研究課題
基盤研究(C)
本研究では補酵素NAD+の分解を介して軸索変性を誘導する分子SARM1に着目し、軸索変性が病態進行に関与すると考えられているパーキンソン病の治療応用に向けた研究を行う。我々は独自のスクリーニングからSARM1のNAD+分解活性を阻害する化合物とSARM1の分解制御に関わる新知見を得ているので、そのメカニズム解明に取り組み、軸索変性を標的としたSARM1阻害薬の実用化に向けた研究を進める。
細胞のエネルギー産生に重要な補酵素NADを消費し、軸索変性を誘導する分子SARM1の活性・分解制御に関する研究を行っている。当該年度はSARM1の活性化抑制機構として、細胞の生存等に関与するSTAT1/3経路がJNK(c-Jun N末端キナーゼ)を介したSARM1のリン酸化を抑制するメカニズムを見出し、論文で発表した。STAT1/3経路は、NAD合成酵素であるNMNAT2の発現制御にも関与しており、これらの作用により細胞内NAD量の減少を抑え、軸索変性を抑制する作用を有していた(Cell Signal, 108, 2023)。SARM1のリン酸化による活性化がパーキンソン病(PD)の病態形成に関与することを、PD患者由来のiPS細胞から分化誘導した神経細胞とPDモデルマウスを用いて解析を行い、論文で発表した。健常者由来の神経細胞と比較して、PD患者由来の神経細胞では機能不全ミトコンドリアが蓄積しており、活性酸素種の発生量が増加していた。その結果、JNKが活性化し、SARM1のリン酸化が上昇していた。ミトコンドリア呼吸鎖を阻害し、PD様症状を誘発することが知られているロテノン投与PDモデルマウスにおいても、中脳領域でのSARM1のリン酸化上昇や軸索変性の亢進が観察された(J Biochem, 174(6), 2023)。SARM1の分解制御機構について、当該年度は免疫沈降法によるSARM1結合タンパク質の解析で、SARM1の分解に関与する分子候補を見出した。この分子の過剰発現でSARM1の量が減少するため、現在その詳細な分子メカニズムについて解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
SARM1の活性制御機構として、STAT1/3経路による活性抑制メカニズムとミトコンドリアからの活性酸素種発生によるJNK活性化を介したリン酸化誘導メカニズムを見出し、それぞれ論文として発表することができた。SARM1の分解制御機構に関しても、SARM1の分解に関与する候補分子を見出し解析を進めることができているので、おおむね順調に進展していると判断した。
SARM1の分解制御機構について更に解析を進めていく。SARM1の分解誘導に関与するアミノ酸部位を変化させたSARM1変異体やSARM1の分解誘導に関与する分子候補の過剰発現や発現抑制によって解析を行う。PDモデルマウスを用いてSARM1阻害による治療効果を検証していく。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
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