研究実績の概要 |
昨年度は、固定した細胞を超解像顕微鏡で観察した結果、上皮成長因子(EGF)刺激前には上皮成長因子受容体(EGFR)がホスファチジルイノシトール4,5-ビスリン酸(PI(4,5)P2)のナノドメインと一部共局在するが、EGF刺激後には共局在率が低下することを見いだした。 本年度は、まず生きた細胞を一分子イメージングで解析した結果、上記の現象は生きた細胞でも起こることが確認された。EGFRとPI(4,5)P2が刺激前に共局在する生理的意義について調べるために、PI(4,5)P2のホスファターゼを細胞内で発現することにより細胞膜中のPI(4,5)P2含量を減少させた。その結果、減少させた細胞では、EGF刺激後のEGFRの二量体化および自己リン酸化が抑制されることがわかった。このことから、EGFRとPI(4,5)P2がEGF刺激前に共局在するのは、EGF刺激直後にEGFRの二量体化および自己リン酸化を促進する意義があることが示唆された。 PI(4,5)P2はEGF刺激後に、EGFRの下流因子であるホスホリパーゼC(PLC)γによって別の脂質に変換される。PLCγ活性をノックダウンにより低下させると、上記で見られたEGF刺激後のEGFRとPI(4,5)P2との共局在率の低下は見られないことがわかった。このことから、PLCγに依存して共局在率が低下することがわかった。EGF刺激後にEGFRが活性化された後、Thr654がリン酸化されることでEGFRは不活性化される。PLCγの活性を低下させた細胞では、EGFRが活性化された後のThr654のリン酸化が抑制されることがわかった。したがって、EGF刺激後のEGFR周囲のPI(4,5)P2の速やかな分解は、EGFRが活性化された後の不活性化を誘導していることが示唆された。
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