研究課題
基盤研究(C)
血管は、最大の臓器で、体中に存在する生命のライフラインである。血管は、創傷を受けた組織で活発な血管新生を示して血管網の修復を行なうが、この時、生化学的・機械的制御を受ける。しかし損傷血管網の再生に対する機械的な制御についてはあまり調べられていない。申請者らは、これまでの研究で、創傷部位での損傷血管の伸長が内腔圧によって抑制される現象とその機械的制御機構を分子レベルで解明した。申請者は、続いて、Ca2+シグナルなどの新たな分子の関与、多くの血管が損傷する深い創傷での同制御機構などの未解明な点、および本現象と本制御機構の生物での生理的意義を統合的に明らかにする。
1年目に、研究を遂行していく中で、仮説通りではないことが分かったため、目的①と②は中断して、目的③に集中することにした。2年目には、目的③に集中して取り組んだが、癌については、ゼブラフィッシュに癌を移植する実験手法が確立できなかったために断念して、「内腔圧が血管新生を制御する機構とその生理的意義」の解明にさまざまな実験から取り組むことにした。高血圧を呈すると過去の論文で予想されていた遺伝子改変ゼブラフィッシュcnnm2a KO, nt5c2a KOの2種類を入手して、発生期の胚・稚魚で高血圧が血管新生に与える影響を解析しようとした。ところが、2種類の魚はともに、発生期で心拍も血流も野生型の魚と違いを示さなかった。したがって、過去の論文の結果は再現できず、同魚では高血圧を再現できないと結論づけて、同魚での血管新生の解析は断念した。ゼブラフィッシュ成魚の皮膚で、損傷血管の血流に対して上流側と下流側の伸長の違いを内腔圧が調節することを研究代表者らが先行研究で示したが、さらにそれら伸長している血管の上流と下流がなぜ元通りに吻合するかの解明に取り組んだ。血管を損傷後も血管が存在した跡が残っていると考えて、血管の基底膜の構成分子Col4を免疫染色で同定してみたが、血管の痕跡らしきものは観られなかった。次に、損傷血管の上流側が下流側の伸長を誘引すると考えて、上流側を根元の細動脈から消失してみたが、下流側は元通りに伸長して、消失した上流側が再生したものと吻合した。そこで、現在、他の可能性について検討している。他にも、内腔圧による血管新生に関与すると予想される遺伝子改変ゼブラフィッシュを作製して、それら遺伝子の役割の解析を始めた。
4: 遅れている
目的①と②は、前年度報告書および上述の概要の通り、中断して、目的③の癌に関する部分も、上述の概要のように実験手法の難しさにより中断した。さらに目的③を中心にいろいろな実験を試したが、入手した遺伝子改変ゼブラフィッシュ2種類が過去の報告のように全く高血圧を示さず、ゼブラフィッシュ成魚の損傷血管の伸長・吻合についても立てた仮設2つが違っていた。したがって、当初の予定より大幅に遅れてしまった。しかしながら、立てた仮説が正しいかどうか、得た遺伝子改変動物が本当にその表現型を示しているかどうかを、いくつも明確にできたため、次の1年では、それらを元にしっかり実験ができる。
これまで、目的①、目的②、目的③の一部を断念して、入手した遺伝子改変動物が利用できない結論に達したこと、新たに立てた仮説が違っていることを示したことなど、研究が思い通りに進まなかったが、これらは全てはっきりさせてきたため、次の1年は、より明確に研究していける。すでに新たな遺伝子改変動物を自ら作製したため、その解析を行う。また、別の仮説を立てているため、その検証を行う。それらの取組みによって、本研究課題の「内腔圧が血管新生を制御する機構とその生理的意義の解明」に迫っていけると考えている。
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