研究課題/領域番号 |
22K06832
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分48020:生理学関連
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
松下 正之 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30273965)
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研究分担者 |
高松 岳矢 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90801431)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 精神疾患 / 双極性障害 / ミトコンドリア / カルシウムシグナル / 遺伝子改変マウス / iPS細胞 / ゲノム解析 / 家系 |
研究開始時の研究の概要 |
双極性障害は遺伝的背景が強い精神疾患として知られているが、疾患発症メカニズムは謎であり効果的な治療方法もない。私たちは、双極性障害の大家系からのゲノム解析や発現解析により、疾患連鎖領域として同定した1番染色体に存在するミトコンドリア制御遺伝子の発現レベルが、この領域内の遺伝子の網羅的な発現解析で疾患アレル特異的に低下していることを見出した。さらに、患者由来iPS細胞を樹立し、その細胞から誘導した神経細胞でミトコンドリア機能、神経細胞形態変化、細胞内カルシウム濃度変化、セロトニンなどの伝達物質による神経活動変化などを患者と非罹患者で比較検討し臨床的にも重要な意味を持つ病態解明を目指している。
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研究実績の概要 |
私たちは双極性障害の強い遺伝要因の同定を目指して家系調査を行い、沖縄県で双極性障害と反復性うつ病の多発する大家系を見出した。この家系のゲノム解析を行なった結果、1番染色体のハプロタイプ6Mbが疾患と完全に共分離し(LOD=3.611)していることを見出した。さらに、患者3名(双極性障害I型)、家系内健常人3名、家系外健常人3名について各3クローンのiPS細胞を核型解析や分化能などを検証し樹立した。 1)このiPS細胞から誘導した神経細胞の網羅的なアレル特異的発現解析により、REF(参照アレル)によりミトコンドリア遺伝子が特異的に低下していることが明らかとなった。私たちは、疾患iPS細胞からGultaminagic神経細胞をレンチウイルスにより誘導する系を確立し、その遺伝子の機能解析や生化学的な解析を進めている。 2)誘導神経でのカルシウムイメージングを行い、この誘導神経細胞で、疾患特異的にカルシウム発火が上昇していることを見出した。この細胞内カルシウム濃度の変動が新規疾患関連ミトコンドリア遺伝子に起因しているのかの検証のために、細胞レベルでこの遺伝子をノックダウンし、細胞内カルシウムやミトコンドリア膜電位に与える影響を検証した。この遺伝子の発現低下は細胞内カルシウム変動の異常を示すことが明になっている。 3)1番染色体領域内の遺伝子で疾患特異的にmRNAの発現低下をしているミトコンドリア遺伝子の遺伝子改変マウスを作成した。今後、遺伝子改変マウスでの生化学的解析や行動解析などを進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)疾患iPS細胞からの誘導神経細胞を用いた形態解析:誘導神経細胞での神経細胞の形態の比較観察を、細胞骨格(MAP2など)、シナプス形成(Piccolo、シナプシン、PSD95など)、ミトコンドリア形態などを免疫組織学的に健常人と患者細胞で検討した。これまでの研究で、神経突起の伸長や分岐には異常がないことが明らかになっている。シナプス構造検討のために、シナプス形態の変化をプレ・ポストシナプス特異的なマーカで免疫染色を行い詳細を明らかにした。 2)疾患iPS細胞からの誘導神経細胞を用いたミトコンドリ機能解析:ミトコンドリアをライブセルイメージングで観察し、形態変化や膜電位変化を検証した。ミトコンドリア形態変化については実績があり実験系は確立している。発見したミトコンドリア遺伝子の細胞内局在、セロトニンや各種薬剤刺激での発現変化、ミトコンドリア膜電位、ATP産生などを誘導神経細胞で検証している。特に、新規ミトコンドリア遺伝子はPKAの活性化でATP合成酵素の活性制御が行われていることが知られているため、神経細胞においてcAMP濃度上昇に関与する神経伝達物質によるリン酸化状態を既に同定されているリン酸化部位を認識するリン酸化特異的抗体により明らかにしている。 3)新規ミトコンドリア遺伝子の改変マウスの作成:タモキシフェン誘導による脳特異的遺伝子改変マウスを作成した。現在、このマウスを用いて行動解析実験を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
沖縄県は琉球民族より成り立ち、沖縄県では遺伝学的に孤立した均質な集団が形成されていることが報告されていた。このような孤立した集団では、遺伝的に影響力の強い疾患遺伝子が保存されていることが明らかになっている。私たちは、沖縄県では影響力の強い遺伝子を持つ精神疾患家系が存在すると考え家系調査を進めた。その結果、双極性障害の大家系を発見し、ゲノム解析により染色体1番の連鎖領域を同定した。さらに、この疾患連鎖領域内に存在する遺伝子群のハプロタイプ特異的なプライマーによる患者と健常者の遺伝子発現変化を次世代シークエンサーによるAllele-Specific Transcription Analysisにより行った。その結果、ミトコンドリアATP synthaseの機能を抑制する新たな遺伝子の患者群での特異的な低下を見出した。このミトコンドリア遺伝子は脳に高発現しており、ノックアウトマウスでは脳の炎症が亢進していることが既に示されている。脳の炎症と気分障害の関係は注目されており、我々の見出した遺伝子の制御異常が気分障害に関与している可能性を示唆している。今後は、新規疾患関連ミトコンドリア遺伝子の改変マウスを用いて、気分障害に関連する行動実験を中心に行いミトコンドリア代謝と気分障害の関連を明らかにしていく予定である。
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