研究課題/領域番号 |
22K06644
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分47040:薬理学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
川畑 伊知郎 東北大学, 薬学研究科, 特任准教授 (30579743)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | αシヌクレイノパチー / 脂肪酸結合タンパク質 / バイオマーカー / 疾患鑑別技術 / パーキンソン病 / レビー小体型認知症 / FABPリガンド / αシヌクレイン / レビー小体病 / ドパミン受容体 |
研究開始時の研究の概要 |
超高齢化社会を迎え認知症やパーキンソン病の増加が社会問題である。申請者はこれまでに、脂肪酸結合タンパク質(FABP)が神経変性過程において必須であること、血中FABPが加齢やアルツハイマー病・パーキンソン病で変化することを見出した。さらにFABPがレビー小体病の原因タンパク質αシヌクレインの細胞内取り込み過程に必須であることを明らかにした。FABPは脂肪酸の輸送に関与するが、神経機能における生理的意義は不明である。本研究では、加齢や神経疾患でFABP依存的に神経機能が低下する新規分子機構を解明する。さらにFABPシグナルカスケードを標的としたバイオマーカーと神経変性疾患の予防・治療法を開発する。
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研究実績の概要 |
超高齢化社会を迎え、難治性の加齢性神経疾患の克服が喫緊の課題である。私たちはこれまでに、αシヌクレインを原因とするαシヌクレイノパチー、具体的にパーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症モデル細胞およびモデルマウスにおいて、脂肪酸結合タンパク質(FABP)がαシヌクレインの神経細胞内取り込み・伝播プロセスに必須であることを明らかにしてきた。初年度は、3型FABP(FABP3)の機能発現にはドパミンD2受容体が関与すること、FABP3と5型FABP(FABP5)が神経障害におけるミトコンドリア機能の低下に必須であること、7型FABP(FABP7)がグリア細胞におけるαシヌクレインの凝集と毒性発現に関与することを明らかにし、FABP3-αシヌクレイン複合体形成を抑制可能な低分子化合物およびペプチドのスクリーニングに成功した。 そこで第2年度は、これらのFABPファミリータンパク質がヒトの病態において実際にどのような生理的意義を持つのか、神経変性疾患における重要性を検討するために、代表的な加齢性神経変性疾患、具体的にアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、パーキンソン病患者、および健常者において、血漿中のFABPに着目し、各疾患における特徴的なバイオマーカー探索を実施した。その結果、FABP3が各疾患で血漿中レベルで顕著に上昇すること、既知のバイオマーカー群と組み合わせ定量化することで、健常者とレビー小体病を精度よく識別できるだけでなく、上記疾患群を高い精度で鑑別可能であることを明らかにした。さらに腸型FABPであるFABP2の血漿中レベルが、パーキンソン病の進行にともない特徴的に変化することを見出した。これらの結果から、FABPが病態発現に関与し、治療開発における対象患者のスクリーニングにおいてFABPを標的としたバイオマーカー解析が有用であるが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度はFABPファミリータンパク質の神経変性疾患における生理的意義、とくにヒトにおける病態との関与について、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、パーキンソン病、軽度認知機能障害、および健常者のヒト血漿を用い、FABPと既知のバイオマーカー群、具体的にαシヌクレイン、アミロイドβ、Tau、NF-L、GFAP等のバイオマーカー解析を実施した。その結果、各疾患において血漿中のFABP3レベルの顕著な上昇が認められた。またパーキンソン病ではNF-Lが特徴的に、レビー小体型認知症ではGFAPとNF-Lが、軽度認知機能障害ではGFAPがそれぞれ特徴的に増大し、アルツハイマー型認知症では軽度認知機能障害の進行を反映する結果となった。さらに、これらの特徴的な変化を組み込み、AIを用いて各疾患で最適なバイオマーカーの組み合わせを探索し、スコア化した結果、各疾患群を高い精度で鑑別できることが明らかとなった。 一方で、パーキンソン病では発症の20年前から抹消におけるαシヌクレインの蓄積が始まる知見に着目し、前述の疾患群において腸型FABPであるFABP2の血漿中レベルを検討した。その結果、FABP2の血漿中レベルがパーキンソン病の進行にともない特徴的に変化することを見出した。そこで、マウス腸管神経細胞の初代培養系を新たに立ち上げ、FABP2が腸管神経細胞におけるαシヌクレインの細胞内蓄積にどのような生理的意義を持つのか、検討を行った。まず、立ち上げた初代培養マウス腸管神経細胞系において、βIII-Tubulin陽性の神経細胞を確認することができた。さらに、蛍光標識したαシヌクレインに暴露し、FABP2陽性かつTubulin陽性の神経細胞への取り込みを検討した結果、FABP2非陽性細胞では蛍光標識の取り込みが認められないのに対し、FABP2陽性細胞ではαシヌクレインの蓄積が認められた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果より、FABPファミリータンパク質、具体的にFABP2, FABP3, FABP5, FABP7の、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、パーキンソン病、軽度認知機能障害、および健常者における血漿中レベル変化を明らかにし、各疾患における特徴的な変動を定量化することでどの疾患リスクが最も高いかを鑑別可能であることが示唆された。また、FABPファミリータンパク質がこれらの加齢性神経疾患において、病態の進行に関与することが示唆された。また今年度は、特に末梢性のFABPであるFABP2に着目し、FABP2の血漿中レベルが、パーキンソン病の進行にともない特徴的に変化することを見出した。これらの結果から、FABPが病態発現に関与し、治療開発における対象患者の鑑別と層別化において応用可能であることが示唆された。 そこで最終年度は血中に加え、FABPの中枢神経系における病理的意義を明らかにするために、剖検脳を用いた免疫組織化学的解析を実施し、レビー小体病におけるFABPの病態への関与を検討する。また、バイオマーカー解析により明らかになったレビー小体病の鑑別方法と定量化が、臨床症状と相関するか、その有用性を検証する。さらに、初年度に見出したレビー小体病の治療薬候補について、その詳細な作用機序を明らかにする。具体的に、1:1で結合するαシヌクレインとFABP3の解離作用の生化学的解析、神経変性プロセスにおけるFABPのミトコンドリア局在化とミトコンドリア膜におけるポア形成の抑制作用の検討、マウス生体における安全性と体内動態を明らかにし、レビー小体病の新規創薬戦略の有用性と治療薬開発を達成する。
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