研究課題/領域番号 |
22K06782
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分47060:医療薬学関連
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研究機関 | 横浜薬科大学 |
研究代表者 |
矢野 健太郎 横浜薬科大学, 薬学部, 講師 (40644290)
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研究分担者 |
岩瀬 由未子 横浜薬科大学, 薬学部, 准教授 (00521882)
張 協義 東京理科大学, 研究推進機構総合研究院, 研究員 (60878510)
桑原 隆 横浜薬科大学, 薬学部, 教授 (90786576)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | P-糖タンパク質 / がん薬物耐性 / 濾胞性リンパ腫 / 排出系トランスポーター / 抗がん薬 / 膜局在 / CD44 / 薬物耐性 / 転移能 / 膜裏打ちタンパク |
研究開始時の研究の概要 |
がんは、継続的な薬物治療時に転移能および薬物耐性能を獲得する。この原因として、膜上に発現するヒアルロン酸受容体(CD44)およびP-糖タンパク質(P-gp)の機能上昇がある。申請者らは、P-gpの膜上発現を支える足場タンパクの分子種が、組織間で異なることを明らかにしている。一方、CD44の膜上発現も同じ足場タンパク群による調節を受けるが、分子種は曖昧である。これらのことから、同一の組織においてP-gpとCD44の機能が、同じ足場タンパク質によって調節されていることを明らかにすることができれば、足場タンパク質の機能抑制によって転移と薬物耐性の一括かつ組織選択的な制御が可能となる、と考えた。
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研究実績の概要 |
臨床において濾胞性リンパ腫細胞の治療薬として用いられるドキソルビシン(Dox)やビンクリスチン(Vinc)に対する、濾胞性リンパ腫細胞株Sci-1とMinami-1細胞の薬物耐性能とそのメカニズムについて各種検討を行った。Sci-1およびMinami-1、いずれの細胞においてもDoxやVincを持続的に曝露により、これらの薬物を細胞内から排出するトランスポーターであるP-糖タンパク質(P-gp)のmRNA発現およびタンパク質発現が、顕著かつ有意に上昇していた。特にDoxとVincの併用時にその変動は大きかった。すなわち、これまで固形がんを用いた他の報告と同様にリンパ腫細胞においても、DoxやVincによってP-gpはmRNAレベルから発現誘導されていることが示された。そこで、P-gpの基質薬物であるrhodamine123の排出クリアランスを算出したところ、DoxとVincを併用添加した細胞において有意な増加が認められた。さらに、DoxおよびDoxとは異なるP-gpの基質抗がん薬であるベンダムスチン(Ben)に対する耐性能も有意な亢進が認められた。一方、P-gpの阻害薬によって、排出機能の低下およびDoxに対する耐性能の減弱が認められたことから、本研究において認められた薬物耐性能には、P-gpの輸送機能亢進が極めて重要な因子として機能していることが示唆された。(日本薬物動態学会第38回年会, 2023, 静岡にて発表)さらに、DoxとVincにより薬物耐性が亢進した細胞においては、リツキシマブなどの抗体医薬の標的である細胞表面抗原CD20の発現が、mRNAおよびタンパク発現量のいずれにおいても低下していることを見出した。(日本薬学会第144年会, 2024, 横浜にて発表)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、P-gpおよびCD44の膜上発現と調節因子であるERM分子種の決定を目的に、P-gpおよびERMの膜上発現量、およびCD44の膜上発現量の変動の評価に着手した。細胞膜上の各種タンパクの発現変動を評価するため、DoxおよびVincを持続曝露した濾胞性リンパ腫細胞株を回収し、細胞膜を抽出した。その結果、P-gpの細胞膜上のタンパク質発現量は、NT<Vinc<Dox<Dox+Vincとなっており、mRNA発現量および細胞全体のP-gpのタンパク質発現量の上昇と一致していた。さらに、P-gpの基質薬物の排出クリアランスもDox+Vinc持続曝露細胞において有意に上昇しており、これに対してP-gp阻害薬であるベラパミルの添加により有意な低下が認められた。したがって、P-gpの膜上発現上昇により、P-gpの輸送機能が亢進したことが示唆された。次にがん転移かつP-gpの機能を調節するCD44、および P-gpとCD44の膜上発現を調節する足場タンパク質であるERMタンパクの発現が、Dox+Vinc持続曝露により変動しているかを評価した。その結果、CD44およびERMタンパクのmRNA発現量は増加を示していた。並行して、ERMのタンパク質発現量をWestern blottingにより評価したところ、mRNA発現量の増加と相関して、細胞全体における顕著な増加が確認された。これらの結果が統計学的に有意な上昇であるかに加え、細胞膜上での発現も変動しているかを明らかにするため追加検討を行っている。また、非小細胞肺がんの転移モデルとして薬剤誘発性の上皮間葉転換の誘導にも着手しており、既にEMT化の条件を見出している。なお、興味深いことに、耐性化細胞において治療薬の標的となる一部のタンパク質が減少していることを見出しており、今後さらなる検討が必要であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度からの継続内容として、薬物耐性化した濾胞性リンパ腫細胞および、転移モデル細胞として上皮間葉転換を誘導した非小細胞肺がん細胞を用いて、これらの細胞におけるCD44およびERMタンパクの細胞膜上発現の増加を明らかにする。次に薬物耐性および転移能におけるP-gp―ERM―CD44複合体の存在を確認する。方法としては、各種細胞の溶解液を用いて、ERM抗体やP-gp抗体による共免疫沈降法、続いてWestern blottingを行う。これにより、ERM-P-gp、P-gp-CD44、ERM-CD44、それぞれの複合体を確認し、大まかにP-gp-ERM-CD44複合体の存在を確認する。続いて、ERM各分子種別に同様の検討を行い、P-gpおよびCD44と複合体を形成している分子種を絞り込む。さらに、そのERM分子種の遺伝子発現をknockdownによって抑制し、P-gpとCD44の膜上タンパク発現量が減少するかを検討する。またこのとき、P-gpの輸送機能、抗がん薬に対する薬物耐性能および転移能を評価し、同一あるいは単一のERM分子によって、細胞膜上でのP-gpとCD44の局在および機能が同時に調節されているかを明らかにする。以上の検討により、各組織においてP-gpおよびCD44の機能を調節しているERM分子種を同定し、薬物耐性および転移を同時かつ組織選択的に抑制できることを示す。もし特定のERM分子種の関与が認められなかった場合には、P-gpとCD44に共通する細胞膜移行シグナル(RhoAなどの各種リン酸化酵素)の同定に着目点を変更するなど、薬物耐性と転移の両方を同時に抑制するための方法を弾力的に探索する。なお、特定のERM分子種の抑制が生体環境におけるがん細胞の薬物耐性および転移能の抑制に有用であるかを、担がんマウスを作製して検討していく予定である。
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