研究課題
基盤研究(C)
本研究は、サルファ剤の使用によって引き起こされる日本人のStevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症、薬剤過敏症症候群等の重症薬疹に、HLA-A*11:01が有意に関連していることを世界で初めて発見した申請者らの独自の成果に立脚し、同HLAを中心にサルファ剤による重症薬疹が発症するメカニズムをin vitro/in vivoの両面から分子病態学的に解明しようとするものである。本研究によりHLA-A*11:01の病態発現への関与が分子レベルで明らかにされれば、重篤副作用の予測・予防・治療の観点から、医療薬学への大きな貢献が期待される。
今年度は、HLA-A*11:01のC末端にFLAGタグを導入した上、さらに細胞内酵素により自己切断される配列を介してβ2-microglobulinをつないだ融合タンパク質のcDNAを設計し、pcDNA3.1哺乳動物発現ベクターに挿入した。また、同様の設計のHLA-B*57:01の発現ベクターも調製した。これらのHLA発現ベクターを、子宮頸がん細胞株(HeLa)またはシトクロムP450酵素類の発現を強化したヒト肝がん細胞株(TC-HepG2)に発現させた。さらに、HLA-B*57:01発現細胞にはアバカビルを、HLA-A*11:01発現細胞にはスルファメトキサゾールをそれぞれ24時間処理し、細胞を破砕、ライセートからHLAタンパク質を単離した。この画分を酢酸処理し、HLA結合ペプチドを遊離させ、逆相カラムにより精製後、Vanquish neoナノHPLCシステムに連結したQ Exactive HF Orbitrap質量分析計を用いてMS/MS測定を行った。アバカビルを暴露したHeLa細胞においては、既報で知られている通り、HLA-B*57:01結合ペプチドのうちC末端側の使用アミノ酸の頻度が芳香族アミノ酸から脂肪族アミノ酸へと有意に変化した。また、提示されるペプチドの大半は細胞質に存在することが知られているタンパク質に由来していた。このことから、本手法の妥当性と信頼性が示された。最後に、スルファメトキサゾールで暴露したTC-HepG2細胞のHLA-A*11:01結合ペプチドの解析を行った。同ペプチドも、細胞質タンパク質に由来するほか、N末端から2番目およびC末端の位置におけるアミノ酸使用頻度は既報の通りで、信頼できる測定結果が得られた。しかし、暴露の有無による特定の位置のアミノ酸使用頻度への有意な影響は観察されなかったため、最終年度は暴露条件をさらに検討する。
2: おおむね順調に進展している
HLA発現系およびそのペプチド解析系が構築でき、順調に進んでいる。
研究実績の概要で述べた通り、HLA-A*11:01の結合ペプチドを解析したところ、現在の暴露条件ではアミノ酸使用頻度への有意な影響は認められなかった。暴露するサルファ剤の種類や濃度等を検討し、本当にアミノ酸変化が起こらないのかどうか、検討を重ねる。
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Hepatology Research
巻: 53(5) 号: 5 ページ: 440-449
10.1111/hepr.13874