研究課題
基盤研究(C)
本研究の目的は,マクロ環構築法を開発し,海洋性マクロライドの効率的な合成経路を確立すること,申請者らが開発した改良 Julia-Kocienski オレフィン化反応をマクロ環構築法に応用しサリシルハラミド類の合成経路を確立することである.さらに,確立した合成経路を基盤とし誘導体化・分子プローブを創成し構造活性相関研究,構造解析用ゲスト化合物の供給と v-ATPase との共結晶X線構造解析を実施することである.
マクロ環構築、分子間反応の回避を目的に高希釈条件下で実施されるため、大量合成に不向きな反応であり、現在でもマクロライド系天然物供給の大きな足枷となっている。マクロライド骨格の構築法は、脱水縮合やメタセシス反応が研究されているが、前述の通り分子間反応を抑制するため高希釈条件が必要であり効率的とは言い難い。高濃度でのマクロライド骨格構築法の開発は、基本骨格構築法としても学術的独創性・有用性が高く、廃液処理の観点からも持続可能社会の実現に重要な研究課題である。パルメロライド A及びロバタミド Aは,強力な v-ATPase 阻害作用 (1-10 nM オーダー) を示し,医薬品のリード化合物,v-ATPase 構造解析の共結晶ゲスト化合物として注目されているが、これらの化合物は大量合成困難なマクロライド構造と入手困難な天然資源に阻まれその活用には至っていない。本研究課題では,天然物のマクロ環骨格構築法を開発し,全合成及び生物活性評価への展開を目的とする。本研究では、高濃度条件での触媒的 Ni/Cr マクロ環構築法を開発し,海洋性マクロライドのパルメロライド A及びロバタミド類 の合成経路を確立する。申請者らが開発した改良 Julia-Kocienski オレフィン化反応をマクロ環構築法に応用しサリシルハラミド類の合成経路を確立することを目的としている。さらに、確立した合成経路を基盤とし誘導体化・分子プローブを創成し構造活性相関研究,構造解析用ゲスト化合物の供給と v-ATPase との共結晶X線構造解析を実施することである。
2: おおむね順調に進展している
マクロ環構築は,分子間反応の回避を目的に高希釈条件下で実施されるため,大量合成に不向きな反応であり,現在でもマクロライド系天然物供給の大きな足枷となっている.従って,高濃度条件下でのマクロ環構築法の開発は非常に重要な課題である。当該年度は、骨粗鬆症や癌などの疾患に深く関わる酵素として近年注目を集めるv-ATPaseの強力な阻害剤である海洋性マクロライドのパルメロライド A、ロバタミド Aの合成経路確立を目的に母骨格であるマクロ環の構築を検討した。パルメロライド Aのマクロ環構築: 同程度の分子量に分割したA、B、Cそれぞれのユニットを合成した後、右田-小杉-Stille カップリング及び山口エステル化により環化前駆体へと導いた。予備検討として化学量論量以上用いたNHKカップリング反応によりマクロ環の構築を試みたところ、希薄条件下において中程度の収率ではあるが目的物を得ることができた。得られた化合物に対し種々の化学変換を実施し、パルメロライド Aのマクロ環構築を完了した。ロバタミド Aのマクロ環構築: 同程度の分子量に分割したA、Bそれぞれのユニットを合成した後、鈴木-宮浦カップリング及びDCC/DMAPを用いたエステル化により環化前駆体へと導いた。パルメロライド Aの合成の際に用いた化学量論量以上用いたNHKカップリング反応を本合成にも適用したところ、こちらも希薄条件下中程度の収率ではあるが目的物を得ることができた。
今後は、これまでに完了した合成中間体を用いて、パルメロライド A及びロバタミド Aの全合成を達成するとともに、より効率的な合成経路の探索、誘導体化を実施する。さらに、我々で開発した m-ニトロフェニルテトラゾールスルホン (NPT スルホン) を用いた改良 Julia-Kocienski オレフィン化反応 (改良 J-K 反応) をサリシルハラミド A、Bの全合成に着手する。
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