研究課題/領域番号 |
22K06584
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分47030:薬系衛生および生物化学関連
|
研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
山下 純 帝京大学, 薬学部, 教授 (80230415)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
|
キーワード | GPR55 / リゾホスファチジルイノシトール / リゾリン脂質 / GPCR / 生理活性脂質 / 炎症・免疫細胞 / 免疫・炎症反応 / CB1 &CB2 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、(1)炎症・免疫細胞のどの細胞にGPR55が発現しているか? (2) 免疫細胞のどの機能にLPI-GPR55が関与しているか? (3) LPI-GPR55のコンカナバリンA(ConA)誘発性肝炎への影響 (4) ConA誘発性肝炎における新規LPIの産生機構について (5)LPI-GPR55と細胞接着 (6)GPR55とCB2受容体との相互作用 などの課題を一つずつ克服しながら「GPR55が炎症・免疫に関与する」ことを証明する。GPR55とその関連受容体の性状解析を行うことで、受容体アゴニストやアンタゴニストとして作用する薬物も探索したい。
|
研究実績の概要 |
GPR55(G protein-coupled receptor 55)は脳で発現が高いorphan受容体として報告され、後に新規の内在性カンナビノイド受容体として同定された。私たちはGPR55の内在性アゴニストの探索を行い、リゾリン脂質の一種であるリゾホスファチジルイノシトール(LPI)を同定した。GPR55は脳に多く存在するorphan受容体として報告された経緯から、脳で働くことが想定されていた。しかし、マウス臓器・細胞での発現を検討するとGPR55は、精巣、消化管、リンパ節、脾臓などに高発現していた。「GPR55は炎症・免疫に関与する」ことを示すと考えられる。 ◯マウスリンパ球のGPR55 mRNAの発現を調べた。マウスの脾臓や胸腺などの細胞をFACSで分画し様々なリンパ球を単離した。GPR55 mRNAの発現は、B細胞およびT細胞の成熟に伴って増加することが示された。またBリンパ芽球の増殖にLPIとその受容体GPR55が関与することが示された。 ◯マウスにConAを投与するとT細胞に依存した肝炎を誘導する。GPR55のKOマウスを用いて同様の実験を行うと、野生型マウスに比べて障害の程度が低かった。T細胞のGPR55が肝炎誘発に促進的に働くことを示す。このとき肝性リパーゼによるLPIがT細胞を活性化することが示された。 ◯GPR55のリガンド特異性を正確に把握することは非常に重要である。GPCRは二量体として働きGPR55のリガンド特異性が受容体と結合する受容体により影響する可能性を考慮して、GPR55と会合しうるGPCRの発現系を準備した。 ◯GPR55や他の受容体を高感度に検出できる実験系を開発した。以前開発したホスホリパーゼA1の検出系を応用して、親和性が非常に高いタグとそれに結合するナノボディを作成して、高感度検出系を準備した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)免疫細胞にGPR55が発現しているか? マウスの脾臓や胸腺などの細胞をFACSで分画し様々なリンパ球を単離した。GPR55のmRNAはT 細胞とB細胞の両方に発現していた。胸腺と脾臓のCD3 T細胞を比較すると、GPR55のmRNAは脾臓で高かった。CD4 T細胞とCD8 T細胞を比較すると、GPR55 mRNAはCD8 T細胞に高発現していた。B細胞では、脾臓のB細胞のGPR55 mRNA発現は骨髄のB細胞のそれよりも高かった。B1細胞のGPR55 mRNAはB2細胞よりも高く、辺縁帯B細胞のGPR55 mRNAは、濾胞B細胞と比較して高かった。これらの結果は、GPR55 mRNAの発現がB細胞およびT細胞の成熟に伴って増加することを示唆している。また、Bリンパ芽球の増殖にLPI-GPR55が関与することが示された。 2)GPR55のリガンド特異性の解析 他の研究者がアゴニストと報告したN-パルミトイルエタノールアミンやabn-CBDは、私たちの手では反応が見られなかった。GPCRは二量体として働き会合する受容体により、リガンド特異性が変化する例が知られている。GPR55と会合しうる受容体を探索した。CB2の発現系を準備した。CB2はGPR55と同様に炎症・免疫細胞に存在するので、協調的に働く可能性がある。 3)LPI-GPR55のConA誘発性肝炎への影響 ConAをマウスに投与するとT細胞に依存した肝炎を誘導する。GPR55のKOマウスで同様の実験を行うと、野生型マウスに比べて障害の程度が低かった。T細胞のGPR55が肝炎誘発に促進的に働くことを示す。マウスにヘパリンを投与すると血中にLPIが大量に生成した。また、ヘパリン投与によりConA誘発性肝炎が起こらないことが知られている。類洞の血管壁のへパラン硫酸に結合している肝性リパーゼがLPI産生を担うことが示された。
|
今後の研究の推進方策 |
1)免疫細胞のどの機能にLPI-GPR55が関与しているか? GPR55がリンパ球の分化・成熟の過程で発現が増大することがわかったので、具体的にリンパ球の免疫プロセスのどのステップにLPI-GPR55が関与しているかを検証する。ConA誘発性肝炎にGPR55が関与すること、肝性リパーゼによるLPIの産生が関わることが明らかになったので、GPR55のアンタゴニストのカンナビジオール(CBD)、ML 193が肝炎の抑制をするかを検討する。肝性リパーゼやリポタンパク質リパーゼの阻害薬の影響を検討する。またConA投与後の肝臓 のT細胞の活性化状態を、CD69 及び CD25抗体を用いたフローサイトメーターで解析する。In vitroの解析で、T細胞をLPIで刺激してサイトカイン(IFNγやTNFαなど)を産生するかどうかを検討する。 2)T細胞に限らず他の免疫細胞の機能にLPI-GPR55が関与しているかを検証する。白血球の分化、増殖、細胞接着、走化性、浸潤、貪食、サイトカイン産生、分泌、脱顆粒、イムノグロブリンの産生などに対するLPIの効果やアンタゴニストの作用を調べる。 3)GPR55のリガンド特異性を解析する。GPCRは二量体として働き、会合する受容体によって、受容体のリガンド特異性が変化する例が知られている。私たちはHEK293にGPR55を発現させてリガンド特異性を解析しているが、他の研究者がアゴニストとしているN-パルミトイルエタノールアミンやアブノーマルカンナビジオール(abn-CBD)の反応は見られなかった。GPR55のリガンド特異性が受容体と結合する受容体により影響する可能性を考慮して、CB1またはCB2の発現系を構築する。特にCB2はGPR55と同様に炎症・免疫細胞に存在するので、協調的に働く可能性がある。GPR55とCB1、CB2との相互作用を検討する。
|