研究課題
基盤研究(C)
DOXは、p53関連遺伝子の発現を増加させ心筋細胞死を誘導することが報告されている。DOXによる心機能障害はp53との関連が示唆されていることから、p53により最も発現が上昇するPHLDA3遺伝子の関与も示唆される。しかしながら、抗がん剤性心機能障害に対するPHLDA3の影響についてはこれまで検討されていない。がん治療では、遺伝子情報に基づいた個別化治療が進んでおり、今後p53やPHLDA3をターゲットとした治療薬は主流となってくる可能性が考えられる。したがって、p53やPHLDA3遺伝子治療の副作用として起こる心機能障害の生理的役割の解明を本研究により明らかにしたいと考えている。
近年、がん治療において遺伝子情報に基づいた個別化治療が進んでいる。がん抑制遺伝子であるp53は、多くのがん腫において機能不全を起こしていることが知られているが、一方で心不全、がん治療関連心機能障害(CTRCD)、心筋梗塞、虚血再灌流障害時に発現が上昇することが報告されている。Akt抑制因子をコードする新規がん抑制遺伝子PHLDA3はp53の標的遺伝子であり、p53により非常に強く発現誘導される一方、PHLDA3による心機能への影響は明らかになっていない。そこで本研究では、CTRCDを起こす代表的な薬剤ドキソルビシン(DOX)を用いて、PHLDA3の心機能に対する役割について検討を行った。10週齢のPHLDA3 WTマウスとKOマウスにDOX12.5 mg/kgを1回投与後、1週間観察を行い心エコーおよび生化学的解析により心機能を評価した。PHLDA3 WTマウスではDOX投与により心重量が有意に低下していた。一方、KOマウスでは心重量の低下を抑制する結果が得られた。また、qRT-PCRによる心筋のBNP発現量は、DOX投与を行ったKOマウスではWTに比べ発現量が抑制された。さらに、心不全時に発現量が増加することが知られるβミオシンヘビーチェーンについても検討を行ったところ、DOX投与によりWT、KOどちらも発現上昇が認められたが、KOマウスの発現量はWTに比べ有意に抑制されていた。さらに左室駆出率(LVEF)についてもKOマウスはWTに比べ、DOXによるLVEFの低下を抑制することが明らかとなった。以上の結果からDOX誘発性心機能障害に対しては、がん抑制遺伝子PHLDA3の遺伝子欠損が心毒性を軽減する可能性が示唆された。現在PHLDA3遺伝子欠損によるDOX心毒性軽減効果のメカニズムについてさらに解析を進めており、心筋のRNAseqによる解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通りPHLDA3による心機能への生理学的な役割を、DOXを用いて評価することができている。より詳細な解析については次年度以降に行う予定である。
得られたRNA-seqの結果から、PHLDA3が心機能に関する生理学的意味と役割について検討し、今後高齢マウスでの表現型に違いが生まれるかなど、評価を行っていく。
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