研究課題/領域番号 |
22K06731
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分47060:医療薬学関連
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
川野 雅章 埼玉医科大学, 医学部, 准教授 (30447528)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | Simian virus 40 / VP1 / Virus-like particle / 獲得免疫 / 抗体産生 / 細胞傷害性T細胞 / CD86 / CCL3/CCL4 / Polyomavirus / antigen presentation / cancer vaccine |
研究開始時の研究の概要 |
Simian virus 40 (SV40) のウイルス様粒子 (Virus-like particle, VLP) は、免疫細胞に作用すると、炎症性サイトカインの産生を誘導せずに、抗原提示活性化因子の発現を上昇させて獲得免疫を誘導することで、SV40 VLPに内包した抗原に対する細胞傷害性T細胞および抗体産生を誘導することが我々の研究で明らかになっている。しかしながら、抗原提示のみを活性化するような免疫機構は現在知られていない。本研究では、この未知の分子機構を解明し、獲得免疫を強力に活性化する機構を利用して、次世代がんワクチンの構築に有用な手段を開発することを目的としている。
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研究実績の概要 |
サルのポリオーマウイルスであるSimian virus 40 (SV40) は、VP1タンパク質のみで直径50 nmの正二十面体構造のウイルス粒子を形成することができる。5つのVP1はVP1五量体と呼ばれるドーナツ状のサブユニットを形成した後、72個のVP1五量体が宿主因子を必要とせずに自己集合化することでウイルス粒子を形成する。我々はこれまでに、組換え体としてSV40 VP1を昆虫細胞で大量発現させることで中身が中空のウイルス様粒子 (Virus-like particle, VLP) を形成させて、このVLPを高度に精製する技術を構築した。また、このVLPの内部に外来の抗原タンパク質を内包する技術も構築した。さらに、この外来抗原を内包したVLPをマウスに投与すると、免疫賦活剤(アジュバント)を加えること無く、内包した外来抗原に対して、水酸化アルミニウムアジュバントと共に抗原を免疫した場合と同等の抗体産生を誘導し、また、CpGアジュバントと共に抗原を免疫した場合以上の細胞傷害性T細胞を誘導することを明らかにした。その一方で、SV40 VLPは、他のアジュバントとは異なり、リンパ球と混合しても、炎症性サイトカインであるIFN-γ, TNF-α, IL-6, IL-1βの産生を誘導せず、従ってマウスに外来抗原内包VLPを導入した部位に炎症を誘導することは無かった。このSV40 VLPに特有の獲得免疫誘導機構の分子メカニズムを解析する中で、SV40 VLPはB細胞に対して、強力にCD86の発現を誘導し、CCL3/4の分泌を誘導することを発見した。さらに、このSV40 VLPに特異的なCD86の発現は、恒常的なCD86のユビキチン化による分解誘導を阻害することで誘導されている可能性を示した。この発現誘導はシャペロンタンパク質阻害剤や細胞増殖阻害剤でも抑制されることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画年度においては、サルのポリオーマウイルスであるSimian virus 40 (SV40) のVP1タンパク質のみで構成されたウイルス様粒子 (Virus-like particle, VLP) がマウスリンパ球に作用するとCD86分子の発現を強力に上昇させる免疫機構、および、CCL3/4の分泌を強力に誘導する機構の分子メカニズムを解析することを目的とした。CD86分子は、免疫細胞が獲得免疫を誘導するにあたり、抗原提示細胞であるマクロファージや樹状細胞が、外来のウイルスや細菌などの抗原を取り込み、それらのタンパク質をペプチドに分解して、MHC class I/II分子で分解した抗原由来ペプチドを提示する。この抗原由来ペプチド-MHC class I/II複合体を未熟細胞傷害性T細胞 (MHC class Iを認識) および未熟ヘルパーT細胞 (MHC class IIを認識) 各々のT細胞受容体が認識することでエフェクターT細胞となるが、その際、CD86は補助刺激因子として重要な働きをする。また、CCL3/4は遊走因子として抗原提示細胞がT細胞を引き寄せるために重要な因子であると考えられている。そのために、まず、SV40 VLP特異的なCD86の発現上昇とCCL3/4の分泌を誘導する免疫細胞の探索を行い、B細胞が最も強力にこれらの誘導を行うことを明らかにした。さらに、B細胞におけるSV40 VLP特異的なCD86分子の発現上昇が、CD86分子の脱ユビキチン化誘導経路で制御されており、特定のシャペロンタンパク質阻害剤や細胞増殖阻害剤がこの脱ユビキチン化誘導経路を遮断し、CD86分子の発現上昇を抑制する可能性が示唆された。そのため、本研究計画年度の目的であったCD86分子の発現を強力に上昇させる免疫機構の分子メカニズムの解析はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては、本研究計画年度に引き続き、CD86分子の発現を上昇させる免疫機構の分子メカニズムをさらに詳細に解析することを目的とする。これまでのところ、樹状細胞などの抗原提示細胞におけるCD86の恒常的なユビキチン化が、E3ユビキチンリガーゼであるMARCH1により行われており、常にCD86の分解が誘導されていることが示唆されている。この恒常的なユビキチン化が抑制されると、CD86の発現が安定化し、細胞表面にCD86が発現する。細菌およびウイルスに特有の成分がToll-like receptorなどのパターン認識分子により免疫活性化された際に発現誘導されるCD83分子に存在する膜貫通領域はMARCH1と相互作用することで、CD86とMARCH1との相互作用を奪い、その結果CD86の恒常的なユビキチン化が抑制されることが示唆されている。この分子メカニズムがB細胞におけるSV40 VLPに特異的なCD86の発現上昇にも関与していることを解析するために、まず、抗CD83抗体を用いたフローサイトメトリーを用いてB細胞においてSV40 VLPに特異的なCD83の発現上昇が誘導されていることを解析する。さらに、CD83の発現上昇には、IRF1, IRF2, IRF5, p50, p65, cRelなどの転写因子の関与が示唆されているので、これらの転写因子の上流のシグナル伝達に対する阻害剤やノックダウン法を駆使して、B細胞のCD83の発現を抑制させた状態では、SV40 VLP特異的なCD86の発現上昇が抑制されることを解析する。さらに、抗CD86抗体を用いたフローサイトメトリーにより、マウスB細胞系リンパ腫細胞株であるA20を用いて、ユビキチン化抑制剤によりCD86の発現上昇が誘導されること、および、CD83の強制発現によりCD86の発現上昇が誘導されることを解析する。
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