研究課題/領域番号 |
22K06472
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分46030:神経機能学関連
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
加藤 利佳子 京都大学, 高等研究院, 特定助教 (20425424)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
|
キーワード | BNST / 扁桃体 / 情動 / 報酬学習 / 学習 / ニューロン活動 / デコ―ディング / 分界条床核 |
研究開始時の研究の概要 |
不安症(anxiety disorder)は、恐怖や不安に対して不適切な対応を引き起こし、日常生活に支障をきたす状態である。これは、外界の事象と情動の関連付け、あるいは侵害刺激への対応行動の学習が適切に機能せず、不適切な学習が形成された結果と考えられている。しかし、道具的条件付けに相当する情動自体の発現調節の神経機構は、ほとんど調べられていない。本研究では、扁桃体と分界条床核(BNST)に注目し、ニューロンの活動の多数同時記録と化学遺伝学的操作法を用い、学習による不安と怒りそれぞれへのバランス変化をニューロン活動や神経経路の役割で比較し、不安と怒りの調整に寄与する神経基盤を明らかにする。
|
研究実績の概要 |
本研究の目的は、不安と怒りのバランス調節の神経機構を解明し、適切な情動の学習とその破綻の仕組みを明らかにすることである。初年度(令和4年)の研究計画では、1)情動学習の行動記録と2)扁桃体と分界条床核(BNST)ニューロンの多点電極による多数ニューロン活動の同時記録を計画した。1)情動の道具付け条件学習では、サルが特定の情動表現(怒り)を示した後に、報酬を与えると、同じ情動表現を繰り返すことを確認した。この結果は、情動が報酬により調節が可能なことを示している。また、表情の客観的分類のために、Histogram of Oriented Gradients (HOG) 特徴量手法を改善した。2)多点電極による活動記録では、BNSTニューロンの報酬による活動変化を調べるために、1方向報酬記憶サッケード課題遂行中のサルのBNSTと尾状核腹側部のニューロン活動を記録した。報酬獲得直前では、21.5% (11/51)のニューロンにおいて、報酬を獲得予定の試行と無報酬予定の試行間で活動に違いが見られ、報酬予測に関連した活動変化を示した。その内の多くのニューロン(7/11)は、報酬獲得予定の試行の方が無報酬の試行に比べて活動が減少した。BNSTに投射する扁桃体中心核のニューロンは、抑制性ニューロンであり報酬時に活動を増加させることが知られている。従って、この活動変化は、扁桃体からの入力を反映している可能性が高い。BNSTは、霊長類において、課題遂行中のスパイク活動記録の研究がこれまでにほとんど行われていない。本研究は、情動の中枢と考えられるBNSTの神経生理学的基礎データの収集の開始となる。今後、今年度確認した情動の報酬による学習行動を用いてBNSTと扁桃体の役割を明らかにし、情動調節の神経基盤の解明のみでなく、不安障害など情動調節の破綻を原因とする疾患の治療方法の開発に貢献する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画では、1)情動学習の行動記録を、1~2年目(令和4年~5年)に、2)扁桃体とBNSTニューロンの多点電極による多数ニューロン活動の同時記録を、1~2年目(令和4年~5年)に行うことを計画している。1)マカクサルを特定の情動(怒り)を表出した直後に報酬を与え、情動の道具的条件付けの学習実験を行ったところ、報酬を与えた時の方が、与えなかった時に比べて、同じ情動(怒り)を多く繰り返した。この結果から、情動が環境からのフィードバックにより調節が可能なことを確認した。しかし、マカクサルの情動を誘起するために、他個体の画像提示などを行ったが、安定した誘起は難しかった。これは実物ではない相手に対しては、情動は誘発され難いことを示している。そこで、行動課題をヒトとの直接対面を含む方法に改善した。結果、安定した情動の誘起を可能にした。また、表情の分類はHistogram of Oriented Gradients (HOG) 特徴量手法を改善し、計画書提出時に正答率75%であった表情の分類を98%に高めた。2)行動記録において、報酬による情動の学習が可能であったので、まずBNSTのニューロン活動における報酬による変化を確認することにした。そのために、1方向報酬記憶サッケード課題遂行中のサルのBNSTおよび尾状核腹側部のニューロン活動を記録した。結果、サッケードおよび報酬獲得付近において、活動の違いが見られた。報酬獲得直前では、21.5% (11/51)のニューロンにおいて活動の違いが見られた。報酬獲得後では、52.9% (27/51)のニューロンにおいて活動の違いが見られた。その内の多く(報酬獲得前:7/11、報酬獲得後:18/27)のニューロンは、報酬を得られる試行において活動が減少した。これらの結果から、BNST領域のニューロンの報酬に関連した活動の基礎情報を明らかにした。
|
今後の研究の推進方策 |
令和5年度からは、1)昨年度に続き、この領域のニューロンの基本応答の確認として、視覚刺激、サッケード、報酬などに対する応答の基礎データの収集を続行する。BNSTと扁桃体領域より、多点深部電極(S-probe)によるニューロンのスパイク活動の記録実験を継続し、データを増やす。また、学習課題は、情動をより安定して誘発するために、ヒトとの直接の対面を含む課題に改良を完成させる。この課題では、ヒトとの対面の時間を正確にコントロールするために、通電のオンとオフで透過性と非透過性を瞬時に変更できる、透過調整液晶フィルムを用いる予定である。ヒトとの直接対面による情動の誘発を含むマカクサルによる情動学習遂行中のBNSTおよび扁桃体のニューロン活動の記録を行い、情動の報酬学習による調節と活動の関連を明らかにする。2)情動は内的状態であるため、その検出方法として、Histogram of Oriented Gradients (HOG) やGenerative Adversarial Networks (GAN)などの画像解析アルゴリズムをマカクサルに適応させるための改変と開発をさらに進め、表情画像解析の自動化と他の生体信号(体温、心拍など)も含めた、より詳細な分類の解析を行うことを目指す。3)また、扁桃体からBNSTへの経路の役割を明らかにするため、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用い、抑制性のDREADD(hM4Di)を発現させ、経路特異的に活動を抑制するための準備を行い、注入実験を開始する。
|