研究課題
基盤研究(C)
亜鉛は必須微量元素であり、多くの生命現象や疾患に関与する。古くから生体は亜鉛欠乏ストレスに対して遺伝子発現変動を引き起こすことで対処することが知られてきたが、その分子機構には未だ不明な点が多く、特に亜鉛によるヒストン修飾制御についてはほとんど研究が進んでいない。本研究では、これまで大雑把にしか捉えられてこなかった亜鉛欠乏ストレス状況下における遺伝子発現変動の分子機構をヒストン修飾変動の観点から追究することにより、亜鉛が関わる細胞応答や疾患に関わる分子基盤の解明を目指す。
本年度は、亜鉛によるKAT7活性制御の分子メカニズムの解析を進めた。KAT7は酵素活性部位のごく近傍にzinc fingerを持つことが報告されていたため、亜鉛欠乏下ではzinc fingerに亜鉛が配位できず、酵素活性部位付近の構造が崩れることで活性が失われる可能性を考えた。そこでまずはじめに、亜鉛配位を担うzinc finger内のCys残基を変異させることにより作成した亜鉛を配位できないKAT7のHAT活性を測定したところ、H3K14に対するHAT活性を持たないことが明らかとなった。さらに、亜鉛欠乏下で活性を失ったKAT7に対してin vitroで亜鉛を添加したところ、H3K14に対するin vitro HAT活性が回復した。これらの結果は、KAT7は亜鉛欠乏ストレス状況下においては亜鉛を配位できないために活性を失っている可能性を示唆している。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、亜鉛欠乏により誘導されるKAT7の活性低下の分子メカニズムとその生理的意義の解明を目的としているが、すでに分子メカニズムについては計画している解析を終えることができたため。
今後は、亜鉛欠乏依存的なH3K14ac修飾減弱の生理的意義の解明に取り組む。H3K14acは遺伝子発現を制御するヒストン修飾の一つとして知られているため、亜鉛欠乏依存的なH3K14ac修飾の減弱により、細胞は遺伝子発現変動を引き起こすことでストレス対応していると考えられる。そこで、我々が過去に報告している亜鉛欠乏時の遺伝子発現プロファイルを再解析し、どのような遺伝子発現変動を引き起こすことでストレス対応しているのかを明らかにする。
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Sci. Rep.
巻: 12 号: 1 ページ: 12636-12636
10.1038/s41598-022-16871-3