことはミクログリア活性化に細胞形態変化を担う構造すなわち細胞骨格や細胞内輸送機構が関与する可能性を示唆する。本研究はこの可能性を究明するためにIL-17A受容体を運ぶ分子モーターを同定し、この分子モーターによる受容体輸送がミクログリア活性化にどのように寄与するのか分子的解明を行う研究である。
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研究実績の概要 |
分子モーターとIL-17Aが精神・神経系疾患に与える影響について研究が行われた。分子モーターに関しては、自閉スペクトラム症のリスク遺伝子であるミオシンIdの樹状突起スパインへの局在とそのメカニズム、統合失調症患者におけるキネシン分子モーターKIF3Bの機能的欠損とそのノックアウトマウスの表現型、およびKIF17による受容体輸送の新しいメカニズムとPTSD様症状との関連が明らかにされた。これらの結果は、分子モーターによる細胞内輸送の異常が精神・神経系疾患の発症に関与することを示唆している。
一方、IL-17Aに関しては、Th17細胞のマスターレギュレーターRORγtの過剰発現マウスにおける血清中IL-17Aの上昇、胎盤組織での変化、および流産数増加が示された。また、IL-17Aの脳室内投与によるミクログリアの活性化と局在変化、ならびに血中IL-17A高値マウスにおける海馬歯状回のミクログリア密度と活性の低下が観察され、IL-17Aが精神・神経系疾患の中枢神経系異常に関与するメカニズムが示唆された。
これらの研究結果は、分子モーターによる細胞内輸送の異常とIL-17Aの過剰発現が、自閉スペクトラム症、統合失調症、うつ病などの精神・神経系疾患の発症メカニズムに深く関与していることを示している。今後、分子モーターによる受容体輸送の制御とIL-17Aの作用を標的とした治療薬の開発や、IL-17A抗体などの既存薬物の応用が、これらの疾患の予防・治療に新たな戦略をもたらすことが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子モーターとIL-17Aが精神・神経系疾患に与える影響についての研究が順調に進展していると判断される理由は、それぞれの分野で得られた成果が、疾患の発症メカニズムの解明に向けて、互いに補完的な役割を果たしているためである。分子モーター研究では、自閉スペクトラム症や統合失調症に関連する遺伝子の機能解析から、細胞内輸送の異常が病態の発現に重要な役割を果たすことが明らかになった。一方、IL-17A研究では、この炎症性サイトカインの過剰産生が、胎盤組織の変化や流産リスクの増加、脳内のミクログリアの活性化や局在変化を引き起こし、自閉症様症状や行動異常につながることが示された。これらの知見は、一見すると独立した研究領域の成果だが、精神・神経系疾患の発症と進行のメカニズムを理解する上で、互いに密接に関連している。分子モーターの機能異常とIL-17Aの過剰産生は、どちらも神経細胞の機能や脳の発達に悪影響を及ぼし、様々な疾患の病態形成に寄与すると考えられる。したがって、これらの成果を統合的に理解することで、疾患の分子メカニズムの全容解明に向けて、大きな前進が期待できる。さらに、分子モーターとIL-17Aを標的とした新たな治療法の開発も期待される。分子モーターの機能を調節する化合物やIL-17A抗体などを用いることで、精神・神経系疾患の症状を改善し、患者のQOLを向上させられる可能性がある。このように、基礎研究の成果が臨床応用へとつながる可能性を秘めていることも、研究の進展が順調であると判断される理由の一つである。以上のように、分子モーターとIL-17Aに関する一連の研究成果は、精神・神経系疾患の発症メカニズムの解明と新たな治療法の開発に向けて、互いに補完的な役割を果たしており、研究が順調に進展していることを示す。
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今後の研究の推進方策 |
分子モーターとIL-17Aが精神・神経系疾患に与える影響についての研究を今後推進していくためには、いくつかの重要な方策が考えられる。まず、分子モーターとIL-17Aの機能的な関連性を深く理解するために、両者の相互作用や共通の制御機構について、分子生物学的・生化学的な解析を詳細に行う必要がある。次に、これらの分子の機能異常が引き起こす脳内の変化を包括的に理解するためには、神経細胞やグリア細胞の機能、シナプス可塑性、神経回路の形成と維持などに与える影響を多角的に解析することが重要である。また、研究成果を臨床応用につなげるためには、ヒト脳や患者由来の試料を用いた解析を進め、分子モーターやIL-17Aの発現や機能の変化を明らかにすることが不可欠である。さらに、これらの分子を標的とした治療法の開発に向けて、創薬スクリーニングや前臨床試験などを進めることも重要な課題である。本研究の推進には、細胞生物学、免疫学、神経科学、精神医学など多岐にわたる分野の専門家との共同研究が欠かせない。加えて、ビッグデータ解析や人工知能などの最新の情報科学技術を取り入れることで、研究の効率化と高度化を図ることも重要である。これらの方策を通じて、分子モーターとIL-17Aが精神・神経系疾患に与える影響についての研究を推進し、病態メカニズムの解明と新たな治療法の開発につなげていくことが期待される。
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