研究課題/領域番号 |
22K06599
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分47030:薬系衛生および生物化学関連
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
柳川 芳毅 北海道医療大学, 薬学部, 教授 (20322852)
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研究分担者 |
志賀 咲紀 北海道医療大学, 薬学部, 助教 (10898307)
水野 夏実 北海道医療大学, 薬学部, 講師 (40738621)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | M2マクロファージ / リポポリサッカライド / インターフェロン-γ / インターロイキン-4 / 組織修復 / マクロファージ / M1/M2マクロファージ / アルギナーゼ1 / PD-L2 |
研究開始時の研究の概要 |
マクロファージは,炎症・免疫反応を促進し,病原体の排除に重要な役割を果たしている.マクロファージは,炎症促進型と組織修復型に大別され,組織修復型マクロファージは病原体除去後の炎症収束と組織修復に関与すると考えられている.したがって,組織修復型マクロファージの新規誘導法を確立し,そのメカニズムを解明することは,新しい疾患制御法の開発につながると考えられる. 申請者は,マクロファージをIFN-γとIL-4で同時処理することにより,PD-L2とアルギナーゼ1を高発現する新しいタイプのマクロファージが誘導されることを見出した.そこで本研究では,この現象に着目し新しい免疫制御法の確立を試みる.
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研究実績の概要 |
マクロファージは炎症促進型のM1マクロファージと組織修復型のM2マクロファージに大別され,M2マクロファージは消炎および組織修復の過程において重要な役割を果たしている.令和4年度では,マクロファージをインターフェロン(IFN)-γまたは菌体成分であるリポポリサッカライド(LPS)で前処理した後,インターロイキン(IL)-4で刺激すると,M2マクロファージのマーカー(M2マーカー)であるCD206およびアルギナーゼ(Arg)-1の発現が強く誘導されることを見出している. 令和5年度は,令和4年度で見出された知見の分子機構について解析を進めた.STAT6はIL-4受容体刺激によって活性化されるシグナル伝達分子であるが,IFN-γまたはLPSで前処理したマクロファージにおけるIL-4によるSTAT6の活性化は,前処理しなかった場合と同程度であった.したがって,これらの前処理によるM2マーカーの発現増強には,STAT6以外の情報伝達系が関与していると推察される.そこで,様々な情報伝達経路について検討した結果,本研究におけるM2マーカ発現増強機構には,MEK5/ERK5経路が関与していると考えられた. さらに,M2マーカーの発現増強によって,M2マクロファージの機能の指標となるマンノース受容体を介したエンドサイトーシスがどのような影響を受けるかについて検討した.その結果,M2マーカーの発現増強に伴い,マンノース受容体媒介エンドサイトーシスが著しく亢進することが見出された.すなわち,本研究で得られたM2様マクロファージでは表現型のみならず組織修復型としての機能も増強されていると考えられる.したがって,本研究で見出されたM2様マクロファージ誘導法は,炎症性疾患の新たな治療法の開発につながると期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マクロファージをIFN-γまたはLPSで前処理した後,IL-4で刺激すると, M2マーカー(CD206およびArg-1)の発現が強く誘導される.令和5年度では,M2マーカーの発現増強機構の分子メカニズムについて検討した.IFN-γまたはLPSで前処理したRAW264.7マクロファージにおけるIL-4によるSTAT6の活性化は,前処理しなかった細胞と比較し同程度であることから,M2マーカーの発現増強には,STAT6以外の情報伝達経路が関与していると考えられた.そこで,ERK1/2, JNK, p38 MAPK,NF-kB, PI3K経路について,薬理学的手法を用いた検討を行った.その結果,いずれの経路もM2マーカーの発現増強に関与していないと考えられた.最近,M2マクロファージの分化にMEK5/ERK5経路が関与していると報告されている.そこで,M2マーカーの発現増強におけるMEK5/ERK5経路の関与について検討した.MEK5選択的阻害薬およびERK5選択的阻害薬は,いずれもM2マーカーの発現増強を抑制した.したがって,IFN-γまたはLPSを前処理した細胞ではMEK5/ERK5経路が強化され,IL-4によるM2マーカーの発現が増強されると推察する. さらに,M2マーカーの発現上昇とM2マクロファージとしての機能との関連について検証した.M2マクロファージはマンノース受容体であるCD206を介してコラーゲンを取り込み分解することにより組織のリモデリングに関与していると考えられている.そこで,マンノース受容体を介した抗原取り込みについて解析した.その結果,IFN-γまたはLPSの前処理によるM2マーカーの発現増強に伴い,マンノース受容体媒介エンドサイトーシスが著しく亢進することが見出された.
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は,IFN-γまたはLPSの前処理によるM2マーカー(CD206およびArg-1)発現増強の分子メカニズムについて解析し,M2マーカー発現増強にはMEK5/ERK5経路が関与していることが示唆された.したがって,IFN-γまたはLPSを前処理した細胞ではMEK5/ERK5経路が強化されていると考えられるが,現状で使用できる抗体ではMEK5/ERK5の活性(リン酸化)を検出することができなかった.今後はMEK5/ERK5の遺伝子発現やMEK5/ERK5経路の下流に位置する情報伝達分子について検討を加え,M2マーカー発現増強の分子メカニズムの解析を進めていく方針である.また,MEK5/ERK5経路やその周辺の情報伝達分子に影響を与えるような生理活性物質についても検討し,MEK5/ERK5経路に着目したM2マクロファージ誘導法の探索を行う. IFN-γまたはLPSの前処理によって,IL-4によるCD206およびArg-1の発現誘導が増強されるが,IFN-γとLPSでは,これらの分子の発現増強のパターンが異なる.LPSの前処理ではCD206の発現増強がより顕著に見られ,IFN-γ前処理ではArg-1発現増強がより顕著に見られた.この差異に着目し,CD206とArg-1の発現を個別に制御する新しいM2マクロファージ誘導法の確立を試みる. マンノース受容体であるCD206を介した抗原取り込みは,M2マクロファージとしての機能において重要である.本研究において,IFN-γまたはLPSで前処理した後,IL-4で刺激することによって得られるマクロファージでは,マンノース受容体媒介エンドサイトーシスが亢進していることを見出している.今後,このようなM2マクロファージとしての機能亢進について,マウスin vivoの実験系を用いて解析を進める予定である.
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