研究課題/領域番号 |
22K06514
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分47010:薬系化学および創薬科学関連
|
研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
表 雅章 摂南大学, 薬学部, 教授 (90299032)
|
研究分担者 |
大塚 正人 摂南大学, 薬学部, 教授 (30243489)
軽尾 友紀子 摂南大学, 薬学部, 講師 (30826235)
河合 健太郎 摂南大学, 薬学部, 准教授 (60826246)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
|
キーワード | MATE1 / 多剤排出ポンプ / 阻害剤 / シメチジン |
研究開始時の研究の概要 |
WHOは、2017年、人類の健康に最も大きな影響を与える薬剤耐性菌を公表し、官民連携による新たな抗菌薬開発の緊急性を訴えた。これらの薬剤耐性菌はすべて多剤排出ポンプをもち、細菌内に取り込まれた抗菌薬を排出して薬剤耐性を獲得する。つまり、細菌の薬剤排出ポンプを選択的に阻害する創薬アプローチは極めて合理的で、喫緊に取り組むべき課題であるが、これまでに候補となる化合物は見つかっていない。我々が発見したヒット化合物は、細菌MATEを選択的に阻害できる世界で初めての例である。細菌への選択性を保持したまま阻害活性を高め、多剤耐性菌の耐性メカニズムを根本からブロックする全く新しい抗菌薬の糸口としたい。
|
研究実績の概要 |
薬剤耐性菌が増加し、以前は有効だった抗菌薬が効かなくなることで、薬剤耐性菌感染症の死亡者が増加し、侵襲的治療や免疫抑制療法が制限されることが問題となっている。一方で、新しい作用機序に基づく新規抗菌薬は1987年以来誕生していない。そのため、薬剤耐性菌は年々増加の一途を辿っており、以前は有効だった抗菌薬が効かなくなることで薬剤耐性菌感染症の死亡者の増加が問題となっている。本研究では、多剤耐性の一因である「薬剤排出機構」に注目し、「薬剤排出機構の阻害剤」の創出によって、多剤耐性菌に対して新しい作用機序のアプローチを確立することを目指した。薬剤排出機構であるMultidrug and toxin extrusion (MATE) 型トランスポーターの機能を抑制する阻害剤は、多剤耐性を消失させる効果が期待できる。 我々は、ヒット化合物を基軸とした合成展開および活性および活性評価から、リード化合物の創出を行っている。当該年度では、これまでに同定された細菌選択的MATE阻害剤(EC50 > 30 μM)の化学構造を最適化し、その活性をさらに向上させた。阻害化合物を3つのフラグメント(芳香族部分、リンカー部分、グアニジン部分)に分割し、各部分を個別に最適化を行った。各構造修飾部位で高い活性を示した構造を組み合わせて新たな化合物を合成し、このうち4化合物は30 μMの濃度で完全にMATE型トランスポーターを阻害した。探索合成により新規に同定したリード化合物は、合成した化合物の中で最も高い活性(EC50 = 1.8μM)を示し、副作用の原因となる細胞毒性を示さなかった。本研究に関連する細菌MATE型トランスポーター阻害剤の探索合成に関する論文を、2024年春に報告している(Bioorg. Med. Chem., 2024, 99, 117606.)
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
我々が研究を始めた当初、細菌MATE型トランスポーターを標的とした創薬研究の報告例はほとんど無く、構造活性相関も明らかではなかった。そこで我々は、手始めにhMATE1阻害作用をもつシメチジンをもとに各種の誘導体を合成し、hMATE1阻害作用を評価した。その結果、シメチジンのイミダゾール環をフェニル環へと変換することで、hMATE1阻害作用が失われることを明らかにした。この知見をもとに、細菌選択的なMATE型トランスポーター阻害剤を創出するために誘導体合成を進め、細菌 のMATEファミリーに属するHmrMと MdtKを選択的に阻害する化合物を見出した。しかし、化合物の阻害作用は100 μMという極めて高い濃度で確認されたものであり、低濃度では活性が減弱することが課題であった (EC50 > 30 μM)。そこで我々は、化合物の構造を芳香環部位、リンカー部位、グアニジン部位の3つに分割し、各部位の構造を最適化することで、より低濃度で阻害作用を示す新規化合物の獲得を目指した。その結果、各部位の最適化構造に基づいて合成したペンタフルオロスルファニル化合物 (EC50=1.8 μM) が得られた。ペンタフルオロスルファニル基が有する電子吸引性、脂溶性、嵩高さのうち、どの性質が活性に寄与しているか現時点では明らかではないが、HmrMとの相互作用に有利に働いたものと考えられる。さらに、探索合成の結果、私たちは以下のことを明らかにした。 ・芳香環部位:ペンタフルオロスルファニル基の導入により活性が向上した。 ・グアニジン部位:グアニジン骨格が必要であり、N-メチル化も活性向上に有効であった。 ・リンカー部位:直線的な形状と適切な長さ、そして脂溶性が必要であった。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究では、ドッキングシミュレーションを用いることで阻害剤とタンパク質側のTyr261とPhe290とπ相互作用、末端のシアノグアニジン部分はSer57と水素結合の関与が示唆された。一方で、ドッキングシミュレーションでは各アミノ酸がどの程度阻害作用に関わっているか定量的な評価はできていない。阻害剤と相互作用するアミノ酸の結合親和性の解析といった詳細な相互作用の理解は、合理的な化合物デザインの設計を可能にする。一般的に化合物と標的タンパク質間の相互作用の解析に用いられる結晶構造解析は、標的タンパク質が膜輸送体の場合は技術的に適応が困難であるため、FEP(Free Energy Perturbation, 自由エネルギー摂動法)やFMO(Fragment Molecular Orbital, 分子軌道法)といった計算的手法を用いて相互作用の解析を行う。たとえば、FMO法で計算した分子のフラグメント間の相互作用エネルギーを基にして、FEP計算におけるリガンドの結合エネルギーの変化をより詳細に予測することができる。この情報を活用することで、より効率的かつ効果的な阻害剤を開発することが可能になる。
|