研究課題/領域番号 |
22K06856
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分48030:薬理学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大垣 隆一 大阪大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (20467525)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | アミノ酸トランスポーター / 腫瘍血管新生 / 細胞内シグナル伝達 / VEGF-A / 血管新生阻害療法 |
研究開始時の研究の概要 |
がん細胞では、活発な増殖を支える栄養であるアミノ酸の取り込みが上昇している。特に重要なのが、アミノ酸を取り込む機能を持つ「輸送体分子」のLAT1である。LAT1の機能を阻害する化合物は、新たな抗がん薬として開発が進められている。近年、LAT1はがん細胞のみならず腫瘍組織内の血管を構成する内皮細胞にも高発現していることが明らかになった。腫瘍組織の血管は、栄養や酸素を供給することでがんの成長に寄与する。本研究は、LAT1が腫瘍組織内の血管の形成に寄与する仕組みを詳細に解明し、がん細胞と血管内皮細胞の両方の機能を標的とした効果的ながん療法の開発に繋げることを目指している。
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研究実績の概要 |
本研究は、がんの新規治療標的として期待されている必須アミノ酸トランスポーターLAT1と、血管新生因子VEGF-Aが腫瘍血管新生において協働する分子機構を解明し、両者に対する阻害薬の併用によって、血管新生阻害作用の増強に依拠した高い抗腫瘍効果の実現を試みるものである。新たな血管新生阻害療法にもつながる併用効果について、その基盤となる分子機序の確立を目指す。研究初年度にあたる令和4年度は、VEGF-A刺激による血管内皮細胞LAT1の発現誘導の機序について、ヒト臍帯静脈内皮細胞HUVECを用いたin vitro解析を実施した。種々の阻害薬を用いた検討の結果、VEGF-A刺激依存的な血管内皮細胞LAT1の発現誘導に寄与するシグナル伝達経路を見出した。詳細については今後さらなる検証が必要であるが、血管内皮細胞のLAT1の発現制御において、VEGF-Aが果たす役割とその分子機構に関する重要な知見を得た。腫瘍血管内皮細胞におけるLAT1の高発現には、がん細胞が腫瘍間質に分泌するVEGF-Aを介した「がん細胞-血管内皮細胞間相互作用」の寄与が想定される。これを模した系として、がん細胞株の条件培地でHUVECを刺激する実験にも着手したが、現在のところ、LAT1の発現誘導の検出には至っていない。しかしながら、がん細胞を低酸素下で培養することにより条件培地中に分泌されるVEGF-Aの量が増加することを確認している。今後、実験条件のさらなる最適化によって検証が可能となり、腫瘍血管内皮細胞のLAT1発現におけるがん細胞由来のVEGF-Aの寄与の解明が進むものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
VEGF-Aによる血管内皮細胞LAT1の発現誘導の機序について、ヒト臍帯静脈内皮細胞HUVECを用いた解析を実施した。各種阻害薬を用いた検討において、あるシグナル伝達経路上の因子の機能阻害が、VEGF-A刺激によるLAT1の発現亢進をmRNAレベルで殆ど完全に抑制し、タンパク質レベルでも顕著な発現抑制を示した。このとき、同阻害薬は、LAT1遺伝子の転写制御に直接的に関わっているとされる転写因子の発現も、mRNAおよびタンパク質レベルで同様に抑制した。がん細胞では、LAT1遺伝子が同転写因子の直接の標的として転写制御を受けていることも報告されている。以上より、血管内皮細胞のVEGF-A依存的なLAT1発現誘導においても、がん細胞と類似した転写制御機構が関与していることが示唆された。またその上流に存在する同転写因子の発現制御に与る、シグナル伝達経路についても概ね明らかになった。次に、がん細胞が産生したVEGF-Aによる血管内皮細胞LAT1の発現誘導の可能性について検討するため、大腸がん細胞株5株から条件培地を調製したHUVECをこの条件培地で刺激したところ、一部の細胞株由来の条件培地によって、LAT1のタンパク質量が増加する傾向が見られた。しかし、その変化の程度は僅かであり、条件培地中のVEGF-A量と結び付けた定量的議論は困難であった。ELISA法による定量の結果、培地に直接VEGF-Aを添加して刺激する従来の方法に比べると、条件培地中のVEGF-Aの濃度は大幅に低いことが明らかになった。以上より、VEGF-AによるLAT1の発現誘導を検討するためには、条件培地中のVEGF-A濃度が不充分であることが示唆された。そこで、がん細胞株の培養を低酸素条件下(1% O2)おこなったところ、通常条件(21% O2)に比べて条件培地中のVEGF-A量が大幅に増加することが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
VEGF-Aによる血管内皮細胞LAT1の発現誘導の機序については、令和4年度に見出した転写因子の阻害薬を用いた検討によって直接的な寄与を明らかにする。同転写因子の発現制御機構については、シグナル伝達経路の個々の下流因子の活性化状態を解析することで解明する。また、同転写因子がシグナル伝達経路の因子によって直接リン酸化されることでタンパク質レベルで安定化する可能性についても検討を実施する。以上の解析はHUVECに加えて、大腸がん細胞株HT-29をヌードマウス皮下に移植して作製したゼノグラフト腫瘍から単離した腫瘍血管内皮細胞でも実施する。また、同腫瘍血管内皮細胞をVEGF-Aで刺激し、LAT1阻害薬処理および遺伝子ノックダウンによって、その下流のmTORC1活性化におけるLAT1の機能的意義を検討する。すでにHUVECにおいては、mTORC1活性のスイッチングを担うLAT1の機能を見出しているが、腫瘍血管内皮細胞においても共通する機構の存在の有無を検証する。条件培地を用いた検討は、がん細胞から腫瘍間質に分泌されたVEGF-Aによる「がん細胞-血管内皮細胞間相互作用」を模したものであるが、現在のところ、HUVEC細胞でのLAT1の発現誘導の検出には至っていない。ELISA法による定量の結果は、培地に直接VEGF-Aを添加して刺激する従来の方法に比べると、条件培地中のVEGF-Aの濃度が大幅に低いことを示しており、培養時間の延長や、条件培地の濃縮などの実験条件の最適化を引き続きおこない、LAT1の発現誘導の検出が可能になる条件を見出す。
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