研究課題/領域番号 |
22K06887
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分48040:医化学関連
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
松本 早紀子 大阪公立大学, 大学院医学研究科, 講師 (00789654)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | ドーパミン作動性神経 / DOPA化αシヌクレイン / チロシンヒドロキシラーゼ / DOPA化 / オリゴマー / チロシンヒドロキシラーぜ / αシヌクレインオリゴマー / 神経変性 |
研究開始時の研究の概要 |
パーキンソン病は中脳黒質などのドーパミン作動性ニューロン選択的に神経変性を起こす疾患で、α-synucleinが原因遺伝子の一つとして同定されている。最近、我々は中脳黒質に特異的に発現するチロシンヒドロキシラーゼ(TH)がα-synucleinの136番目チロシン(Y136)をヒドロキシ化することを同定し、培養細胞やマウス脳内でもY136修飾α-synucleinが存在することが特異的抗体によって確認された。そこで本研究課題では、このα-synucleinY136翻訳後修飾がパーキンソン病におけるドーパミン作動性ニューロン選択的な神経変性を誘発する原因であるかどうかを明らかにする。
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研究実績の概要 |
パーキンソン病は中脳黒質などのドーパミン作動性ニューロンに神経変性を起こす疾患で、α-synuclein (αSyn)が凝集塊を形成することが原因とされている。しかしながら、脳全体のニューロンに発現するαSynがなぜドーパミン作動性神経により強い毒性を示すのかこれまで謎に包まれてきた。最近、我々は中脳黒質に特異的に発現するドーパミン合成酵素チロシンヒドロキシラーゼ(TH)が、αSynの136番目チロシンをDOPAに変換することを報告した。このDOPA化αSynは、αSynを過剰発現した培養細胞やマウス中脳黒質ニューロンで検出され、毒性の高いオリゴマーの形成を促進することが明らかになった。そこで本研究は、DOPA化αSynがパーキンソン病におけるドーパミン作動性ニューロン選択的な神経変性を誘発する原因であるかどうかを明らかにすることを目的とした。 当該年度では、昨年度に引き続いて、(1)マウス脳における毒性の解析、 (2)ドーパミン作動性神経障害機構解明のための初代培養条件検討、(3) DOPA化αSyn高感度検出のための抗体作製を進めた。(1)では、in vitroで形成したDOPA化αSynオリゴマーをマウス中脳黒質に投与し、6ヶ月後に野生型αSynを投与したマウスより有意に神経の脱落が観察された。次に、(2)では中脳黒質ニューロンの初代培養系を確立するために、THプロモーター制御下でGFPを発現するマウスを用いて調整方法を検討した。最後に(3)では、DOPA化αSynに特異的な化学修飾を施したものに対するモノクローナル抗体の作成を進め、従来よりも100倍程度親和性の高い有力な候補クローンの入手に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は当初の研究計画である、マウス脳におけるDOPA化αSyn オリゴマーの毒性の解析に加えて、ドーパミン作動性神経での障害機構解析のために必要な初代培養法の確立と、DOPA化αSynを高感度に検出する抗体の開発を進めた。マウスの投与実験は、昨年度から取り掛かったこともあり、投与後3~24週までの脳サンプル回収、切片作成、染色と解析を行うことができた。その結果、投与後12週以降で野生型αSynよりもDOPA化αSynオリゴマーが神経細胞死を強く誘導することが明らかとなり、概ね順調に計画が進んでいる。次に、昨年度行なった研究により、パーキンソン病患者脳ではDOPA化αSynがシナプスに蓄積していたことから、DOPA化αSynによるシナプス障害機構の研究を開始した。そのために、中脳黒質ニューロンの初代培養系の確立が必要となった。そこで、THプロモーター制御下でGFPを発現する遺伝子改変マウスを準備し、初代培養の条件検討を行なった。調整方法と培養液の組成、培養環境の検討を行い、安定して中脳黒質ニューロンを維持する条件を確立した。今後この細胞を用いて、DOPA化αSynの局在と相互作用タンパク質の決定を行うために、高感度かつ特異的にDOPA化αSynを検出できる抗体が必要になった。そこで、昨年度から取り掛かっていたこの高感度検出システムの開発も積極的に進めた。従来の我々が作成したDOPA化αSynの抗体は、酸素原子一つの違いを認識するために、親和性と特異性の両立が困難であった。そこで、昨年度確立したDOPA残基の効率的な化学修飾を用いて、マウスモノクローナル抗体の作成に着手した。その結果、従来のものより100倍ほど親和性の高い、DOPA化αSyn修飾体の特異的な抗体の作成に成功した。今後はこの抗体を用いて、DOPA化αSynのシナプス障害機構の解明に取り組む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、第一にこれまで進めてきたマウスのDOPA化αSyn投与実験について、経時的な神経脱落の推移をまとめて統計処理を行うことと、グリア細胞による炎症反応や酸化ストレス等の細胞障害のマーカー、凝集マーカーなどを用いて組織学的な神経変性の評価を進める。組織学的解析でDOPA化αSynの毒性が明らかになれば、当初の計画である行動実験の準備を進める。パーキンソン病様の運動障害がDOPA化αSynオリゴマー投与によってどの程度進行するかを野生型αSyn線維投与マウスと比較する。第二に、今回作成したDOPA化αSynの高感度抗体を用いて、中脳黒質ニューロンにおけるDOPA化αSynのシナプス障害の検討を行う。そのために、DOPA化αSynが相互作用するシナプスタンパク質の探索を進める。初代培養にαSynを強制発現させ、作成した抗体にて免疫沈降をおこなって、結合するシナプスタンパク質をウェスタンブロットにて調べる。またDOPA化αSynのDOPA残基を含むC末ペプチドを細胞へ導入し、シナプスからのドーパミンの分泌刺激を行なって、培養液中に分泌された量をELISAにて測定する。これにより、DOPA化αSynがシナプスにてドーパミン分泌を阻害するかどうかを明らかにする。以上の実験結果を学術論文としてまとめ、インパクトファクターの高い国際雑誌への投稿を目指す。本研究でDOPA化αSynを原因とするPD発症メカニズムを解明し、PDの原因治療を可能にする創薬研究へと発展させていきたい。
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