研究課題/領域番号 |
22K06477
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分46030:神経機能学関連
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
井上 貴文 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (10262081)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
|
キーワード | 膜電位イメージング / 2光子顕微鏡 / タンパク質型膜電位センサー / 光学的膜電位記録 / 活動電位 |
研究開始時の研究の概要 |
脳の局所神経回路が具体的にどの様なシナプス結合で機能的に結ばれているかという詳細な知見は脳の理解の大前提であるが、わかっていないことが多い。Caイメージングでは発火タイミングの前後関係や高頻度発火に追従できない。膜電位イメージングのプローブと測定系両者の進歩によって遂に局所神経回路の詳細な機能的情報読み出しが可能になった。本研究は申請者が開発したランダムアクセス2光子顕微鏡を用い、脳スライスおよびin vivo脳標本を対象に、これまで手つかずだった脳内の局所神経回路の詳細を明らかにする。小脳皮質の局所回路をターゲットにして顆粒細胞相互の同期性および顆粒細胞とプルキンエ細胞の同期性を解析する。
|
研究実績の概要 |
電位依存性センサーを用いた膜電位イメージングは局所神経回路の機能的結合の解析に適するが技術的なハードルがあった。音響光学偏光器(AOD)によるXYスキャンを採用し高速に多点を計測できるランダムスキャン型2光子顕微鏡を開発し複数培養神経細胞からの同時多点活動電位計測に成功し、さらに脳スライスを用いて新世代タンパク質型膜電位センサー(GEVI)を用い大脳皮質の発達にともなう神経結合の変化を見出した実績をベースとして、本年度は脳の局所神経回路の理解を進めることを目的とし、小脳切片における複数顆粒細胞からの同時膜電位記録を試みてきた。培養神経細胞で成功した小分子プローブ(DiO/DPA)の脳スライスへの導入法を検討した。DiOに代えてNeuro-DiOを用いることにより染色性を増し、小脳スライス中の神経細胞の活動電位をランダムスキャン2光子顕微鏡で記録する試みを続けたが、Neuro-DiOとDiOとの間のエネルギー共鳴効率が低く信号検出ができない、という結論に至った。GEVIは申請時のASAP3から派生した、より高感度が期待されるGEDI-2Pおよび未発表のGEVIを開発者から入手し、脳の神経細胞に発現させ脳切片標本で観察するための条件検討を続けている。本研究の対象である小脳顆粒細胞とプルキンエ細胞にGEVIを発現させるため、新生児脳内へDNAを注入してのエレクトロポレーション法を研究室で稼働させた。また、プルキンエ細胞と顆粒細胞の両方にGEVIを発現させる実験ではアデノ随伴ウィルス(AAV)による遺伝子導入法が有効と考えられ、AAV作成のためのプラスミド構築およびAAV作成系を研究室で立ち上げている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小分子プローブはGEVIに比較して一般に反応速度が速く、蛍光変化度も大きいが、高い脂溶性のため組織中の神経細胞に導入する良い方法がなく、改良を模索していた。DiOから脂溶性の低いNeuro-DiOに変更して脳切片中の神経細胞への導入効率は良くなったが、残念ながら、膜電位検出能が犠牲になっていることが多くの実験から明らかになり、また、GEVIの飛躍的進歩により、新規高性能GEVIが利用可能になったこともあり、化合物プローブの使用は断念し、GEVIの利用に集中することにした。大脳皮質ニューロンにGEVIを発現させた研究では子宮内電気穿孔法によりDNAを胎児脳に発現させたが、本研究での小脳顆粒細胞への発現では新生児脳でのエレクトロポレーション法が有効であり、すでに同方法は研究室で稼働しているが、AAVによる遺伝子導入法も稼働させ、両者を比較して検討をしている。
|
今後の研究の推進方策 |
小脳皮質の局所回路をターゲットにして顆粒細胞相互の同期性および顆粒細胞とプルキンエ細胞の同期性の解析を行う。本研究のターゲットである小脳皮質は、高密度に存在する顆粒細胞からプルキンエ細胞への大規模なシナプス結合の収斂や、プルキンエ細胞からの出力の並列性など非常に特徴的な回路構造を持ち、小脳皮質の情報処理特性を構造そのものが現していると考えられてきた。しかしながらプルキンエ細胞においては、隣り合うプルキンエ細胞同士には化学・電気シナプス結合ではなく電流漏れによる膜電位干渉があり、発火の同期性を作り出していることがやっと近年になって報告され、顆粒細胞は、その小ささ故にパッチクランプ記録自体の難易度が高く、顆粒細胞相互の同期性の知見はほとんどなく、顆粒細胞相互の発火同期がゴルジ神経細胞間の電気的カップリングによっている、という理論神経科学の20年前の予想がいまだ実験的に立証されていないなど、小脳の局所神経回路の機能的な解明はほぼ手がついていない。 脳切片の実験に加えて、多点活動電位測定を生体脳でも行い(in vivo計測)、神経回路の機能的読み出しを目指す。AAVあるいは電気穿孔法でGEVIを発現させたマウスに頭蓋窓を作成する。細胞膜だけの非常に狭い領域のシグナルを検出する上で、呼吸や体動による細胞位置の動きがin vivo標本における最大の技術的課題となる。VilletteらはAODスキャン型2光子顕微鏡のAOD駆動コマンドをサブマイクロ秒刻みで制御することにより3次元のホログラム照明を実現し、ホログラム照明の範囲内に対象細胞の変位範囲を収めることで細胞の変位をキャンセルすることに成功した(ULoVE)。本システムにULoVEを実装し、ULoVEの長所である細胞変位の影響の軽減と、その短所である同時計測点の減少のバランスをとり記録法を最適化することの検討を行う。
|